【閲覧注意】8話 貝殻坂の家(中ピノ視点)
~ご注意ください!~
※残酷な表現があります。
不快に感じる可能性がある方は読むのをお控えください。
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6月20日。
マルチェラ・チェッラ……。
アイツにとって大切な十歳の誕生日は終わってしまった。
19日の夜は終わり、20日の朝が来た。
だが、昨日は誕生日どころでも、マルチェラへの心配ばかりでも無かった。
昨日の魔物の襲来はマルチェラ海のほうからで、
でも、港湾警備隊や
僕の家は貝殻坂に面していて、僕の家より少し下あたりで魔物はぐったり倒れていた。
僕の家より下の家は外壁や屋根が壊れたり、焼け
魔物が通った
信じられる?
貝殻坂の途中、僕の家の前で、魔物は死んでいたんだ。
魔物の狩人たちは
でも、魔石と魔物の目玉(死後
他の解体部位については知らない。
フィニー港広場のほうから鐘の音。
リンリンリンリン。(少し間があって、)リーン。
リンリンリンリン。(少し間があって、)リーン。
この音は独特な知らせの意味を持つ。
「集会の知らせね」
一家の代表者あるいは家族全員でフィニー港広場へ集合する決まり。
僕の家は今、三人暮らし。
「朝食は済ませたし、広場へ出かけよう」
家を出て、坂道を下る。
だんだん、
港大通りを歩いていくだけで、大行列。
家を失った避難民も学校から坂道を下って下りて来る。
「チェッラ家は今日にも魔物の魔石と目玉を娘から遺産相続出来る」
「良かったな。
処刑はされても、町の英雄だ」
「出来損ないでも、最期は町民とチェッラ家の名誉を少しは回復しただろう」
「国王様も、処刑命令を
そんな話があちらこちらで聞こえて来る。
広場で朝市は開かれなかった。
朝市は町役場前に移動していたが、一時的に店じまいをしている。
集会中は販売・取引をしないのがマナーだ。
「地下室に閉じこめられていたマルチェラ・チェッラが魔物を倒したらしい」
「祝福が無いのに、どうやって?」
「フィノ翁さんの遺品でとどめを刺したって聞いたぞ」
集合場所が人であふれかえった。
朝8時。
集会の知らせからニ十分。
フィニー港広場に処刑人を名乗る、男たちが現れた。
「我々は処刑人である!」
良く見たら、ルル・ヒルが処刑人の一人に手を振っている。
「あの処刑人はルル・ヒルの父親だよ。
処刑人は国立霊園職員から選抜されるんだって」と小ピニーが
もう一人はマルチェラと仲が良い霊園職員だ。
確か、ジョルジョ……。
「あっちはジョルジョ・ガット。元船乗りから一か月足らずで、船が沈没。それからは霊園職員に転職したんだって!
霊園通りから、あの黒のコートを羽織って来たら、誰だって処刑人だってわかっちゃうよ!」
「大ピノはもう学校か?」
「ううん。マルチェラの家を見張ってたパパが処刑人に捕まっただろ?
今日からは休むんじゃないかな?
昨日は皆知らなかったし、学校に避難しなくちゃいけなかったけれど、今日からは皆と顔を合せたくないはずだよ」
小ピノの話によると、大ピノのパパはコールディー警察所属だけれど、フィニー町の小さな分署の平警官。
「祝福無しを国に売る」ために、チェッラ家の周りを
一昨日の夜、チェッラ家の窓ガラスや外壁に
大ピノのパパは彼等を
さらには、マルチェラの父親を黙らせるために祝福で攻撃をした。
これはものすごい問題だ。
祝福が無い子がいるチェッラ家でも、フィノ・チェッラの家族だったから問題になる。
霊園職員の家族を攻撃したってことで、
だから、大ピノはしばらく学校に来れないだろう。
「黙って、コソコソ処刑しないのは何で?」
「小王国は祝福が目覚めない子を密告した個人・団体に
歴代の国王陛下は祝福に目覚め無い子が嫌い。守りたくない」
「えー……十歳の子どもだよ?
かわいそうじゃない?」
「首を斧とかで?」
「
「首に縄をくくって、
「
大人たちもヒソヒソ話していた声がだんだん大きくなる。
そのとき、処刑人は右手を天高く突き上げた。
「アンブレラ小王国アレジオ国王陛下の御名において!
