初登校。
近場の管理地区に拠点を築いた日から数日。とうとう俺の登校日になってしまった。
私服兄モードで車を運転してルミを送迎し、その後に自分が通う予定の中学校までそのまま行って制服幼女モードに変身する。
今のとこ、
男女共にひと枠ずつ余ってるが、私服と仕事着以外に使い道を思い付かなかった。
「ふむ、随分小さいな? それと、聞いたのは男子生徒だったはずだが……」
駐車場から職員室まで行き、担任らしい男性教師と顔を合わせた。
もちろん十八歳が中学校に通う特異性を鑑みてアイテムを用意した結果、予想外の動作をして女体化した事を担任に伝える。
「なるほど。確かにアイテムカードは未だによくわかってないからな。そんな事もあるんだろうな」
やけにあっさりと信じた担任に連れられ、俺は割り当てられた教室まで案内された。既に必要な手続きは終わっていて、あとは
「よし、全員居るな。…………本来ならこのまま進行するところだが、今日は少し寄り道だ。というのも、今日はこのクラスに転校生が────」
廊下に立たされて、出席を取る担任から呼ばれるのを待つ。人生に於いて間違いなく初めての経験でいやに緊張する。
こんなのはグリフォンに遊ばれてた時に比べたらどうって事は無いはずなのに、なんでこんなに心臓がドキドキするんだろうな?
「という訳で、入ってこい姫路」
頭の中で用意した自己紹介文を暗唱しながら待つと、やっと担任に呼ばれて教室に入る。
予想外に小さな女の子が入って来た事に驚いてざわめく教室の空気を務めて無視し、俺は担任が用意してくれた踏み台に乗って黒板に名前を書く。
姫路ハジメ。ぎり女の子でも有りかと悩める程度の名前だが、仮にダメでも改名なんてするつもりは無いからこのままだ。
チョークで汚れた手をパパっと払って振り返り、まだざわめく教室を見渡す。
「転校生の姫路だ。見た目はこの通り小さな女の子だが、これはアイテムカードの誤作動によってこうなってるだけなので気にしないでくれ。本当の姿は十八歳の男で、先日までずっと学校にも通えず妹を養う為に働いてた世間知らずだが、どうかイジメないでくれると助かる」
◇
「ねぇねぇ、本当は男の子ってマジなの!?」
「アイテムの誤作動ってなに!?」
「本当に十八歳なのか? なんで今更、学校なんて来たの?」
休み時間、俺は質問攻めにされてる。転校なんてイベントでは定番の行事らしく、それは世界が壊れた後も変わらないのだそうで。
ただ、俺みたいな転校生は最後列の窓際、通称『ラノベ席』に座るのが様式美なのになーと言われても困る。
俺は背が低い幼女仕様だから最前列じゃないと前が見えないのだ。
「えと、性別が男なのは本当だ。本当は十二歳前後の少年に変身する予定だったのに、アイテムの誤作動でこんな姿にされたんだ。使うの止めようかと思ったけど、なんか便利な機能もあってそのまま使う事にした。十八歳で学校に来たのはワールドブレイクで両親を失ったから」
一つ一つ質問に答えていく。中には「女の子になるとか変態じゃね」とか言う心無い質問? もあったが、「女の子になる事を変態的に思える方が変態じゃないか? ただ授業を受けるだけだぞ? 君は何を想像したんだい?」と言うと真っ赤になって黙ってしまった。
「本物の姫路さんの姿は見せてくれないの!?」
「いや、別に見せても良いんだが……」
リクエストされたので、腕輪を三回ノックして男スロット1を呼び出す。
「お、おぉぉぉおっ……!?」
「え、デカ……」
そうして現れたのは、幼女モードとは似ても似つかない厳つい男だ。俺の男モードは身長か179もある。更にガテン系のバイトをいくつも掛け持ちしたりで、筋肉も付いてる。
お嬢ちゃん何歳? って聞きたくなるような幼女からこんな厳ついのが出て来たら誰だってビビるだろう。
「とまぁ、この背丈にガタイじゃ教室でも圧があるだろ? だから小さくなろうと知り合いにアイテムを融通してもらったんだが、なんか性別まで変わった上に身長も異様に小さくなっちゃったんだよな」
ネタを明かしつつ、俺はまた腕輪をノックしようと手を伸ばしたところで女子に手を捕まれた。
「ストーップ! しばらく、しばらくそのままで!」
「おなしゃす!」
中々強い圧で頼まれた。何事だろうか。
幼女から巨漢が出て来る事態にドン引きしてるが、何故か女子は楽しそうだ。
「さくせんかーいぎ!」
そしてなんか叫ぶと女子達が教室の隅に集まって会議を始める。
…………え、戻っちゃダメか? このガタイで中学生に混ざるの結構辛いんだけど。
雑魚使いのお兄ちゃん! 〜高ランクモンスターを召喚する才能は無かったけど、雑魚の召喚なら無制限な特殊体質だったからゴブリン使って妹養う。〜 ももるる。【樹法の勇者は煽り厨。】書籍化 @momoruru
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