泣いているのは・三

 置いてけぼりにされた私たちが軽く世間話をしていると、なにやらガヤガヤとざわめきがこちらに近づいてきた。何かあったのかもしれないとそっと外を覗き込むと、なんと、村のお年寄りの方達がぞろぞろとお店の前に集まっているのだ。その先頭に鶴山さんがいる。

「どうしたんですか!?」

「ちょっとね、レンさんに見舞いの品のひとつでも持ってこようと思って。そしたらみんなも行くって言うから。」

 困ったもんよね、と全く困っていない様子で言う鶴山さんを、後ろから一緒に様子を見に来ていた莉子ちゃんが呆れたようにため息をついた。

「薄々予想はしてたんだけど、まさかこれほどとは。田舎コミュニティなめちゃいけないね。」

 田舎コミュニティ、恐るべし。でも、それだけじゃないんだと思う。これが私だったらこんなに人は集まらない。レンさんの、今まで築いてきた人望があるから、こんなにもたくさんの人が見舞いに来てくれる。

「あれ、どうしたんですか?皆さん。」

 突如背後からした声に私はびくりと肩を震わせた。慌てて振り返るとまだ少し顔色の悪いレンさんの驚いた顔があった。元々後ろにいたはずの莉子ちゃんはわきっちょにずれている。

「レンさん!起きて大丈夫なんですか!?」

「うん、だいぶ良くなったよ。ありがとう。」

 ふわり。多分笑顔に音がついているならこんな感じ。うう、そう微笑まれちゃうと・・・・・・。

 ぴしり、と音を立てて固まった私をニヤニヤしながら莉子ちゃんが見ている。周りのお年寄りたちも、おおっと小さく声を上げた。

レンさんただ一人がキョトンとして、どういうことか尋ねるように私を見つめているのだった。


「なんか、お見舞いというよりも推しの握手会みたいでしたね。」

 あのあとレンさんの前に長い列ができ、体調を労わる言葉や多くの見舞い品がレンさんを覆い尽くしていた。その一つ一つを丁寧に受け取っていたためか、さすがに疲れたようで先ほどからまた奥のソファで横になっている。

「推しって。僕はそんな大それた物じゃないよ。」

「大それた物ですよ。あれだけの人が心配して見にきてくれるんだから。」

 そうかな、と照れて赤面しているレンさん。意外にもこんな顔はあまり見たことなかった。そう思うとこちらも急に照れ臭くなってきて、俯きながら口を開いた。

「それに、私だってレンさんを慕っている一人です。レンさんがいなかったら私はまだ、あの家に引きこもってましたから。」

 ほうっと息をつく。そこにはいろんなごちゃ混ぜになった感情が詰まっていて、自分でもわからないくらいだった。

 レンさんもまた、小さく息をつく。外の蝉の声が薄く聞こえてくる中、私はレンさんと出会った頃のことを思い出す。

 

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