『しみじみ語り合うひととき』

 レンナは突き動かされるように、真ん中の通路を通って行き、尼僧の側まで来て立ち止まった。

 尼僧は顔に深い皴を刻んだ老尼で、ピンと伸びた背筋が威厳を感じさせた。

 老尼は手招きしてレンナを呼び寄せた。

「ここへおいで、一緒に話をしよう」

 レンナは老尼の厳しさの中にある優しさに呼応して、ゆっくり隣に来て左側に静かに腰かけた。

 おずおずとレンナは言った。

「……ウェンデス・ヌメン様でいらっしゃいますか?」

 ウェンデスは微笑んで頷いた。

「そうじゃよ。だが因果界では修法名で呼ばねばな」

「申し訳ありません!」

「ウム、緊張しているようだね」

「はいっ、だって修法者の中で一番偉くて立派な方ですもの」

 出会えた感激のまま、レンナは瞳を輝かせて言った。

「ほっほっほ、私はそなたと同じ修法者じゃよ。それ以上でも以下でもない。——よく頑張ってここまで来たね。そなたこそ立派だった。修法行はつらかったかね」

 レンナは小さい頃からの寂しさや人恋しさを思って、瞳を陰らせた。でも、次の瞬間、前よりももっと表情が輝いた。

「はい……でも、みんな条件は一緒でした。初めはわかりあえなかったけれど、本当は繋がっていたんです。みんなで悩んだことも乗り越えたことも、今では最高の思い出です」

「よい時を過ごしたようだね。その思い出はそなたのこれからの人生を明るく照らしてくれる太陽だ。いつでも見上げて、心の奥底まで届かせてごらん。大切なことを見失ったりしないように。そうすれば天も味方してくれる」

「はいっ、頑張ります!」

「ウム、まぁ、よくわかっていないようだがおいおいわかる。それにしても、太陽の峰サン・ピークを三回も踏破したというのは大したものだね。あそこは屈強な男でも音を上げるところだというのに。どうもそなたは丈夫にできているようだが、何か秘密があるのかね」 

「はい、私、あんなふうに自分の力だけで、何とか解決していくの大好きなんです。それに大自然の中で起きたり眠ったりするのって、とっても気持ちがいいんですもの。変なこともあるけど、何とかしなくちゃって思ったら頑張れます」

「おやおや……そんなに元気がよくては鬼神も寄りつかぬな。なるほど、さすがに”生命の樹の軌道線セフィロート・レイライン”と相性が最高なことだけはあるようじゃ」

「やっぱり変ですか? みんなが太陽の峰には絶対挑戦しないって言うんです。心も身体もおかしくなるからって。そんなことないのに……みんな誤解してると思います」

「そなたは第三層降霊界に往ったことがあるかね」

「いいえ。でもいいんです。降霊界に往ったらすることないですけど、因果界には山ほどありますもの。私、因果界をくまなく巡るのが夢なんです」

「ほっほっほっほ……」

 ウェンデスは体を折り曲げて笑った。

「することがないはよかったが、因果界をくまなく巡るのはよしなさい。因果界には物騒な人や場所も多い。これはそなたがしっかりと学ばなくてはならないことじゃ。そして、万世の秘法に関わる者、みんなが取り組んでいる難しい問題だということをきちんと理解しなさい」

「……はい」

 しゅんとなるレンナ。

 ウェンデスは胸にかけていた小さな十字架を外し、そっとレンナの手に渡した。

 きょとんとするレンナに、ウェンデスは言った。

「これはお守りじゃよ。何か大変なことがあったら、これに祈りなさい。魔女に十字架とは何ともミスマッチだが、そなたは正しき白魔女じゃ。神は心美しき者を常に守り導いている。神のご加護がありますように」

 ウェンデスは目を閉じて聖母像に祈った。

 レンナは……魔女と名付けられてから、神の栄光から遠ざかった気がしていたが、再び溢れ出した希望に、胸に十字架をかけ、つつましく祈りを捧げた。

 ウェンデスはそんなレンナを見て、何とも複雑な光と影を宿した娘だと思うのだった。

 ふと、レンナをこの世に産み落とした両親のことが頭をよぎった。
























 

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