検証と追加アイテム。



 姫路ハジメ、十八歳の空。


 父さん、母さん。俺、ルミを守って頑張ってたら、なんでか分からないけど幼女になったよ。


 何言ってるか分からないだろ? 大丈夫、安心してくれ。俺も何言ってるか分かってないから。


「はい、お兄ちゃん♪︎」


「俺、ワールドブレイクから今日まで、ルミがこんなに楽しそうなの初めて見たんだけど」


 結局、あれからルミの着せ替え人形と化した俺はこの世の無常を体現した様な顔をしてるはずだ。マジで無常。あゝ無情。


 しかし怪我の功名と言うか、ルミの着せ替え遊びのお陰で腕輪の新機能と言うか仕様が一つ判明した。


 遊ばれてる最中、トイレに行く時に男へ戻ろうとした時の事だ。変身した後の俺は変身前の服を着てたのだ。


 いや、この言い方だと分かり難いか。要するに、男の時は当たり前だがメンズの服を着てる。そして幼女化して着せ替え人形と化した俺は、当然ながら女児服を着せられてる。


 だが男に戻った時は何故だからメンズの服に戻ってたのだ。それからもう一度変身すると、今度はちゃんと女児服を着てた。


 これ、変身中と変身前の服が保存される仕組みらしい。めちゃくちゃ便利じゃん。


 良く考えると、十八歳としても肉体労働でムキムキになった俺が幼女化して、着てる服が脱げない訳が無い。しかし変身しても服は問題無く着れてた。つまり変身した時点で服に変化があったんだ。


 同じデザインの服だから気にしなかったけど、その時から既に異常だった。


「ふむ、これ良いな。男版にハンター用の装備をずっと着せて、普段を幼女で過ごしたらかなり楽なのでは?」


 正直、仕事の時に装備を着込むのって面倒なのだ。だって防具がライダースーツだぞ? 正確には『ライダースーツ型防具』が正しいのだが、とにかく着替えが面倒だ。


「お、お兄ちゃんが実利を見付けて女の子化を前向きに捉え始めた…………」


 まぁ、うん。仕方ない事は仕方ないのだ。それにルミが喜ぶなら幼女化も受け入れよう。両親が健在だったら増えたかも知れない弟や妹が、こんな事で手に入るなら俺が恥を飲み込むべきだろう。


 むしろ、俺が我慢するだけで、俺はルミのお兄ちゃん役と妹役のどちらもこなせる。これって最強のお兄ちゃんなのでは? 妹の妹になってあげられるお兄ちゃんなんて、世界でも俺だけだろ?


 ………………やっぱり何言ってるのか自分でも分からないが、とにかく利点は利点として受け入れたいと思う。


「これ、実はもっと隠し機能とかあるんじゃね?」


 テキストに書かれた事の他にも、こんなに便利な機能があったんだ。だったらもっと隠し機能があっても不思議じゃない。




 そして検証の結果、ドレッサー機能を見付けた。




 と言うか、服の保存機能を正しく把握した形になるか。


 この腕輪、どうやら変身の時に腕輪を叩く回数によって呼び出す服が変わると言うか、別枠で保存出来るっぽい。


 最低でも三回は叩かないと変身出来ない。そして叩く回数は五回までは別枠に出来る。つまり、男女別に三種類ずつ装備を保存出来るのだ。


 クソほど便利じゃんこれ。私服とフル装備を使い分けられるとか神過ぎる。


 まぁその結果、ルミの着せ替え人形化も加速したんだけど。三種類まで服を保存出来る着せ替え人形とか、最高のオモチャじゃんね?


「ハジメくん。楽しんでるところ悪いけど、実はプレゼントはまだあるんだよ」


「ふぇ?」


 現在、ふりっふりの女児服を着せられてる幼女モードなので、鼻の詰まった様な甘ったるい声で返事をした。なに、この死ぬ程高価なオモチャだけじゃ無いの?


「ハジメくんは、バフを使って自分も戦うタイプのハンターだろう?」


「ええ、まぁ」


 ハンターとしてはかなり珍しいタイプだと自覚はしてる。脆弱な人間はカードを起動コールしたり、こう言った不思議なアイテムを利用しないとモンスター共に勝てない。と言うか利用しても基本的に勝てない。


 俺がグリフォンにボコられたのが良い証拠だろう。アレだけバフを積んでもCランクに勝てないんだ。BとかAとかSとか、もう論外って言葉でも生ぬるい。


 それを踏まえた上で、それでも自分で戦うタイプのハンターはゼロじゃない。めちゃくちゃ希少だけど居ない訳じゃない。それに、いざって時はやっぱり自分でもある程度は動けた方が良い。だから人間用の装備も充実してるんだ。


 まぁ、《基本的に勝てない》ってだけで、基本から外れた奴も居る。それこそAランクやSランク級のアイテムカードから便利な武器とかを入手出来たラッキーな奴とか、Cランク以上のカードを湯水の如く起動コールする変態とか、色々と居るそうだ。


「それで、ハジメくんはゴブリンバフを良く使うって聞いたから、こんな物を用意してみたよ」


 そう言ってパパさんが手渡して来た物は、深緑色の指輪だった。


「…………あの、パパさん。不倫はちょっと」


「分かってて言ってるね?」


「それに、幼女趣味ロリコンは良くないと思います……」


「ハジメくん?」


 まぁ茶番は置いといて、コレは何?


「それは小鬼の指輪。通称ゴブリングって呼ばれる物だね」


「あ、聞いた事ある!」


 確か、ゴブリンから落ちるアイテムカードで、身に付けてるとゴブリンバフを常に発動出来る装備だったっけ。


 ドロップ確率が宝くじ一等よりも少なくて当然ながら超高額のアイテムであり、しかしゴブリンバフを必要とする層からは手が出にくい金額でもある微妙な立場にあるアイテムだったはず。


 カードの起動コール効果はバフだけじゃなくて魔法みたいな物も多いのだけど、やっぱりバフ効果の物も多い。そして高ランクモンスターと戦う公認ハンターとかはやっぱり高ランクカードのバフを使う。


 もちろん保険としてゴブリンバフを使う人も多いのだけど、高ランクモンスター相手じゃ本当の意味で焼け石に水なんだ。


 だからゴブリンバフをメインの保険とする層は低級モンスターを狩る野良が多いのだけど、そんな層からするとこのアイテムは高価過ぎる。


 そんな背景があり、高価だけど人気はそこまで、って言う感じのアイテムだ。


 まぁハンター以外にはバカ売れするから結局は需要が尽きないんだけど。要人とかが護身の為に求めるアイテムとしては最上級だしな。


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