大文字伝子の休日6

クライングフリーマン

大文字伝子の休日6

図書館。伝子と高遠は並んで、調べ物をしている。「終わったか?」「はい。」

二人が並んで出ようとすると、ひかると出くわした。「何だ、ひかる君。来てたの?」

「はい。喫茶店、入りませんか?隣の。」3人は連れだって入った。

「ひかる君、何にする?」「伝子さん、質問が違いますよ。ひかる君、君は何食べたいの?」と高遠が横から質問した。「ばれたか。ここのチョコパフェ、おいしいんですよ。」

高遠はコーヒー、伝子はアイスレモンティー、ひかるはチョコパフェを注文した。

「気が付きました?大文字さん。」「以前、物部の店にいたウェイターだな。髭生やしているが、分かる。」「副部長には言わない方がいいですよ、伝子さん。」「駆け落ちって話がどうもしっくり来なかったが、引き抜きがあったのか。」

「お邪魔していいかしら、おねえさま・・・おねえちゃん。」「いいかしら、ってもう座っているじゃないか。」

先ほどのウエィターがやって来た。「アイスレモンティー。」と伝子は注文した。ウエイターが行った後、「私、注文してない。」「嫌なら私が2杯飲む。」「嫌じゃ無いです。」

「あ。ここのウエイター。」「それなら、僕が今言ったよ。」「物部には言わない。辰巳君も頑張っているし。だよな、学。」「はい。」

「で、今日のお悩み相談は?ひかる君をだしにするなよ。引っ越しのことなら、青山さんから聞いてるぞ。愛宕は警察住宅に入りたがっている。しかし、みちるはプライベートが無くなるから嫌だ。そんなとこだろう。」

ひかるが突然笑い出した。「先周りされちゃった。」高遠も笑った。「おじさんは何て言ってるの、みちるちゃん。署長なんだって?おじさんは。」

「え?そうだったの?じゃ、おじさんに一軒家買って貰いなよ、みちるねえちゃん。」

「みちるねえちゃん?そう呼ばせているのか?みちる。」「はい。ごめんなさい。」「謝る必要はない。だが、署長に任せるのも一つの手だ。」と伝子は言った。

「それはねえ・・・ねえ、高遠さん。」「うん、プライドだね、愛宕さんの。」ひかると高遠は同調した。

「とにかく、自分たちで決めるべきことだ。何か表が騒がしいな。」高遠が料金を払っている間に3人は表に出た。「泥棒!」と老婦人がへたり込んでいる。どうやら、ひったくりのようだ。「あ、あっちだ。」とひかるが犯人の逃げた方角を指した。みちるが猛烈な勢いで走った。犯人は曲がり角を曲がったが、途端に空中を飛んだ。伝子が投げたのだ。

パトカーが走ってきて停車した。「はい、緊急逮捕ね、愛宕君。」と青山警部補は言い、伝子達に礼を言った。「ありがとうございます。高遠さん。大文字さん。」

愛宕はみちるをチラ見して、パトカーに犯人を乗せた。青山は肩をすくめて見せて、パトカーに乗った。パトカーは走り去った。

「何で追いついて追い越せたの、おねえちゃん。」と言うみちるに向かって、「それはね。」と高遠が言い、高遠とひかるは声を合わせて「ワンダーウーマンだから。」

伝子のマンション。「あの辺は抜け道が沢山あるんだよ。それに、あのひったくりは後ろを確かめながら走っていただろ?」と伝子がみちるに言った。「でも・・・。」

「いいじゃん。みちるちゃんが捕まえた。めでたしめでたし。」と依田が言った。

「ヨーダの言う通り。悩む程の事はない。」と高遠は言った。

「で、おばあちゃんのバッグ、取り戻せたの?」と栞が質問をした。「取り戻せました。」「良かった良かった。おばあちゃんに感謝されたんじゃない?」と福本が言うと、「まあ、ね。非番とは言え、警察官ですから、って言ったら特にね。」とみちるは笑った。

藤井が祥子と蘭を伴って、隣家からおはぎを持ってきた。「おはぎだあ。僕、大好きなんです。」と山城が言った。「出来たてが特においしいよね。」と言いながら、南原が服部と入って来た。

EITOベースからの画面が映った。「お。おはぎかあ。いいなあ。」と画面の向こうのあつこが言った。

「どうやら、現総理は関与していなかったらしいわ。だから、阿倍野元総理の死はショックだったらしい。あの秘書は『親分の為』って、自分を正当化していたけど、隣国に弱み握られて傀儡になっていたのよ。で、襲われても死ぬとは思わなかった。」

「情けない総理秘書だな。」と、伝子は呆れた。

「あの男が撃ったのはダミーで、ヒットマンが他にいたって言う憶測言う人もいるけれど、改造銃なのは事実。ある宗教に絡んで恨んでいたって言うのは嘘。隣国に言いなりになっているのは元秘書で、自分は力を貸してやったんだ、って遂に白状したわ。」と言うあつこに「よく落とせたわね。」とみちるは言った。

「簡単よ。ワンダーウーマンの活躍する写真を見せただけ。同じ目に遭いたいか?って聞いたらイ、チ、コ、ロ。」皆は大笑いした。

「現総理も『次はあなたの殺される番』だったかもって言ったら、青ざめていたそうよ。」

「筒井さんは?」と高遠があつこに尋ねると、「もういない。なぎさが復帰したから。選挙の次の日、退院。逃げ出す位なら入院の必要はないだろうって。先生が笑ってたわ。じゃあね。」画面は消えた。

