おたまじゃくし
噂は、おたまじゃくしと同じだと思う。時が経つにつれ、人々の耳に入るにつれ、手足が生えて尻尾が縮んで全く異なる姿になっていく。そこに事実なんてない。私はいつかそれに丸呑みされてしまうんじゃないかと今でも恐れている。
きっかけは、私のとある小説が佳作に入ったことだった。小さな文学賞、小さな賞。でも、自分の努力をたくさんの人に認めてもらえたようで、満足だった。部の活動の一環として出したものだったから当然学校側も把握していて、集会で表彰までされた。
すると、私に向けられる視線が一気に増えた。今までは透明だった私が急に実態を持ったように。たぶん、自分でも意識しないうちに舞い上がっていたのだと思う。調子に乗りすぎていたのだと思う。もっと、たくさんの人の称賛を聞きたいと思ってしまった。自分に期待を持ちすぎてしまった。
「あれでしょ。中塚さんってこの前表彰されてた」
「すごいよね!もしかして本になるのかな」
「俺、あの作品ゴーストライターが書いたって聞いたぜ」
「盗作だ!」
「あの人結構頭いいって聞いた」
「たかが佳作くらいで調子乗ってる」
「掲示板のとこに置いてあったの読んだけど、イマイチ。何が伝えたいのかよくわかんない」
たくさんの声が、噂が、溶けてまじりあってやがて得体のしれないものを形作った。今にもがばりと口を開いて私を丸呑みしてしまうんじゃないかと思った。
次第に、怖くなった。これからも賞に応募し続けていくことが。小説を書き続けていくことが。周りの意見を聞くことが。ふつうの、生活を送っていくことが。
最終的にはクラスの女の子たちが大声で笑っているのも、ちょっとしたざわめきでさえも自分への嘲笑のように思えて、私は逃げだした。それが期末テストが終わってすぐのこと。
部屋に引きこもるようになった私を心配した両親が、ばあちゃんに相談をして夏の間私は喜多羅村で過ごすことになり、小さな旅行鞄に最低限のものを詰め込んで家を出た。
村に着いた時、ここはこんなに田舎だっただろうかと驚いた。最後に来たのはかなり小さかったころで、あの頃はなんの違和感も感じていなかったのだろう。成長した私にとっては見慣れない景色ばかりだった。
ばあちゃんの家で過ごすようになっても、やることは変わらなかった。部屋にこもって一日だらだらと過ごす。その様子を見てさすがにまずいと思ったのか、ばあちゃんが村を散歩しようと言い出した。本当は嫌だった。でも、もうすでに行く気満々だったばあちゃんを止めるのは骨が折れると踏んだ私はしぶしぶついていくことにした。その先で出会ったのがレンさんだった。
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