4話 宿命の前夜~祝福が目覚めない子~

 ~ご注意ください!~

 ※残酷な表現があります。

 不快に感じる可能性がある方は読むのをお控えください。









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 6月18日の夜。

 二人の兄と、姉のフィニッタは実家に帰って来ない。

 やって来たのは、誕生日を祝うメッセージカード。


『どんな祝福が目覚めたかな?

 マルチェラは必ず十歳の誕生日までに目覚めるから、心配はしていない。

 夏休みには必ずフィニーに飛んで帰るよ。 アメッレ』


『マルチェラへ

 十歳の誕生日おめでとう!

 母さんも父さんも心配し過ぎてるけど、祝福に目覚めてる頃だろ?

 祝福が目覚めたね。

 でも、一年後にはもう専門職評議会の審査を受けて、適性のあった専門職見習いになるんだ。

 これからも、学校の先生の言うことをよく聞いて、勉強頑張るんだよ。 エリオより』


『マルチェラの祝福の目覚めに立ち会えないのが本当に残念だわ!

 わたしみたいに、ときどき煩わしいと感じる祝福でも大丈夫。

 きちんと、祝福をコントロール出来るようになるわ。慌てないで。

 それにしても、十歳の誕生日プレゼントも直接渡せないなんて、これだから夏の繁忙期はんぼうきの商会は大変よ!

 もし、わたしの真似をして商会従業員しょうかいじゅうぎょういんを目指すつもりなら、やめておきなさいね!

 みじかい夏休みにはそっちにまるわ!

 ディクセルのお菓子はそのときにお土産みやげで買って帰ろうと思ってるの!

 もう、少し待っててよ!

 いっぱいいっぱいおめでとう! フィニッタ』


 いつも声をかけてくれて、優しくて、元気な三人。

 春祭で帰省したときにも、「6月19日には帰省しない。夏休みに戻る」と両親に話していた。

 わたしに変なプレッシャーを与えないため。


 今日の学校はトイレ故障騒ぎのせいで午前授業だった。

 そのせいで、たくさん宿題が出るかと思ったら、ブリッジ先生は「明日はマルチェラ・チェッラの十歳の誕生日。祝福の目覚めのお祝いもあって、それどころじゃないから。六年生は全員、宿題は無し」と不気味な笑顔で宣言せんげんして、下校になった。

 家に帰って来てから、「調子はどう?」とお母さんが一時間に何度もわたしの様子を確認かくにんしている。

 それがわずらわしい。

 宿題も無いし、夕食の後片付けもしなくて良かった。

 夕食後に二階の自分の部屋に閉じこもっても、部屋のドアを開けてまでお母さんが声をかけてくる。

「……別に」

「変わった感じはある?祝福が目覚めるとき、必ずわかるのよ。自分の目の前に光る結晶けっしょういたみたいなものが出現しゅつげんするから」

 一階から弟のぐずる声が聞こえる。

「コニースが下で泣いているよ」

「やっぱり、今夜はお母さんと一緒に寝る?」

「ううん。自分の部屋で寝る」

「そうそう、ピノからカードを渡してくれって。

 貴方たち、仲良かったの?

