第14話

俺は、今日も運動場でトレーニングしようとしていたが、運動場にリラ以外の見たことがない人達が立っていた。


「アレス様、今日からこの人たちと一緒に訓練をしまス。」


巨漢の男に身長がちっちゃい子、母さんみたいな鱗がある人、頭から耳が生えた人。


「おや、この子がアレス様だね」


ちっちゃい子がそう言ってくる、体がちっちゃいのに、おばちゃんのような喋り方だ。


「えエ、そうです」


リラがそう言った瞬間みんなが俺のことを見てくる。


「アレスだよろしく頼む」


そう言って俺たちは自己紹介をする。


ちっちゃい子がドワーフ族のメイ


獣耳が生えた人がガルフ


巨漢の男が巨人族のゴウ


黒色の鱗を持った人が蛇人族のウルス



「この皆デ、アレス様を鍛えていこうと思いまス。」



マジか、それはいいな。リゼ並の強さを持つらしいので、リゼ以外の格上の人達と戦えるのはいい経験になる。


俺は、いつもの体力トレーニングをした後に、この4人と模擬戦をする。


まぁ、リラと同じか、それ以上の強さを持っているので俺はボコボコにされるが、俺が強くなっていくのを感じる。




そのような楽しい日々を過ごしていき、俺は5歳になった。

















私は屋敷の窓の外を見る。窓の外には王都ガルガンの中でも、指折りの美しさを誇っている庭園が見える。平民や貴族に限らず、この庭園を見たら一生忘れられないだろう。


最初は心が震えるほど感動したものだが、今やそんなものなど感じることもない。


私は見慣れた庭園を見ながらため息を吐く。


私はガルガンチュア王国で有数の侯爵家に産まれ、家族も優しく、何不自由のない生活を送っている。


だが、この胸に感じるのは何なのだろうか。何をしてもこの鬱屈とした気持ちが消えることがない。


まだこのような気持ちは小さいが、日々この気持ちがほんの少しづつだが大きくなっていく。


...もうこの気持ちがなんなのかは分かっているが、そんなことを思ってしまうのは些か傲慢かもしれない。



この気持ちは退屈だ。



誰もが羨む生活を送っているくせに退屈などと考えているなど他の人からしたら憤慨ものだ。口に出すだけで白い目で見られる。退屈などと臆面もなく言えるのは阿呆だけだろう。


このような気持ちは、誰にも言えず溜まっていく。


私は毎日の日課として私兵たちの訓練に混ざる。


「お嬢様、今日も訓練を始めましょうか」


この家の私兵たちのは強い。さすがに侯爵家というだけある。最低でも冒険者でいうDランク程だろうか。


未だに私は私兵達には勝てていないが、学園に入学するまでには勝てるだろうという気持ちがある。まだスキルを手に入れていないので、有用なスキルを手に入れたらもっと早く勝てるかもしれない。


「ハッハッハ!!さすがですなお嬢様!」


そう大笑いしながら近づいて来たのは、私兵の総隊長を務めているワルドだ。


「さすがヴァイオレット家の最高傑作ですな!」


最高傑作と呼ばれようともあまり嬉しいという感情が湧かない。心の底から私のことを祝ってくれているのは分かるが、少し怒りを感じてしまう。自身の心の狭さでさらに怒りを感じてしまう、負の悪循環だ。


「あら、ありがとうワルド」


ここでは顔を顰めることも出来ないので笑顔で反応する。今日の訓練は終わりなので部屋に戻る。


次は勉強をするために家庭教師とマンツーマンで授業を受ける。私のこの体は才能にがあるため、ありとあらゆることが簡単に出来てしまう。このような授業は1度話を聞くだけで完璧に覚えられる。戦いでも同じだ、技量だけならこの屋敷の私兵と余り変わらない。劣っているのは肉体と経験だけだ。何年、何十年も修練をした兵士たちに半年ほどの修練で、同じような技量になるのは私の才能の凄まじさが分かるだろう。


