決意

 目が覚めると、頬が閉まっていることに気づいた。でも夢のことも、この涙の意味も今日は覚えている。徐にスマホに手を伸ばして確認すると、もう十時を過ぎていた。東堂に行くなら充分な時刻。

「でもなあ」

 だいたい、私には関係ない。あるけれど、元はといえば二人の問題であって私はただ単に巻き込まれただけなのだ。

「ああ、起きたの。」

 どうしたものかと頭を抱えているところに、洗濯物を抱えたばあちゃんがやってきた。

「うん、おはよう。」

 おはよう、とばあちゃんが返す。でも、いつもよりそっけない。こういうときのばあちゃんは何か隠し事をしていると、私は知っている。

「なんかあった?」

 そう聞いてみると、ばあちゃんは歯切れ悪そうにああ、とかうん、とか呟いて

「東堂のレンさんが倒れたってさ」

と言うのだった。その一言で私の憂いも迷いも消し飛んだ。すぐさま布団を片して身支度を整えると東堂に駆け出していた。


 東堂に着くと、莉子ちゃんと鶴山さんがいた。話を聞くと、鶴山さんが第一発見者だったらしい。

「朝散歩でもって思ってここの前通ったらレンさん店先で倒れてるんだもの。びっくりしちゃったわよ。そばの日高さんの旦那さんに運んでもらって・・・・・・ああ、奥で寝てるよ。だって誰もレンさんの家知らないじゃない。それで、医者でも呼ぼうかって話してたらぐったりしてたのが急に目吊り上げて『それだけはやめてくれ』って。何かやましいことでもあるのかなねえ。」

 レンさんが医者にかかるのを拒んだ理由をなんとなく知っていた私はどうしたんですかね、と軽く流して様子を見に店の奥に行った。確かにレンさんは青白い顔をして眠っている。ただ、この前の日じゃない。今日はまるで生気がない。このまま消えてしまうんじゃないかと思うほど。

 その様子を見て決心した私は莉子ちゃんたちにお願いをした。

「すみません、ちょっとだけ、二人きりにしてもらえませんか?レンさんと。」

 すると二人は快くそれを了承してくれた。ただ、店を出るときの莉子ちゃんと鶴山さんのいやらしい笑い方は気になるのだけど。

 その場に私たちだけになったのを確認して、私は悪いなと思いながら、レンさんの肩をそっと叩いた。

「レンさん、レンさん。」

 ふるふるとレンさんのまつ毛が揺れて、うっすらと目が空いた。しばらくの間空虚を見つめていたけれど、そばに私がいると気づいてさっと表情を曇らせた。

「中塚さん・・・・・・」

「今日は、話があってきました。レンさんの幼馴染の女の子のことについて。」

 

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