チャイムが鳴った。愛宕と青山だった。「高遠さん、依田さん、福本さん。」と愛宕が呼びかけた。3人が寄ってくると、「今度の交通安全教室なんですけど、誘拐防止促進をテーマにして貰っていいですか?」「どういうことです?」と高遠が尋ねると、「『知らないおじさん』についてっちゃダメってもう通用しないでしょ。」と愛宕は応えた。

「ああ。顔なじみになっていると安心しちゃうんだよね。」と依田が言った。

「じゃ、高遠、台本新しいの書いてよ。割り振りして稽古するから。」と福本が言った。「オッケー。」

「それと、もう一つ。高齢者詐欺防止教室の代わりに、高齢者ひったくり防止教室」にしたいんです。今朝も一件、あったでしょ。」と、みちるをチラ見する二人。

「ああ、分かりました。そっちを先に作りましょう。いい?ヨーダ、福本。出来たらメールで送るよ。」福本と依田は「了解。」と応えた。

奥の部屋にあるランプが点滅した。「入室者あり。橘なぎさです。」というアナウンスが流れた。そいて、奥の部屋の明かりが点き、「こんにちはー。」というなぎさの声が聞こえた。驚いた依田達が部屋の前に移動した。半ドア状態にして、なぎさが顔を出した。

「おねえさま。靴は、こっちの靴箱でいいかしら?」と言うなぎさに「いいよ。ふうん。そんな仕掛けか。」と伝子は言った。

「そんな仕掛けか、って先輩知らなかったんですか?」と福本が言った。「この間の工事の後、確かめたんじゃなかったんですか?」「外からは出入りしなかったからな。生体認証の自動ドアとは聞いていたが。そう言えば試着室があるんだ。慶子が持って来た衣装、なぎさに着せてみな。小柄だから、少し余るかも知れないが。あ。今から男子禁制な。女子だけ集合。」

そう聞いて、蘭、祥子、慶子、みちる、栞、藤井が伝子と共に入った。

「男子禁制だって、さ。」「聞こえたぞ、ヨーダ。不服なら代償が怖いぞ。」と伝子が奥から怒鳴った。

「分かってまーっす!」と大きな声で依田は返した。「お前は日頃の行いが悪いからだよ。」と物部が言った。

「あ、そいえば、この間、祥子ちゃんの妊娠分かったんだって?」と高遠が言った。

「うん。あれからよく食うよお。このおはぎも前菜程度だな。」と福本が言った。

「あ。気を遣わなくていいよ、みんな。僕と伝子さんだって、いつかは授かるさ。明後日、定期検診なんだ。」と高遠は弱々しく笑った。

「よおし。お披露目だ。」と伝子はドアを全開にしてなぎさを入場させた。

「花嫁衣装だ!」と山城はつい叫んだ。「綺麗だなあ。」と服部が言った。

「でも、一佐は・・・。」と南原が言いかけた。「いいのよ、南原さん。おねえさまは、いつか、いつか・・・。」と言って嗚咽した。

「いいから、いいから。ここにいる男子は言わなくても分かっているわ。」と藤井が背中をさすった。「じゃあ、箱にしまっておこうか。貸衣装だし。ホントは私のだし。」と、慶子はおどけて言った。

15分後。もう着替えた筈なのに、女子は出て来ない。伝子だけが出てきた。

「今から女子会な。男子は帰っていいよ、学以外は。」「僕は住人ですけどね。」

「じゃあ、おじゃましました。高遠、台本頼むな。」と福本が言った。「うん。ヨーダと福本にはメールで送るよ。愛宕さんには、パンフレット持って来た時に渡す。」と高遠が返した。

1時間後。チャイムが鳴った。高遠が出ると、久保田管理官が立っていた。

「高遠君、煎餅ある?」「ネットでも買えますよ。」「買ってるけど、品薄らしい。理事官がお気に入りでね。この頃は副総監や陸将まで食べてる。なんか賑やかだね。」

高遠が煎餅の袋を渡しながら言った。「女子会ですって。多分、男子の悪口会ですね。」

「触らぬ神に・・・かな?」「はい。」「じゃ、帰るわ。あ、料金・・・。」「いいですよ。」

更に1時間後。チャイムが鳴った。「あらあ。随分かしましいわねえ。」「しー。聞こえますよ、編集長。女子会ですって。実は橘一佐が現場復帰したんですよ。」「え?半年療養って言ってなかった?まだ一ヶ月位よ。」「伝子さんの周りの女子は皆強いんですよ。」

「なるほど。それで男子がいないのね、高遠ちゃん以外は。」「はい。原稿。伝子さんの原稿は僕の下訳が出来たから、明日中には。」「分かったわ。お煎餅ある?」「売り切れです。女子会の方にもなし。」

「了解。楽しみに待っているわ。で、高遠ちゃんは今何してんの?」という編集長に「交通安全教室の台本。」と高遠は説明した。

「まあ、大変ね。じゃ、頑張って。」と編集長は出て行った。

30分後。家の固定電話が鳴った。「学、出てえ。」と奥から伝子が言った。

「はい。」「大乗寺か。」「間違い電話ですよ。」と言って、高遠は切った。

「あ、おでんの仕込みしなくちゃ。」

―完―


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大文字伝子の休日6 クライングフリーマン @dansan01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