【閲覧注意】6話 地下室

 ~ご注意ください!~

 ※残酷な表現があります。

 不快に感じる可能性がある方は読むのをお控えください。









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「出て来なさい」

 お母さんがわたしをんだ。

 誕生日の正午しょうごぎているみたい。

 はっきりした時間はわからない。

 まぶしいとは感じなかった一階。

 窓は全て板でふさがれている。

 お父さんとお母さんが、昨日の襲撃しゅうげき後片付あとかたづけを午前中に終わらせたんだ。

 お昼になって、やっとこの薄暗うすぐらい一階のリビングで昼食を食べれるのかな……。


 普通に窓があるってすごいことなんだ。

 それにしても、魔物まもの頻繁ひんぱんに出る地域ちいきでは無いフィニー。魔物は出なくても、大嵐おおあらしで窓が割れて、ドアはどこかに飛ばされる。

 大雨おおあめが降れば、洪水こうずいに。家と家がぶつかり合って、浜辺はまべや海まで流されていく。

 だからこそ、頑丈がんじょうな家づくりだけれど。

 投石とうせきのせいで、窓だけではなく外壁がいへきいたんでいる。

 でも、火をはなたれなくて良かった……。


「地下室にいなさい」と言われたのに、一階のリビングへ呼ばれたわたし。

 わたしからは話しかけられない雰囲気ふんいき

 いつも、七脚ななきゃくある椅子いす

 お父さん、お母さん、わたし、お兄ちゃんたち、お姉ちゃん。

 おじいちゃんが使っていた椅子はコニースがもう少し大きくなったときのために置いたままになっている。

 お父さんとお母さんは昼食を先に食べ始めている。

すわれ」

「わたしの椅子は?」

朝一番あさいちばんてた」

 ……。

「早く、床に座れ」

 わたしはお父さんの言うとおりにするしかなかった。

 床にはもう窓ガラスはらばっていないけれど、夏なのにひんやり冷たい。


 お父さんはさっきまでブリッジ先生と何かヒソヒソ話していた。

「もう、御前は学校へ行かなくて良いことになった」

「学校へ行かなくて良いってどういうこと?」

「チェリオ!」とお母さんはそれはあんまりだと怒る。

「マリーナ、これから私たちは末息子すえむすこのコニースの養育よういくつとめなければならない」

 お父さんがわたしを見下ろしている。

「もう、御前は手遅ておくれだそうだ。だから、学校で何かを勉強しても意味が無い」

「じゃあ、働くってこと?」

「いいや、祝福が無い者は存在しない。

 食べ物は用意よういした。

 もう、地下室へ行け」

 はしのパンが床に一枚捨てられる。

「お父さん、待って!」

「お父さんもつらいの。

 そのパンを感謝かんしゃして拾えないの?

 早く、地下室へ戻りなさい」とお母さんはわたしを見ずにコニースを抱きしめている。

 コニースは赤ちゃんだから、何もわからない。

 わたしを見下ろして、きょとんとしている。

「何で?わたしが片付けを手伝わなかったから?」

「もう、マルチェラは外に出てはいけないの。町の誰とも話しちゃいけないし、遊んじゃいけない」

 わたしはパンを拾って、地下室へ戻るしかなかった。


 地下室のドアを開けると、くらだけれど手すり付きの階段がある。

 十六段。

 本当は大嵐のときに家が吹き飛ばされても、地下室で避難生活が送れるように作られた空間くうかん

 階段を下って、おじいちゃんのソファーにこしかける。


 パンをみしめていると、地下室の換気口かんきこうから水がジャージャー流れて来る。

 逆流するような水のかんは無い。

 もちろん、男子トイレ故障のときみたいなトイレの臭いはしない。

 地下室を作っても問題無い。

 だから、この家の周囲には大きな地下水脈ちかすいみゃくなんて無い。

 誰かがわざと水を流している?

「地下室に水を流さないでください!

 マルチェラが中にいるんです!」


「水死させてやるんだ」


 水死?

 誰かがおかしなことを叫んでいる。

「罪も無い子どもを殺そうとするなんて!」

「町の皆でチェッラ夫妻の出来損ないの子どもを片付けてやるんだよ。

 アンタ等親には子殺しなんて、無理だろう?」

「無理も何も、地下室があるから、その必要はありません!」

 お母さんが怒鳴っている。

 コニースがびっくりして泣き出した。

「ずっと地下室で軟禁するのか?

