第2話
それから頻繁にギルバートが訪問してきた。
忙しいはずなのに訪問してはお茶をして、プレゼントを渡してくる。
お父様はディミテリ侯爵家とメリシュー伯爵家に婚約破棄に対する慰謝料を、浮気の証拠書類を持って請求している。
侯爵家はダミアンに大激怒していて、お父様に許しを請いでいるらしいが、認めないだろう。
おかげで私は被害者という認識になっているが……。
「ねぇ、裏で糸引いてない……?」
「ん? 集まりの時に少し話してるくらいだよ。殆どは伯爵の手腕だよ。どのみち、分かることだったんだから」
「そうだけど……」
「ダミアン・ディミテリはこのままだと廃嫡かもね」
「廃嫡……」
明日の天気を語るかのようにギルバートが話すけど……廃嫡か。
それだけ侯爵家は怒っているってことだ。
どうやら婚約破棄はダミアンの独断だったらしく、しかも、そこでアストロゼア公爵家の子息が私に求婚してきて、その話題で持ちきりだ。
しかし、廃嫡とは……。感情のままに目立つ場所で婚約破棄するからだ。
優しくしてもらったこともないから、同情なんてしない。
「で、どう? 僕との婚約、考えてくれた?」
「…………」
ギルバートの言葉に口をつぐんでしまう。
確かに、私は被害者という認識のおかげで、婚約は出来る感じになっているが……。
「公爵様たちは……どう思っているの?」
「シュリーとの婚約? 反対なんかしてないよ。シュリーのことはよく知っていて、むしろ今回の件では同情してるし」
「そう」
名門アストロゼア公爵家からの求婚。良縁なのはわかっている。
ギルバートの隣は居心地いいし、ディミテリ侯爵家のように強引に婚約を結ぼうとはせず、私を尊重してくれているけど……私が気にしてしまっている。
ダミアンのことは好きじゃなかったけど、婚約破棄されて恥ずかしかった。
婚約破棄された傷物令嬢……もう二十を超えているので令嬢とは言いにくい年齢だけど、そんな私が
公衆の面前で、婚約破棄された私と結婚してギルバートの名前に傷がつかないか心配で。
私のせいで迷惑かけたくない。だから――。
「……私、ギルバートを異性として見れない。小さい頃から見ているから……弟のように思ってたから」
目を伏せて、詰まりながらも話していく。
半分は本当。ギルバートはずっと弟のように思っていたから。
……でも、異性の方はよく分からない。
自分を慕っていた小さな男の子から青年になったのは分かるけど……。
「……僕のこと、嫌いではないんだね」
「! 嫌いなんかじゃないわ! ギルバートだけが助けてくれて……本当に、本当に感謝しているもの」
ギルバートが来なければ、私は一人で帰って笑い者になっていただろう。それがギルバートが来たことで、笑い者にならずに済んだ。
「そっか。……なにも別にいきなり異性として見てなんて思ってないよ。シュリーが僕を弟のように見ているのはずっと前から知っているから。だから、もう少し、僕とこうして二人で過ごしてほしいんだ」
ギルバートがまた、私の手に自分の手を重ねる。
不覚にもドキッとしてしまう。
最近、会う度にこうして手を重ねたり、髪に触れたりしてスキンシップしてくる。
昔は、私の方が大きかったのに、いつの間に大きくなって。
まるで、知らない男性みたい。
「……私よりも、アストロゼア公爵家に相応しい令嬢はいるわ」
「それを決めるのはシュリーじゃないよ。……そうだ、これプレゼント」
「いいわよ。もうたくさん貰ってるから」
「ダメ。これだけは貰って」
しばらく攻防するも、絶対引かないという意思を感じてしぶしぶ受け取る。なんで。
貰ったのはシンプルな透明な石がついたブレスレット。
「これは……?」
「外出の時は必ずつけて」
……? 外出時は必ず?
「なにかついているの?」
「しばらく忙しくて中々来れないから。約束守ってね」
「あっ……! ちょっと……!!」
人の質問に答えないで、ギルバートは立ち上がり去っていった。まったく、かわいくない。
***
ギルバートの宣言通り、彼はしばらく私の屋敷に来なくなった。
そりゃあそうだ、と思う。ギルバートは公爵家の跡取りで忙しいはずだ。むしろ、よく今まで通うことが出来たと思う。
ギルバートの訪問のせいで、パーティーに参加しても目立ち、殆どパーティーには参加しなかった。
「……」
自室で読書するのをやめ、花瓶に飾られている花を見る。
私の好きな花をいつもくれていたな、と思い出す。
……なんかここ最近頻繁に会っていたからか、寂しく感じる。
そんなこと思う自分に、はっ、となり、首を振る。
「……自分から突き放したくせに何思っているのよ」
そう、別にいいではないか。ギルバートは幼馴染、それだけだ。
相手に非があったとしても私は婚約破棄された女だ。結婚にも興味はない。これでいい。
それこそ、平民の通う学校で先生もいいかもしれない。
「……久しぶりに外出しましょうか」
侍女に外出すると告げ、準備していく。
ギルバートに貰ったブレスレットを一応つけて、侍女とともに外に出た。
久しぶりの外出は楽しかった。
王都で馴染みのある店に入ったり、好きな食べ物を食べるのはストレス解消になる。
「お嬢様、楽しそうですね」
「ええ、楽しいわ。やっぱり気分転換は大事ね」
私の侍女のエイミーが声をかけてくる。
「よかったです、最近ギルバート様が来なくて寂しそうだったので」
「……そう見えたの?」
「はい」
「…………」
周りの目にも見えていたなんて。家だからと気が抜けすぎていたのかもしれない。
……ふと、エイミーに聞きたくなった。
「エイミー、好きってどう自覚する?」
「え」
エイミーがぱちくりと目を見開く。なんか、誤解されてそうなので否定する。
「誤解しないで。……好きって言われたけど、そんなのどう自覚するのか疑問に思っただけ」
「そう、ですか……。私が自覚したのは、やっぱりその人ばかり考えてしまうところからですね。今、何しているか、元気にしているか、自分だけを見てほしい……本当ありきたりなのですが、そんなこと考えているとああ、恋しているんだなって思います」
「……そうなのね」
今、何しているのだろう。なんで忙しいのか気になってしまう。……会えなくて、声が聞けなくて、寂しい。
それをギルバートに対して思ってしまうのは……。
ぼぅっとしていたら急に左手首を強く掴まれて、意識を戻した。
「いっ……!?」
「お嬢様っ!?」
誰?と思ったらそこにいたのは――アリエル・メリシュー伯爵令嬢だった。
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