【閲覧注意】10話 棄民命令(前編)

 ~ご注意ください!~

 ※残酷な表現があります。

 不快に感じる可能性がある方は読むのをお控えください。









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 マルチェラ・チェッラこと、わたしに対する死刑執行の瞬間しゅんかんがやって来た。

「これより、アンブレラ小王国アレジオ国王陛下へいか御名みなにおいて、マルチェラ・チェッラのけい執行しっこうする」

 これから、いのちうばわれるのだろう……。

 こんな子どもの命を奪って、誰がほっとするのだろうか……。


棄民命令きみんめいれいにより、マルチェラ・チェッラはアンブレラ小王国より国外追放こくがいついほうされる。

 国籍こくせき財産ざいさんいえ剥奪はくだつする」


 優しいお父さんと、笑顔のお母さんはもう目の前にいない。

 目の前にいるのはただのおじさんと、おばさん。

 国籍も。

 お財布も。

 ヌイグルミも。

 お兄ちゃんもお姉ちゃんも弟も奪われた。

「家名と個人の名前を使うことは現時点をもってきんじられた。

 大罪人たいざいにんなんじに、棄民きみんあかしである黄色のころもを着せて、手枷てかせ拘束こうそくする」


 のまま。

 夏なのに、フードがついた黄色のコートを着せられた。

 どこかへ連れて行かれる。

 でも、おでかけでは無い。

 だから、くつはいつもの通学用の普通ふつうの靴。

 罪人を示す手枷をはめられて、両手首がずっしりする。

 おおいが無い荷馬車に乗せられる。


 荷馬車はすぐ霊園前に着いてしまう。

 何故、馬を止まらせたのか?

 ……霊園前には拘束された兄二人。

 そして、姉。

 夏休み前帰ってくる予定は無かったはずだ。

「アレ等は全て、処刑人が用意した人質だ。

 君が逃げれば、人質が身代わりで殺されてしまう」

「お兄ちゃん!お姉ちゃん!……何で」

 ジャラリと重い手枷がれる。


「何で、何で、何で!」


 アメッレお兄ちゃんとエリオお兄ちゃんの顔にはなぐられたあと

「コニース!!!!」

 姉はコニースを抱っこしていた。

「落ち着いて、マルチェラ。わたしたちは処刑人に逆らうつもりは無いの。

 大人しくしていれば、明日には解放される。

 コニースもお父さんとお母さんのところへ戻れるわ。

 何も心配しないで」


 馬が歩き出すと、荷馬車も動き出す。

 あんまりだ。

 こんなの、酷過ぎる……。


 貝殻坂の途中には中ピノとその家族が立っていた。

「フレッチャ家の前だ。

 速度を落としてやってくれ。

 ルル・リバーベッドが言っていた。

 ルル以外では『よくピノ・フレッチャと話していたこともあった』そうだな」

 馬はまた歩き始める。

 中ピノは何かを叫んでいたけれど、父親の手で口をふさがれていた。


 貝殻坂を下りると、六叉路ろくさろ環状交差点かんじょうこうさてん

 交差点の中をぐるぐる荷馬車が回って、自分の進みたい車道へ進んでいく。

 ゆずり合いの交差点。

 だけれど、わたしたちが乗っている特別な荷馬車を見つけ、警笛けいてき警鈴けいりんが他の馬車から鳴らされる。

 おかしい。

 皆、この荷馬車に幅寄はばよせして、かこんでしまう。

 港へ一直線で行けるみなと大通おおどおりにさしかかったのに、進行妨害しんこうぼうがいを受けた。

「処刑を遅らせることは国家反逆罪こっかはんぎゃくざいに問われるぞ!」

 マイク・ヒルが何度も怒鳴って、やっと他の馬車がはなれて行った。


 また、おかしい。

 港広場にはたくさんの町民が「英雄マルチェラ・チェッラ!」と叫んでいる。

 それに、あるはずの絞首刑台こうしゅけいだいが無い。

 そういった台が無いということは、これから斬首ざんしゅするのだろうか?

 ジョルジョさんはマイク・ヒルみたいに喋らない。

「ジョルジョさん。

 わたしは国籍を奪われて、斬首刑か絞首刑になるんじゃないの?」

「……いいや」

「ジョルジョ、俺が話す!」

「じゃあ、そうしてくれ……」

「御前はこれから、国外追放だ」

「でも、ジョルジョさんが掘った墓穴は?