私の体に宿る異常な才能によってなんでもすぐにマスターしてしまうため、この退屈が加速していく。


そのようないつもと同じような1日を終え、家族と一緒に夕飯を食べる。屋敷は無駄に広いため、食事するだけの部屋がここまで大きいのは意味があるのだろうか。


「明日はスキル判定だろ?どんなスキルを得られるか楽しみだな!」


父様が興奮しながら私にそう言ってくる


「そうですね、楽しみです」


私は貼り付けたような笑顔で相槌する。本当はあまり楽しみではない。正直スキルの事など、どうでもいいのだ。だが、明日の教会では私と同世代の人達が集まるため、もしかしたら友達が出来るかもしれない。


...心の底で友達はただの退屈しのぎだと思ってしまっている自分に心底嫌悪する。


父様と母様は私の方を見ながらどこか悲しそうな顔をする。


もしかしたらこの私の気持ちに気付いているかもしれない。優しい2人にこのような顔をさせた自分に腹が立つ。



今日も鬱屈とした気持ちが晴れないまま、ベットに入り寝る。


明日はどうなるのだろうか、もしかしたらこんな気持ちが晴れる出来事があるかもしれない。少し興奮するが、そんなことはありえないと心の奥底で思ってしまい、そんな明るい気持ちも吹き飛ぶ。そんなことを考えているうちに私は寝ていた。





今私は、ヴァイオレット家の馬車の中にいる。私は初めてこの屋敷の外を見た、屋敷の外は綺麗な道で、ゴミひとつもない。建物の1つ1つが大きく、さすが貴族街というところか。さすがにヴァイオレット家の方が大きいが。


チラチラと他の屋敷から馬車が出ていく。恐らく、あの人達も今日のスキル判定をするのだろう。


父様と一緒に教会の中に入る。


スキル判定の会場は、子供だけしか入れないようになっている。平民は家族同伴でスキル判定をすることが可能だが、貴族は子供1人ですることが当たり前となっている。


自分の子供は1人でスキル判定をできるのだと、見栄をはった貴族からこのようなことが始まったのだという。


教会の扉を開けて右手にある扉が大人が入る会場、左手の扉は子供の入る会場だ。正面は扉はなく女神像の正面に長椅子が置いてある。


私は父様と離れ、左側の扉をくぐる。


長椅子が正面を向いて3列に並んでおり、長椅子な向いた先には女神像、その手前には段差があり、その上に白い髭を蓄えた老人が佇んでいる。教会に来た順に1番前の左端の長椅子から4人づつ座っている。


長椅子には私より先に来たであろう同年代の子達が、皆ソワソワしている。


私は周りの子達よりも一回り大きい男の子の隣に座る。


隣の男の子は5歳ながらに精悍な顔立ちをしているが、そんなことよりも隣に座ってから感じるその強さに驚く。強さには自信があったのだが、私の強さを優に超えている。


この子の強さはヴァイオレット家の、新人の私兵に匹敵するかもしれない。新人でも最低でもEランクはある。


この子はこの歳で、さらにスキルも持っておらずこの強さなのだ。


興味が湧いてしまった。湧かないはずがない。


「こんにちは」

「ん?あぁ、こんにちは」

「私の名前はアリス、アリス・ヴァイオレットよ、アリスって呼んでね、あなたの名前は?」

「俺はアレス・アルゴンだ、よろしく、俺の事もアレスって呼んでくれ」


男の子はアレスというらしい、さらにかの有名なアルゴン家だ。ますます興味が湧く。


「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、どうやってそんなに強くなったの?」

「努力以外なくないか?てかアリスも結構強いな」

「あら嬉しい」


なんだろう、今まで誰に言われようと心が動くことがなかったのに、嬉しいと感じてしまう。


面白い、面白いのだ、この子と喋るのは。何か埒外の生物と喋っているような感じがする。この子は絶対私の想像を超えることをやらかすに決まっている。体の奥底から今まで感じたことがなかった激情が溢れ出る。


...この子はこの退屈を吹き飛ばしてくれる。


そう確信した私の胸の中には鬱屈とした気持ちはもう無くなっていた。


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