 御前等が死んだら、コニースが面倒を見るのか?」

「上の三人の子どもはそれが嫌で、家を出て、フィニー以外で暮らさざるを得なかったんだろ」

「たった一人の犠牲で、また家族六人が幸せにフィニーで暮らせるようになる」

 男の人たちが家の中にドカドカ入って来る靴音くつおと

「それに、この国で祝福が目覚めなかった子は法的に存在を認められない。

 処刑人しょけいにんに殺されるんだ。

 チェリオ。

 港湾警備隊なら、その処刑方法がむごいことを一番知ってるはずだ!」

「悪物よりも、この大陸は自然災害しぜんさいがいのほうがよっぽど恐ろしい」

農作物のうさくもつが駄目になれば、皆がえる」

「始祖様がまもるにあたいしない子だと判断されたのだろう。

 処分するしか無い」


「お待ちなさい!

『あの子』の学籍は暫定的ざんていてきにまだフィニー学校にあり、わたしは『あの子』の担任教師たんにんきょうしです」

 ……?

 ブリッジ先生は午前中に一度家庭訪問して、お父さんに追い返されたはず。

 どうして、戻って来たんだろう?

 学校で授業をしなくて良いの?

くにから、『その子を追放する』。そういう知らせは町にまだ無い。

 今日はまだ十歳の誕生日だ。

 国に先をされる前に済ませるぞ!

 俺たちは先に、町からあの子を追放する!」

「ブリッジ先生。

 先生の教え子では出来損できそこないが初めてらしいが、教育業界きょういくぎょうかいではめずらしくない。

 自分の教え子を選別せんべつしているんだ」

「国に見殺しにされるよりも、町の仲間が処分してやれるほうが良いに決まっている!

 さあ、マルチェラを渡せ!」

 大人たちが言い合いをしている。

 不法侵入者ふほうしんにゅうしゃに対して、お父さんもお母さんは家から出ていくよう注意するだけ。


「わたしはだまされないわ。

 彼等はマルチェラ・チェッラを殺さない」


 この声は女の子の声。

 お金持ちだけれど、学校をサボる子じゃ無い。

 ジュリアン、どうして来たの……。

処刑人しょけいにんの選抜は終わっている。

 処刑人が広場で行う処刑宣言は明日の朝。

 逆算ぎゃくさんしてみなさい。

 明日、この町で処刑が行われる。

 じゃあ、今日は何をする日?

 貴方たちの誰かが密告したら、どんなに早くても明後日以降の処刑にずれこむ。

 国王陛下こくおうへいかは誕生日が一日過ぎるだけでも許さないの。

 すでに、国王陛下は処刑命令の公文書こうぶんしょにサインしていなくちゃいけないのよ。

 もう、密告しても国王陛下からの報酬ほうしゅうはもらえないわ」


「御前はロープの家の子か!」

「静かにしろ!」

「処刑人は国王陛下の命令を受けて、処刑をする。

 今回、『棄民候補きみんこうほを国に申告する町』が『国の治安維持ちあんいじ貢献こうけんしたこと』に対して、国王陛下から恩恵おんけいを受けることになっているわ」

「誰が言ったのかしら?

 貴方たち親が国に申告すれば、親に報酬がわたるの?

 ブリッジ先生が申告すれば、ブリッジ先生個人に報酬が?

 町長ちょうちょうが申告すれば、町長がうるう?

 町民ちょうみんたばになって申告すれば、町が潤う?」


「『密告なんて、最高』!

 そう考えたのかもしれないけれど、処刑命令は公文書。

 公文書作成にれたフィニーの町役場しか不可能ふかのうなのよ」


かね亡者もうじゃが!」

「ロープ家は商才しょうさおがあっただけ。貴方たちのほうが酷いわ。『遺体いたいじゃ、祝福を示す光晶こうしょうが本当に無いかどうかの確認が出来ない』でしょ?」

「町役場の職員がきちんと、誤解ごかいを解くべきよ。

 処刑は娯楽ごらく見世物みせものなの?

 いいえ、違うわ。

 処刑はアンブレラ小王国の公務よ」

「マルチェラより気味きみが悪い!」

「ジュリアン・ロープ、学校を早退そうたいするなんて何を考えているんです!」

「……ふふふ、皆さん。

 窓を……あら、この家は窓が板でふさがれているのね。

 だから、何も知らないのかしら?」

 ジュリアンは地下室のドアをおさえている、小さなテーブルを移動させているらしい。

「皆さんはドアの外に出て、よく確認したら?

 わたし、この霊園通りに来るまで、何度もかえって港のほうを確認かくにんしていたの。

 わたしはもう見飽みあきたわ」


 急に一階が静かになった。

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