 広場で処刑しないで国外追放したら、ジョルジョさんが掘った意味が無いじゃん」

「嗚呼、御前の処刑場は広場じゃ無いし。

 私たち処刑人は斬首も絞首もしない。

 残念だったな」

 広場を通り過ぎて、港まで来てしまった。

「よく見ろ。

 あれはなんだ?」

 マイク・ヒルが海の向こうを指差す。

「さあ……海から出っ張ってる岩?

 岩礁がんしょう?」

「岩礁よりも大きいが、島としてはかなり小さい。

 処刑のための『塩害島えんがいじま』だ」


「あの処刑場は、領土じゃ無い。

 国外だ」


「国外追放した大罪人を生かしておくわけが無いだろう。

 ただ、斬首刑も絞首刑も国の領土りょうどで行われなくちゃ、国王陛下の処刑命令の効力こうりょくが無い。

 国王陛下が国民を自分のワガママで、処刑なんて出来ない。

 それで考え出された処刑方法は監視出来る孤島ことうに国外追放して、衰弱死すいじゃくし餓死がし溺死できし災害死さいがいしを待つことにした」

 ベラベラ上機嫌じょうきげんで、マイク・ヒルが話を続けている。

「良かったな。御前の実父は港湾警備隊。

 港やマルチェラ海を見守る業務だ。

 御前が塩害島で死に、死体がゆっくりちていくのを監視出来る立場だ。

 やっと、安心出来るんだ。

 塩害島にいる御前には実父のほっとする顔は見えないがな。

 御前が早く朽ちることをいのるよ」

 小舟こぶね停泊ていはく場所近くで荷馬車が完全に停車した。

「着いたな。

 下りろ」

「ちょっと、待ってくれ!

 嬢ちゃんは俺たちの英雄だ。

 町を救ってくれてありがとうよ。

 きっと、フィノ翁が迎えに来てくれる。

 爺に会ったら、俺たちが悪かったと伝えてくれ」

 大罪人の護送を務めた荷馬車の御者のおじさんが最後に優しい言葉をかけてくれた。

「マイクも俺も、ここまでだ。

 あとは小舟の操舵そうだを船乗りに任せる」とジョルジョさんは手枷をはめたわたしを抱き上げて、荷馬車から下した。

「必ず塩害島へ捨てて来い。

 証として、塩害島の石で、その子どもを殴って、石を持ち帰って来い。

 そうすれば、残りの報酬ほうしゅうを渡そう」とマイク・ヒルは船乗りに前金まえきんを渡す。

「助かります!

 俺の親父の船は魔物のせいで、転覆して、修理が必要だし!

 修理費以上にもらえるなんて!

 賭博とばくにまた通えるよ!

 ありがとな、嬢ちゃん!」

 賭博カスの青年がニッコニコで小舟をこぐらしい。


 小舟が出港する。

 振り返ると、昨日燃えたり踏まれたりして崩れた漁師の家のガレキが見えた。

 子どもたちも大人の真似をして、ガレキを運び出している。

 同級生のステラの家はどこかはっきり知らない。

 あの子どもたちの中にステラはいるのだろうか?


「おー--い!!!

 嬢ちゃーーーん!!!!」


 小さな小舟がやって来る。

 昨日の狩人だ。

「狩人が海に何の用だよ!

 俺がこの子を島に届けるんだ!

 報酬は俺がひとめする!」

「船乗りの邪魔にしに来たんじゃない!

 無国籍になった嬢ちゃんに渡す物がある」

「昨日の戦利品せんりひんだ。

 この国の狩人の法では、『魔石と目玉はいかなる場合においても討伐者とうばつしゃ所有権しょゆうけんがある』のさ。

 たとえ、国籍や財産、家族を奪われても、この所有権は国王様にも奪えない。

 もちろん、賭博とばくかよいの船乗りが所有者から奪えば、両手首を切り落として、御前の家は火がはなたれる。

 きもめいじておけ」

「さあ、持って行け!

 俺は海が嫌いだ。

 さっさと、陸へ戻るよ。

 じゃあな!」

「わざわざ、ありがとうございます……」


 どんぶらこ。

 どんぶらこ。

 三十分か四十分はいだだろう。

 波に揺られながら、とうとうゴン!と何かに当たる。

 塩害島の岸、岩礁に軽くこすった。

「さあ、下船しろ……あ、石……石だ」

「じっとしてろよ……金のためだ!金のため!……」


 ゴツン。

 ひたいから血がれる。


 あかしのために、石で殴られた。

 賭博カスは急いで石を持って、小舟に戻って、港へ戻っていく。

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