噂の続き
私が東堂をやめて一週間が経った。ばあちゃんは一日中家にいる私を見て何かあったのだと察して何も聞かなかった。そんな引きこもり生活に逆戻りした私の元を訪ねてきた人がいた。
「お久しぶりです。中塚さん。」
「はあ」
正直、あそこをやめてしまったのでもうこれ以上会うことはないだろうと思っていた。あっても道でばったり、くらいだと。まさか家までやってくるとは。
「暇してるかもしれないと思ってきちゃいました。」
「来ちゃいましたって。」
「来てみるもんですね。中塚のおばあちゃんすんなりと入れてくれました。そうそう、もう東堂やめちゃったんですよね。じゃあ聞きませんか?この前の噂の続き。」
前の私だったら躊躇っていたかもしれない。でも今は、半ば自暴自棄だった。
「聞く。」
莉子ちゃんはよしきたと言わんばかりに話し始めた。
「この前はレンさんに邪魔されちゃったんだよなー。で、レンさん、というか東堂もなんだけどいつからあの店があったか、みんな記憶が曖昧らしいですよ。まあここらの人たちはあんまそういうの気にしないんですけど。ああ、あと、この前言い忘れてたんですけど、あの森の大木って、昔一度だけなくなって大穴ができたことがあったみたいです。これは私のおばあちゃんが生まれる前から言われている話だからこれこそ本当に確証はないんですけどねら、ちなみに数日で元に戻ったそうです。」
莉子ちゃんの話を聞いている間、私の頭はフルスピードフル回転していてショート寸前だった。さまざまな記憶が今の話と重なり合っていくようだ。その結果に鼓動がどんどん速くなっていく。
ーーー誰かが得をすればどこかで誰かが損をする。ごく当たり前のことだけれど、これを自分のことと考えている人間は少ない。どんな世界でもね。・・・・・・僕は、少しでもその意味をわかってくれる人が増えてくれることを願ってるよ。
ーーー単なるおとぎ話に過ぎないんだけど、聞いて欲しいんだ。
ーーーすみません。
レンさんの言葉がぐるぐると頭の中で繰り返される。気づけば言葉が飛び出ていた。
「レンさんは今、どうしてるの?」
「レンさんですか?うーん、この前行った時は普通でしたよ。でも、ちょっと元気なかったかも。」
それを聞いて今すぐにでもレンさんのいる東堂に走って行きたかった。でも、私の捻くれた天邪鬼と臆病さがそれを邪魔する。今行って私はなんて言えるんだろう。
それからその日は悶々とした気持ちを抱えたまま夜を迎えた。
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