 それじゃあ、お休みなさい」


 早々届いた同級生からのメッセージカード。


『マルチェラ、十歳の誕生日おめでとう。 中ピノ』


「……!」

 窓の向こうで、男の子の叫ぶ声がした。

 誰かと言い争ってる。

「マルチェラ!窓から離れろ!!!!!」

 あ、中ピノの声だ。


 カーテンを閉めているのに、窓ガラスがれる音。

 窓辺にくっつけるように、机を置いていたから。

 机の上に並べたままにしておいた兄姉たちからの誕生日プレゼントに、窓ガラスの破片はへんが降りそそいだ。

 咄嗟に、わたしは中ピノのメッセージカードを抱きしめて部屋のドアにへばりついた。

 でも、わたしだけじゃない。

 わたしの部屋だけじゃない。

 窓ガラスが割れる音が止まらない。


「誰だ!」

 お父さんがいきおい良く玄関から飛び出していったみたい。

 お母さんの階段を駆け上がる足音。

 コニースを抱きしめているから、足取りはかろやかじゃない。

「マルチェラ!」

「お母さん……コニース……」

 お母さんは部屋の明かりを消して、急いでわたしも連れて一番安全な地下室へ。

「ガラスに気をつけて」

 ここは霊園職員だったおじいちゃんが亡くなる前まで住んでいた部屋だった。

「大丈夫よ。もう、大丈夫……誰がこんな酷いことを……まさか、ルル?……そんなはず無いわよね……」


 夜勤やきんの警官が二名やって来た。

「コールディー警察のフルスタ」

「同じくー、コールディー警察のランデッロです。あー、酷いなー」

 あ、大ピノのお父さんの声だ。

 警官だけれど、あののんびりとしている声の抑揚よくようのつけ具合。

 独特どくとくだ。

「窓は全部割られましたね?」

「犯人たちは霊園のほうへ逃げて行きました」

「追いかけなかったんですかー?」

「追いかけるのは警察の仕事でしょう。家族を見捨みすてろと?」

「アレが家族ですか?」

「おい!」

「噂のあの子でしょー?

 祝福が目覚めないままの子。

 まあー、町の過激かげきな奴がやったとは思えませんねー。

 善良ぜんりょうな町民が、ゴミを駆除くじょしようとしたんでしょー?」

「善良な町民が他人の家の全ての窓を割っていくのか!」

 警官二人とお父さんが言い合っている。

「おいおい、海の警備隊が陸の警察に命令するのか!」

「【風檻かぜおり】!!」

「【感覚過敏かんかくかびん】!!」

 お父さんのうめき声。

 二人の警官が対人攻撃たいじんこうげきで、祝福を悪用あくようした。


「生きたまま焼かれたくなかったら、その汚い口を閉じろ!」


 突然、ジョルジョさんの声に、警官があわててペコペコ謝罪し始めたようだ。

「国立霊園職員の貴方に反抗するなんて気持ちはありませんよ。誤解です。誤解。

 ちょっと、国にとって危険な子どもの家を警戒中けいかいちゅうに、たまたま器物損壊きぶつそんかいが発生しただけです」

「コールディー警察は犯罪を助長じょちょうし、扇動せんどうし、犯罪見物はんざいけんぶつをして楽しんでいたということだな。

 おい、コイツ等も監獄かんごくへ連れて行くぞ!」

 ジョルジョさんが仲間の霊園職員に呼びかけた。

「そんなー!我々、コールディー警察は公務中こうむちゅうですよー!」


フィノ・チェッラ国立霊園職員およびチェッラ家にあだなす愚者ぐしゃどもだ。

 フルスタおよびランデッロの警官両名りょうめいも、ヴァッレ監獄へ連れて行け」


「あの粉々爺こなごなじいさんは死んだじゃないか!」

 警官はなおも抵抗を続けている。

「死んだとしても、フィノじいとむらった遺族は健在だ」

「陸だか、海だか、知らんが」

「ただちに我々警察だけは解放しろ!」


「御前等は処刑人しょけいにんじゃ無いだろ?」


 その言葉の後、誰も話さなくなった。

 地下室の換気口かんきこうを通して聞こえたのは、大人の男たちの息遣いきづかいだけだった。


 お父さんが家に戻って来て、お母さんが地下室から飛び出して、飛びついた。

「マルチェラ、もう大丈夫だ。おいで」

「駄目よ!」

 わたしはお母さんに叱られて、地下室から出した左足をひっこめる。

「マルチェラ。おじいちゃんの部屋に戻りなさい」

 こんなことがあったのに、明日は来てしまう。

 十歳の誕生日が始まっていないのに、誕生日が終わった後のことばかりが気になる。

 もしも、祝福に目覚めなかったら……。

 わたしだけ逃げたら、コニースはどうなっちゃうんだろう……。

 生れたとき、初めて下の弟が出来た。

「本当は妹が良かった~」なんてお母さんとお父さんに文句を言ったけど、本当に可愛い。

 ミルクのときも、オムツ交換が必要なときも、一人にされてさびしいときも。

 大きな声で泣いていた。

 今はおじいちゃんが使っていたベッドですやすや眠っている。

 ごめんね、コニース。

 駄目なお姉ちゃんを許して。

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