【閲覧注意】5話 宿命の日~十歳のお誕生日、おめでとう!~

 ~ご注意ください!~

 ※残酷な表現があります。

 不快に感じる可能性がある方は読むのをお控えください。









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 6月19日午前0時5分。

 夫婦ふうふの寝室の窓はなんとか板でふさいで、窓ガラスもバケツへてた。

「……地下室へ行ってみる」

「チェリオは休んでいて。母親のわたしが行って来るわ」

「いや、俺もたしかめたい。

 もし、駄目だめだったら、コニースは一階でかせる」

「大丈夫よ。

 こんなに窓ガラスも割れて、あの子だってショックを受けたわ。

 きっと、始祖様が祝福をめざめさせてくれているわ」

 地下室のドアをゆっくり開いて、内階段うちかいだんを下っていく。

 コニースとマルチェラは眠っている。

 二人とも、祝福を示す光晶は浮かび上がらない。

 あの悪人の警官ですら、祝福を悪用して、光晶こうしょうも彼等の目の前に浮かび上がっていた。

「……そんな……」

「一階へ戻ろう。さあ」

 わたしはコニースを静かに抱き上げる。

 先にわたしたちが一階へ上がると、夫はゆっくり地下室のドアを閉めた。

 さらに、小さなテーブルをドアに押しつけて置いた。


 ●○●○●○●


 6月19日午前8時20分。

 フィニー学校の鐘が遠くで聞こえる。

 マルチェラ・チェッラことわたしの、十歳の誕生日の朝が来た。

 寝坊してしまった。

 あれ?

 一緒に寝ていたコニースはいなくなっていた。

 一階からコニースの笑い声が聞こえる。

 わたしは地下室の内階段をのぼり、ドアをいじる。

 地下室のドアはかぎをしていないのに、開かなくなっていた。

 ドアの前に何か物を置いてふさいでいる。


 お父さんは仕事を休んだのだろう。

 家中いえじゅう窓枠まどわくに板をはりつけていく。

 くぎをあてて、金槌かなづちでトントン手早てばや補強ほきょうして、窓枠をふさいでしまう。

 お母さんはお祝いの料理も作らず、割れた窓ガラスの破片を一生懸命かき集めている。



 わたしは地下室に閉じこめられたまま。



 そこへ近所の人たちが朝の挨拶をしにやって来る。

「おはよう。

 あら、どうしたのかしら?」

「ねえ、マルチェラの祝福は何だったのかしら?」

「まだ、誕生日が終わるまで何時間もあるわよ」

「そうね、まだ時間はあるもの」

 お父さんは何も答えようとしない。

「奥様が悪物あくぶつとの間にもうけた不義の子じゃないかしら?

 ご主人も大変ね」

「作業がありますので、失礼」と物置に何か物を取りに行ってしまった。

 お父さんが戻って来ても、近所の人たちは退散たいさんしない。



「まあ、ひどい窓……昨晩、何かありました?」



 聞き覚えがある声。

 でも、ありえない。

 今は授業中じゅぎょうちゅう

 どうして、ブリッジ先生の声がするんだろう?

「……」

「フィニー学校の六年生を教えております、教師のブリッジです」

 ほら、やっぱり。

 先生がどうして、家庭訪問かていほうもん

「今日が『あの子』の誕生日なのは存じております。けれど、『あの子』だけ無断欠席むだんけっせき感心かんしんしませんわ」

「お父様、作業さぎょうの手を休ませていただけません?

 こうして、わざわざ、こちらが家庭訪問に出向でむいているのですよ」

 お父さんは金槌を地面じめんほうげた。

「頭の良い先生なら、わかるでしょう。

 窓割りは町の誰かがやったんですよ。

 おかげで、マルチェラの誕生日は台無だいなしです」

「それじゃあ、『あの子』がケガでもしましたか?」

「娘がケガをしていないと、都合つごうが悪いんですか?」

「いえ……そんなことはありません」

 ブリッジ先生は歯切はぎれが悪くなっていく。

 そうこうしているうちに、ブリッジ先生もヒステリーを発揮はっきする。


「はっきりおっしゃってください!

『あの子』の祝福は何でした!」


 お父さんもお父さんで先生に言い返す。

「『あの子』と貴方が呼ぶ、私どもの子にはマルチェラという名前があります」

「はぐらかすのはおやめなさい!」

「家の襲撃しゅうげき心配しんぱいしていない。

 マルチェラのことも心配していない。

 マルチェラの祝福しか頭に無いんですね。

 どうぞ、お帰りください!」


 ブリッジ先生。

 わたしはここです。

 お願い。

 行かないで。

 わたしも、学校へ行きたい!


 どうしてだろう。

 こんなに先生と話したいことがあるなんて……。

 いつも、こわそうな先生。

 わたしのほうから話しかけるなんて、しなかったと思う。

 今はお父さんにも、お母さんにも、話しかけられない。

 わたしはもう、駄目なのかもしれない。


 ちゅうピノのメッセージカードはベッドのそばに置いたままだった。

 くらで読めない。

 けれど、筆圧ひつあつの強いピノの字のくぼみはわかる。


「『マルチェラ』……『お』『め』『で』『と』『う』……『中ピノ』」


 優しくでると、鉛筆えんぴつにおいが立った。


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