第11話

「最初ハ柔軟ストレッチをしまス、柔軟性ハ歳や才能に関係なく鍛えられるのデ。」


なるほどな、体の柔らかさは体を動かすことに対してメリットしかないって聞いたことがある。確かに、筋肉を付けずに強くなるには今はストレッチは最適だ。



「まズ、ここまでデできるようにしましょウ」


リラはそう言うと足を横に真っ直ぐ広げ、その状態から上半身を地面につけた。



俺は今足を股を開いて下半身の柔軟性を確かめている。俺の体結構硬いな、60度ぐらいしか足が開かない。


「ふム、アレス様ハ毎日開脚を五分ほど続けて下さイ。まだアルス様ハお若いのデすぐに効果は出始めるでしょウ」



次は上半身の柔軟性を測る。上半身は特に肩が固かった。後ろに手を回して、手と手を繋ごうとしても全然届かない。



「上半身の柔軟ハ、私と一緒に行いましょウ、特に肩が固いので私が柔軟を手伝いまス」



そうして一月ほど俺は柔軟を続けた。


一月ほど続けると、俺の体は体操選手並に柔らかくなっていた。一月でこんなに柔らかくなるのか、俺の体すごいな



「りら、からだなゆかにつくようになった」



そう言い俺は運動場でリラがしていたように、体を地面につける。最低限体の柔軟性を確保したから、ほかに何を鍛えるところがあるか聞く。


「もっとほかにきたえるところはあるか?」

「まだないですネ、次は2歳になってからでス。2歳になったラ、走り始めましょウ」


俺が2歳になるまであと半年以上あるな...

楽しみすぎて夜しか眠れんわ







あれから半年以上が経った、半年で変わったところといえば、飯がうまくなった事と俺の妹達が喋ったことだ。


飯はメルトンに美味しくしてくれと頼んでから2ヶ月程で、めちゃくちゃ美味しくなった。まぁ、今は離乳食を卒業したけどな。美味い離乳食を食べられたのは一月程だけだ。



もうひとつは俺の妹達が、俺ことを兄と呼んでくれたのだ!!


あの時の感動はこの俺の貧相な語彙じゃ表せないほど大きなものだった...




俺は今運動場にいる。

俺が2歳になったことによって、ある程度の激しい運動の許可が降りたのだ。



「りら、おれはなにすればいい?」

「まずハ、体力が無くなるまで走りましょウ」

「わかった」



そうして俺は走り始める。

運動場はかなり広いため、1周するのにかなりの時間を必要とする。俺はまだ2歳だから尚更だ。



「はぁ..はぁ...」



そろそろ息が切れてくる。

運動場の半分もまだ走っていない。




「げほっ...」




1周程走ると、口の中から血の味がする。よく走り過ぎるとなるやつだ。



まだ足は動くし倒れる程ではないな、いつまで走れるかな。



3周程走るとさすがに限界だったのか体がいうことが効かなくなる。



もう無理か。



俺はその場に倒れた。意識も遠くなっていく。



リラが何か叫んでいるようだがもうあまり聞こえない。













私はリラ、ただのダークエルフだ。



ダークエルフとは、砂漠の民と呼ばれている

種族だ。


エルフは魔力が豊富な森の中で暮らしているため、魔法に秀でている種族になった。ダークエルフは、砂漠という厳しい環境の中で過ごしているうちに肉体が強化されていった種族だ。




ダークエルフには、成人を過ぎると砂漠から離れ、最低5年以上、世界を旅しなければいけない掟がある。


5年以上旅を続けた者は、砂漠に帰って来るのもよし、旅を続け新しい暮らしを始めても良いとされている。


旅をし始め5年以上経ったが私は故郷には帰らず旅を続けている。


旅をするためには色々な土地や国に入ることがある。そのため自身の身分が証明出来るものが必要だ。


そのため旅をする者は皆、冒険者ギルドに入る。冒険者ギルドに登録すると冒険者カードというものを貰える。それは全ての大陸で使える身分証のようなものだ。


なので旅人のほとんどが冒険者になる。



冒険者とは平たく言えば何でも屋のような存在だ。


冒険者は、依頼を受け、その依頼を達成することで金を得る。


魔物討伐、薬草採取、商人の護衛。

他にも猫探しや話し合い手が欲しいなど、依頼は多岐に渡る。


冒険者にはランクというものがあり、そのランクが高ければギルドへの貢献度が高いということで、冒険者ギルドから様々な恩恵を得られる。


ランクは下から


G・F・E・D・C・B・A・S・SS・SSS


この10個にランク付けされている。


Gはギルドに登録したての新人

FからEは若手

DからCは中堅

BからAは達人

S以上になると人外の域になる


この私、リラはCランクだ



Cランクは冒険者ギルドの中では中堅と呼ばれるが、私より強い人はギルドの中に沢山存在する。










私は今、依頼を受け依頼主の貴族の屋敷にいる。屋敷の警備兼私兵の訓練をしてくれという依頼だ。まだ私兵はあまり訓練をしておらず、警備を任せるにしては力不足なので警備兼教官ということになっている。