本日午前九時、マルチェラ・チェッラの処刑を執行することをここに宣言する!」
「小王様は昨日の何時にサインしたんだよ!!」
「昨日、午後五時にサインされた!」
「魔物を倒したことは知ってるはずだ……」
「祝福が目覚めていないなんて、嘘じゃないか?」
「町民、解散!!」
皆、解散していく。
「中ピノ、遅刻するよ。
学校へ行こう!」
「……休む」
「何で?」
「処刑の話を聞いて、むちゃくちゃ具合が悪くなったから、家帰って寝る!」
パパとママはやはり、一度家へ戻るつもりらしい。
僕のことが心配なんだろう。
登校まで付き添いたがってる。
でも、僕は自分の部屋に閉じこもることしか出来なかった。
「ピノ」
「……」
「マルチェラのこと、残念だったわね」
「まだ!……まだ、処刑は終わってない。
マルチェラの十歳の誕生日は終わっちゃったけど……」
「処刑前なの。
マルチェラの心を乱すような動揺を与えてはいけないわ」
「……逃げられないわ。
処刑人は……あの、ジョルジョ・ガットとマイク・ヒルだもの。
子どもに貝殻チョコレートをあんなに食べさせるなんて……」
「どういうこと?」
そうだ。
貝殻チョコレート。
マルチェラは放課後になると、いつも高級そうな外国のチョコレートを食べていた。
霊園で本当は遊んじゃいけないけれど、大ピノや小ピノと狩猟ごっこなんかしていた。
そのとき、マルチェラは職員館の近くでチョコレートを大事そうに食べていた。
僕等は霊園職員に怒られるのが嫌で、マルチェラのそばには近づけなかった。
「ジョルジョ・ガットはマルチェラに頻繁に特別なチョコレートを与えていたのよ。
強い度数のお酒入り。
今朝も、あの子はジョルジョ・ガットからチョコレートを受け取るはずよ」
「毒も薬も入っていないけれど、酩酊はしてしまう。
処刑される子はたいてい、食べるよう誘導されて来た。
パパの子ども時代よりも前からだ」
パパが「ときどき処刑はある」と暗に認めた瞬間だった。
「朝は家族のことも認識出来ないように、薬も使われていると思うわ。
子どもに与える量って難しいのよ。逆に興奮しちゃう子もいる」
そんなの許されるはずが無い。
「マルチェラがかわいそうだ!」
「この大陸では麦の一粒だって無駄には出来ない。
女の子のマルチェラが……女の人になって、子どもを産んじゃ、いけないの!」
僕は自分の部屋から飛び出した。
行くべき場所がある。
「ピノ、良く聞いて」
「行かなくちゃ!」
「ピノ。マルチェラと貴方はもう結婚出来なくなるの」
「結婚とか、そういうんじゃ無い!どういうこと?」
「マルチェラが結婚出来ないのよ!」
「子どもが出来なくなるってこと?」
「全ては国王陛下次第だ……かわいそうに……」とパパも声を詰まらせた。
「国籍を失って、無国籍なるの。
処刑されても、お墓を作ることを許されない」
「国立霊園じゃなくても、私立霊園なら、作れるし!
まだ、処刑されてない!
だから!だから、マルチェラは婆になってから、死ぬんだ!」
僕は家を出ていく。
「生きていれば、処刑されたことにならない」
「御前の祝福でどうにかなると思っているのか!
ピノ!」
パパが僕を羽交い絞めにする。
「パパ?」
「ピノ、具合が悪いなら学校を休んでも良い。
でも、ズル休みをして、どこかへ遊びに行くのは許されない」
「遊びじゃ無い……。
マルチェラは僕の家を守ってくれたんだ……」
「そうだとしても、国王陛下は処刑命令を撤回されない」
「それほど処刑とは重いのよ」
僕は何も出来ず、家の中へ戻された。
「……そんなに、処刑を見届けたいか?
処刑を足止めするなら、見せられない」
……。
「マルチェラと最期のお別れも無理だろうが、一目会うことは出来る」
そんなの、決まってる。
僕はマルチェラに会いに行く。
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