始まる

 レンさんの幼馴染、という言葉で彼の目はハッと見開かれた。けれどそれはすぐにゆるゆると落ち着いていく。落胆が滲み出ていた。

「それは、どうして?」

 その先にはいろんな言葉が続く。その全てに応えるようにして私は最初から最後まで、夢での話をレンさんに語った。レンさんはそれをずっと黙って聞いて、そして最後には全てを諦めたように弱々しく笑った。

「そっか、そうだったんだね。」

「はい。私は今日、真実を伝えてレンさんを中心木のところまで連れていくために来ました。」

「僕を?」

 その言い方はまるで、まったく行く気はないのだというものそのもの。私は嘘でしょという思いで聞いた。

「まさか、行く気がないなんて言わないですよね?」

「僕が行くことを、彼女は望んじゃいない。リリが望むのは僕が自由になることだ。」

 ・・・・・・ああ、もうこの人たちは。私は胸いっぱいに空気を吸い込んで声を張り上げた。

「そんなの自由じゃないです!そんなこと言って、どうせ後になって後悔するんでしょう!?だったら行って、全てを終わりにして、それで!自由になってください!!」

 少しの間があって、レンさんはゆっくりと体を起こした。でもまだ迷うように視線はあちこちを彷徨っていた。それすらも焦ったくて、私はレンさんを引っ張って立たせ、無理矢理外に連れ出した。


 夏の絶頂期も通り越して、前よりは日差しも和らいできたもののやはりまだ暑い。体調の悪いレンさんを支えながら二人ヨタヨタ、森へ入っていった。

 道中私たちは一言も話さなかった。そのせいか、より一層森の静けさが際立っているように感じる。

 いつもよりもかなり時間をかけて中心木にたどり着いた。木は一見、いつものようにどっしりと構えているが、どことなく頼りない感じもする。

 突然、ぐ、と下にかかる重みが大きくなって私は地面に倒れ込んだ。レンさんは体制を整えつつ「ごめん」とそこでようやく言葉を発した。

「こちらこそ、すみませんでした。レンさんすごい体調悪いのに・・・・・・!」

「いや、いいんだ。中塚さんが正しい。きっとここに来なかったら僕は一生後悔して、囚われて、またリリを苦しませるところだった。」

「レンさん・・・・・・私、私は!」

 さあ、いざ飛ばん、というところで、ざあっと木々がざわめき出した。空は昼間だというのに暗くなっていき、遠くで動物たちが鳴いているのが微かに聞こえてくる。次第に風もびゅうびゅう強まる。その異様な事態に私は言葉を詰まらせ、身をすくめた。そして同時に察した。いまが、そのときだと。

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