契約期間は3年、Cランク以上の冒険者5人を教官に。最低でも1週間に1日は訓練をしてくれという内容だ。警備の件は私兵が十分に育ったら必要ないとのことだ。


このような貴族関係の依頼、特に私兵の訓練をしてくれというのはかなり美味しい依頼として人気で、よく争奪戦が起きている。そこで私は教官役の5人のうち1つを勝ち取った。


依頼の内容を頭の中で、確認しながら歩いていると、屋敷の運動場に出る。


そこにはこの依頼を受けた、私を除いた4人が揃っていた。







この依頼を受けた4人と自己紹介をしあう。



まずこの5人の中で唯一のBランク冒険者、狼人族のガルフ


3m近い身長を持つ巨人族のゴウ


大槌を持ったドワーフ族の女性、メイ


黒い鱗を持つ蛇人族のウルス


そして、私、ダークエルフのリラだ


まずはこの5人の実力を知るために、模擬戦を行った。まず最初にゴウと戦ったが、模擬戦用の刃引きされている武器では、私たちの戦闘には着いてこれず、すぐに砕け散った。


この全員と戦って感じたことだが、私はこの中で1番弱い。


そもそも私は正面からの戦いに向いていないためこの結果はしょうがないと思う。


ウルスは強靭な鱗で攻撃を通さず。メイはスピードにパワーを併せ持っている。ゴウは圧倒的なパワー持っている。さらにガルフはBランクと言うこともあって手も足も出なかった。







この依頼をし続けて1年程たった頃だろうか。


依頼人の伯爵様の奥様である、サラ様が運動場にお尋ねになった。その隣には息子であるアレン様もいる。アレン様の顔は初めて見ますが、将来が有望な顔立ちをしている。



何故このようなところに来たか尋ねて見ると、私たちの訓練を見るために来たという。


...子供が見るにはあまり面白いものではないが



今日の訓練を終わらせ、アレス様達に近づいていく。アレス様は目がキラキラしていて可愛い。


男の子はこういうものが好きなのかもしれない



アレス様と喋っていると、驚いたことに私の動きが見えていたらしい。


本気ではなかったが普通は見えるはずがないので嘘をついていると思っていたが、聞いてみる限り本当のようだ。


その後アレス様は私に修行をつけてくれと頼まれた。


この若さでの修行は無謀だと思った私は、アレス様に何故修行をしたいのかを聞いてみると。


「最強になりたいからだ」



その一言はこの人生の中で1番意志の籠った声だった。恐ろしい程の意志を込めた目を向けられると、この人は絶対自身の意志を曲げないということが分かる。


...仕方ないか


私は修行をつける許可を出した。


サラ様はごねていたが、アレス様が抱きつくことによって強引に許可を取っていた。


...確かにアレス様に甘えられたら負けるかもしれない



まずはアレス様には柔軟性を高めるように、指示を出した。柔軟性は運動するのには、必要なものだからだ。


一月程経つとかなりの柔軟性を得ていた。


これはとても早い方なのだ、アレス様自体が特別なのか、1歳の若い体が特別なのかは分からない。


アレス様は、最低限の柔軟性を得た為、もっと他の修行があるか聞いてきたが本格的に修行するには、2歳にならないと体に支障を来たしてしまうかもしれない。軽く走る程度なら1歳でもいいが、アレス様は何かをしでかすかもしれないため2歳になるまで許可を下ろさない。



アレス様が2歳になった時、修行のために運動場を走ることを許可し、アレス様の体力がどれほどあるかを測る。


運動場は広いため1周が限界だと思っていたが、平然とした顔をして1周を走りきる。


2歳にしてはすごい体力だと思ったが、2周を走りきると、おかしいと感じ始めた。

汗は大量にかいているが、表情が平然としたままなのだ。


3周目を走り終えるとアレス様は倒れた。


「アレス様!!大丈夫ですカ!!」


そう叫びながら倒れたアレス様に近づく。


アレス様の体を確かめると、とうに体の限界を超えていた。


急いでアレス様の体を休ませるために医務室に向かう。今日は医師がいないため回復魔法が使えない。今はアレス様を休ませるしか方法がない。



しばらくしてアレス様は起き上がった。


体の限界を越えている修行をしたため、今も体に激痛が走っているはずだが、そんなことおくびにも出さず平然としている。



「アレス様!何をしているのですカ!!」



私はアレス様に怒鳴る。あんな狂人ですらしない程のオーバーワークをたった2歳の子供がしたのだ、怒るに決まっている。


「あんなトレーニングハ許されませン!なにを考えているのですカ!あんな命をかけたトレーニングは狂人でもしませんヨ!」


そう言ったが、アレス様は困惑した様子でこっちを見る。


「おれはさいきょうになるんだぞ、つよくなるのにいのちをかけるのはあたりまえだろ?」


この言葉を聞いた瞬間、私は鳥肌が止まらなかった。まるで一般的な常識を言っているように見えたからだ。


そして同時に僅かな恐怖と、大きな期待を感じた。この人の精神は異常と言ってもいい、私はこのような精神を持つものを見たことがない。


...私は見てみたいのかもしれない、この人がどこまで行けるのか、本当に最強になれるかを

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