おとぎ話・二
今存在する全ての世界には、世界同士の均衡を保つための樹が一本ずつある。これはその樹と、ある少年と少女の話。
その樹は「中心木」と呼ばれ大切にされていた。けれどもその樹がいろんな世界にあること、そしてどうやって生えてきたのかを知るものはほとんどいなかった。
中心木はある一族によって生み出されたもの、いや、生み出されたんじゃない。ある世界のある一族の魔力を持たない人々自らが姿を変えて中心木となっていたんだ。どうして彼らだったのかそれはもう今となってはわからない。けれども彼らの犠牲によって世界は保たれていた。
そしてある少女もまたその一族の一人だった。少女が生まれてすぐの頃、両親は彼女と彼女の兄たちが中心木という犠牲になることを防ぐために子供たちをさまざまなところに逃した。その後少女の兄弟たちがどうなったかはわからないが、結果的に少女は生き残った。心優しい老婆によって拾われ育てられた。そしてそこには親がおらず拾われた少年もいた。
二人はかけがえのない存在としてお互いを見ていた。老婆が亡くなってからも二人離れることなく協力してなんとか暮らしていた。
しかし突然に、その日々は消え去る。
ある日、少女はパッタリと姿を消した。
どこを探しても、誰に聞いても居場所は分からなかった。そんな日々が続いたある日、少女から手紙が届いた。いなくなる直前に出していたものらしい。少年は貪るようにしてそれを読んだ。そこには中心木のこと、ある日突然に自分の生い立ちや使命を思い出したこと、これからどこかの世界の中心木として姿を変えるが、決して後悔はないということ。最後には少年のこれからを気遣う言葉と大好きという言葉で締められていた。
少年は駆け出した。少女を助けるために一つ、心当たりがあった。少年が向かっていたのはここらでは最高齢の博識な老人の元だった。老人はなんでも知っていた。当然この世界が中心木を排出してきた世界の一つだということも。老人は言った。
「これを止めるのは不可能だ。止めてしまえばそれが最後、世界と世界がぶつかり合って消滅してしまう。彼女も自分一人の犠牲で多くの命が救われるなら本望ぐらいに思っていたのかもしれん。まあとにかく、もう手遅れだろうな。きっと彼女は姿を変えた後だ。・・・・・・まあだが、会う方法はあることにはある。それは少女を探し続けることだ。いいか?中心木にも寿命というものがある。その寿命が尽きる少しの間だけ人の姿に戻るという話を聞いたことがある。どうやって?そりゃあ魔法を使うんだよ。」
老人はゴソゴソと奥の方から古めかしい本を取り出して少年に渡した。
「ここに載っている魔法を使えるようになれば探しにいくことができる。え、どれが中心木かわからない?そりゃあ、見れば感じるよ。お前さんが探している彼女の気配をな。しかし・・・・・・これを使えばお前の老いる速さはゆっくりになる。体もある程度はそれに対応するが、それにも限りがある。最後は若い姿で体が朽ちていくんだ。だから、なるべく早く見つけ出せ。いいな?」
こうして少年は血が滲むような努力をしてその本の魔法を全て覚え、使いこなし、少女を探す長い旅に出たのだった。
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