【閲覧注意】9話 処刑日の朝(ルル視点)

 ~ご注意ください!~

 ※残酷な表現があります。

 不快に感じる可能性がある方は読むのをお控えください。









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 港町フィニーは昨日魔物が襲来しゅうらい

 他の大陸からやって来る見かけない渡り鳥は迷鳥めいちょうとは言うけれど、あの魔物もよそから海を渡ってやって来たってパパやジョルジョが話していた。

 そもそもフェーン大陸であそこまで大型の魔物がいるなんて信じられない。


 わたしは今日、パパから「学校を休みなさい」と言われている。

 そして、「ついてきなさい」とも。

 そう、わたしはパパの処刑命令しょけいめいれい執行しっこうについていくことになった。

 ちょっと前まで毎日一緒に学校へ通っていた子が今日、パパたちに処刑されるんだって。

 処刑されそうになったわたしには祝福「二つの傘」が目覚めた。

 もう、あの子の十歳の誕生日は過ぎたんだ。

 嬉しい?

 そうじゃない。

 怖い気持ちと、ドキドキ。

 変な感じ。


 港広場での処刑宣言の後、まっすぐマルチェラの家に行く。

 自分の家から、マルチェラの家はすぐ近く。

 パパが早速、玄関ドアを開ける。

「マイク!

 何故、ルルを連れて来た?」

 パパと同じ黒いコートを着ているジョルジョ・ガットがわたしを見下ろして、怒り始める。

 それをパパは無視した。

 ジョルジョの手には外国の貝殻チョコレートの空箱からばこが握りつぶされていた。


「やあ、アンブレラ小王国一の脅威マルチェラ・チェッラ。

 地下室から出ておいで!」

 呼ばれたマルチェラは地下室からヨロヨロ出て来た。

「安心しなさい。

 私のルルはアンブレラ小王国二番手の脅威きょういだった。

 君に明かすべきこと……つまり、君に教えておきたいことがあってね。

 君の家族は君を甘やかしてばかりだろ?」

「パパはわたしには甘いのよ!」とパパに抱き着く。

「パパ、あの子に話しても良いでしょ?」

「……」

 パパは何も言わないから、良いってことだわ。

 わたしは得意げになって話し始める。

「わたしのパパ、マイク・ヒルは選ばれた処刑人よ!

 貴方の十歳の誕生日が終わっちゃった、今日。

 祝福が目覚めない貴方はどうなると思う?」

 クスクス笑いが込み上げたとき、わたしはパパに突き飛ばされた。

「ルル、私は御前とは話さない。

 邪魔だ。

 それから、もう『パパ』と呼ばないでくれ」


 パパ、今何て言ったの?


「君のための墓穴には意味がある。

 霊園へ行こう」

「霊園にはもう行かない!」

「処刑命令執行まで時間はあるから、散歩させてやろうと思ったんだけれど。

 じゃあ、この家で最期を過ごさせてあげよう」

 パパはわたしを床に落ちたボールのようにすい上げて、マルチェラの家の外へ放り投げた。

 それでも、パパの声は大きくて、家の外まで聞こえてきた。


「アンブレラ小王国の歴代国王陛下は祝福が目覚め無い子どもを脅威きょういとみなしている。

 大規模自然災害の多いフェーン大陸では、食糧しょくりょうを含む全てのものを備蓄びちくしなければならない。

 異能力が目覚め無い子をいつまでも生かしたら、どうなる?

 その子どもが子どもを作ったら、どうなる?

 そのまた子どもが子どもを作ったら?

 だから、身体が出来上がる十歳の誕生日が良い区切くぎりになるんだ。

 祝福の遺伝系いでんけいおよび遺伝系は、人間に優劣ゆうれつをつけるから、議論ぎろんすらゆるされていない。

 でも、陛下は怖いんだ。

 仕方ないんだ」

 黙っていたマルチェラがパパに何かを聞いている。


「……今まで、ルルのことは娘扱いしていたのに。

 急に、ルルを物扱ものあつかいしたのはどうして?」



簡単かんたんな質問だ。

 それはね、ルルが生まれた日、ルルはルル・ヒルでは無かったのさ。

 この子どもは父親が誰なのか法的ほうてきにはっきりしていなかった、未婚みこんの母親がんだ子だった。

 まあ、恋人を妊娠にんしんさせた船乗りの船が沈んで行方不明のままだ。

 だから、私とルルの祝福の遺伝系つながりは一切無い」

「でも、おかしい。ブリッジ先生は『ルル・ヒル』って」

「それはルチアが入学前に事前に学校長へ要望を伝えていたからだ。

 事実婚じじつこん状態だから、娘はヒルせいを名乗らせるってね」


「どうして、海の男よりも海鳥みたいなするどくて分厚ぶあつくちばしがあるようなルチアと結婚したか。そう思ってる?

 その答えはね、無いんだよ」


「答えが無いのは、そもそも問題が成立しないからさ」


「私等は結婚していないんだよ。ちなみに、婚約もしていない。

 私が欲しかったのはマルチェラ・チェッラの監視役だ。

 私は処刑人だが、君のお父さんの『海鳥の眼』のような監視が出来る祝福では無い」


 パパがマルチェラに手枷てかせをつけて、家から出て来た。

 わたしはパパに話しかけようとするが、パパになかなか近づけない。

 そこへママがやって来た。

「ルル、今日からおばあちゃん家へ行って。

 自分で荷物をまとめて、一人で行くのよ」

 ママは大きな荷物を持っている。

「おばあちゃん家は灯台とうだいのほうだよ」

「そうね」

「わたしはパパの家に残る!」

「それは出来ないの!

 あの人はパパじゃ無いんだから!」

「……うううう」

 涙が止まらない。

 せっかく、マルチェラより早く祝福に目覚めたのに……。


「九歳十一か月で目覚めたのに、使えない子だったわね」


 ママ……。

 置いてかないで!


「貴方は今日から、ルル・リバーベッドよ」

「ママ、わたしもママと行く!」

「離しなさい!」

 ママに突き飛ばされた。

 どうして?

 わたしは処刑されないのに、パパと暮らせないの?

 ママに嫌われたの?

 わたしの何が悪いの?

 誰もわたしを助け起こしてくれない。

 皆、マルチェラ・チェッラしか見えていないんだ……。

 あの子は出来損ないなのに、皆が見てくれる。

 どうして……!


 わたしは芝生しばふにこすって汚れた服のまま、家に帰るしかなかった。

 でも、この家ももう、わたしの家じゃ無くなった。

 早く、早く、荷造りをしなくちゃ。

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