ロリ。



「…………お、おにいちゃんっ?」


「んあ? あぁ、ルミか」


 偽像ぎぞうの腕輪から発せられた光が消えたところで、騒ぎを聞いたからなのか丁度ルミがやって来た。


「なぁルミ、俺って今どうなってる? 魔境産のアイテムを使ってみたんだが…………」


「かっ、かわぃ…………!」


「あん?」


 手が小さく、綺麗な気がする。肌が若い気がする。十二歳にしては異様に身長が低い気がする。言うて十八歳から中学生への若返りなんてそんなもんかも知れない。


 少しずつ成長するから自覚が無いだけで、数センチから十数センチも視界が下がったらこんな感じなのかな。声もやたらと高い気がするけど、子供の頃ってこんな声だったか? 分からない。


 自覚の薄い変身を終えた俺は、丁度良いからルミに感想を聞いてみた。やはり変化を感じるには客観的な意見が必要だろう。


「おにっ、おにぃちゃ、かわぃ……!」


「はい?」


 しかし、何やら許容しがたい感想を貰う。可愛い? いや、十二歳時の俺なんか見飽きてるだろ。その時はそんな感想貰わなかったぞ?


「パパさん、どうっすか?」


「いや、うん。そうだね、ルミちゃんの言う通り、とても可愛らしいと思うよ」


 ………………待って欲しい。なんか嫌な予感がして来た。


「…………あの、鏡見ても?」


「もちろん」


「はい、お兄ちゃん♪︎」


 差し出された手鏡を覗き込む。……………………絶望した。


「待って? なんで? 


 そこには、ふわふわの黒髪を揺らす美少女が居た。十二歳になったはずなのに、やけに小さな女の子が鏡を見てる。美少女? いや美幼女じゃね?


「待ってホントに聞いてない。パパさん、これ不良品だよ」


 こんな姿で中学校とか行ってられるか。ロリ化するなんてマジで聞いてない。


「も、もぅ我慢できないぃぃいい!」


「わぷっ──」


 腕輪を外して変身をやめようとすると、ルミに抱き締められてワチャワチャされた。まって、ほんと待って、腕輪外せない。


「お兄ちゃんがお姉ちゃんで、でもルミより小さくて妹ちゃんで可愛いのぉ〜! にゃはぁ〜!」


「待って壊れるのは腕輪だけにしてくれ。妹まで壊れたらお兄ちゃん困っちゃう」


 ルミの口から「にゃはぁ〜」なんて聞いた事無いぞ。


「ちょ、パパさん! これ解除どうするの!? 腕輪外せないんだけど!?」


「ちょっと待ってくれ。説明書を読んでみるから」


 ルミより小さくなった俺は、妹のハグから逃げる術もなくされるがまま。パパさんが説明書の続きを読んでる間、ずっともにもにムニュムニュぽよぽよされた。俺の肌が俺の肌じゃない。なんだこのマシュマロスキン。


「ふむ? どうやら腕輪を素早く三回叩くと変身の起動と解除が行えるらしいね。変身中は腕輪も取れないそうだよ」


 良く考えれば、変身中に腕輪を紛失したら一生この姿で過ごす事になる。変身中に腕輪が取れない仕様なのはむしろ良い事だ。


 聞いた瞬間に実行する。コココンと腕輪を指の関節で叩くと、先程とは打って変わって今度は控え目な光に包まれた。


「あ、あぁあぁ…………」


「いやそんな残念がらなくても」


 十八歳バージョンに戻った俺を見て、ルミが絶望の表情を浮かべる。


「まだ、着せ替えとかしたかった……」


「え? もしかしてルミって俺の事嫌い?」


 さっきの俺を着せ替えって事はつまり、女児服だろ? 殺す気か? 時に羞恥は人を殺すんだぜ?


「で? これどうなってんの? 不良品?」


「うーん、どうなんだろうね。アイテムカードって同じ物でもちょっとずつ効果が違ったりするから、これは性別が強制で変わっちゃうのかもね」


「そんな大事な事は説明書に書くべきでは?」


「カード状態に記載されてたテキスト以上の事を書く義務は無いからねぇ」


 つまり、偽像の腕輪に書かれるテキストは全部一律でも、その効果は少しずつランダムだと?


 例えば変身したい相手と年齢は選べても、性別は自由に出来ないこの腕輪とか。他にも身長が選べなかったり、声が違ったりとか、色々な物が有るのかもしれない。


 そもそもアイテムカードは相当のレア物だ。Bランク産だと言うなら尚更に。だから当然、アイテムに関する情報も少ない。スライムボックスだってネットで探して全く出て来なかったし。


「って事は、変身効果を使って学校に行くなら、幼女確定?」


「そう言う、事だねぇ……」


「お兄ちゃん、もう一回! もう一回女の子になって! ねぇお兄ちゃん!」


 ……………………マジか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る