アイテム。



 歓迎会から一週間ほど経ち、俺も新しい生活に慣れて来た。


 学校へ行く事はもう確定らしいのだけど、だからって思い立って即日から登校する訳じゃない。何事も書類の提出や申請処理といった物が必要で、平たく言うと学校は来週からだ。


 しかし、俺も黙って全てを受け入れた訳じゃない。そも、恩を売ったのは俺なのだ。俺が唯々諾々いいだくだくと従うのは間違ってる。


 とは言え、俺ってぶっちゃけチョロいので、花田パパに「お兄ちゃんが高学歴だったら、ルミちゃんも鼻が高いだろうなぁ」とか「お兄ちゃんと学校に行けたら嬉しいなぁ……」とか言われたら、もう学校そのものは拒否出来なかったよね。


 それで代わりに、自分に関わる金銭を自分で稼ぐ事には了承してもらった。もちろん装備購入などのランニングコストは出してもらうが、それは救助の時にロストした物だから気にしない。むしろ出せ。


 自分に関わるって言うのはつまりルミの事も含む。ここまで来て、途中で誰かにバトンタッチするのは座りが悪い。ケツの位置が決まらな過ぎるだろう。


 そんな訳で、この一週間もの時間で俺が何をしていたのかと言うと、装備の購入と免許取得の講習の受講だ。


 住まいが一番区になってしまったので、管理地区が遠いのだ。仕事に行くなら車が要るし、しかし俺は免許を持ってない。だからその辺も花田パパに世話してもらった。これくらいは構わないだろう。


 それで、車を買う段になって花田パパがテンション爆アゲでカタログ持ってきた。娘しか居ない花田パパは、息子と車選びとかしてドライブするのが夢だったらしい。それと単純に車が好きだとか。


 そうしてハンター向けの装甲車を一台買ってもらった。普段使い出来るデザインで、ゴツめのミニバンに見える黒い装甲車だ。見るからに風格が違う。安物の軽と並べたらレベル1とレベル99の対比みたいになりそう。


「これでルミちゃんの送り迎えも出来るね!」


 そう言われたらもう拒否れない。俺ってちょろ過ぎないか?


 だが確かに、ルミを乗せて小学校まで送ってから、自分が通うことになる中学に行けば、毎朝と毎夕が素晴らしい時間になる事は確定的に明らかだ。


 こ、これがマイカー持ちの日常だと言うのか……? QOL爆上がりじゃないか…………。


 車を買うと税金やら車検やら、また出費が増えてしまうのだが、それはもう仕方ない。確定ドロップで稼ぎまくるしかない。


 中学に通いながらもハンター業をやるのは時間的な制約もデカいが、ルミ的にはそれくらいの縛りが無いと俺が無茶をするから丁度良いと言う。


 ルミは「お兄ちゃんが次に無茶なことしたら、本当に管理地区について行くからね。一緒にハンターやるからね」と念を押された。花田パパから相応の高ランクカードを融通してもらえば、ぶっちゃけ俺以上の戦力である事が確定してるルミだ。多分本当にやると思う。


「あぁそれで、ちょっと良いかなハジメくん。君に渡したい物があるんだけど」


 そりゃもう、この一週間は既に渡された物だらけだが、まだ何ああるのか?


「はいコレ、偽像ぎぞうの腕輪って名前のアイテムだよ」


 そう言って花田パパが渡して来たのは、暗い灰色のブレスレットだった。


「…………これは?」


「Bランクの『ドッペルゲンガー』からドロップするアイテムカードでね、簡単に言うと変身出来る腕輪だよ」


 なんか予想の五億倍凄い物を渡された。


「えっ、ちょ……」


 Bランクからドロップするアイテムカード!? そんなのいくらするんだよ!


「流石に受け取れない!」


「いやいや、気にしないでよ。それ中古品だから値段もそんなだし」


「Bランクのドロップアイテムが『そんな』な訳無いでしょ!」


「でも、ハジメくんは中学生に混じって勉強するのが嫌だろう? だから、これで子供に紛れちゃえば良いと思ったんだけど……」


 んぐっ、まっ、いや…………、そう言われると凄い助かるアイテムに思えて来るからやめて欲しい。


 そうか、確かに、俺が子供になっちゃえば学校でも浮いたりしないだろう。完全に俺を想ってのプレゼントである。


 しかし、しかしだ。Bランクのアイテムカードだぞ? アイテムカードは普通のカードドロップよりもずっと希少だから、その分値段も跳ね上がる。Bランクから出る物となれば尚更だ。


 花田パパは中古品だと言ってたけど、もし新品だったら億単位の値段が付いただろう事は明らかで、多分中古でも数千万は絶対にする。なんなら中古でもまだ億超えかも知れない。


「まぁまぁ、もう買っちゃったし。使っておくれよ」


 そう言われ、もう折れるしかない。確かにもう買ってしまってる。今ここにあるのに、要らないと言っても時間は巻戻らない。だったら俺が有効活用するのが一番良いだろう。


「…………はい。じゃぁ、有難く」


 使い方を記す説明書と共に、腕輪を受け取る。アイテムの使用法は基本的にカード時代のテキストに書かれてる。だからアイテム化されてる中古品だと、説明書を書いてもらわないと使い方が分からないんだ。


 紙に書かれた使い方を読みながら腕輪を嵌め、実際に使ってみる。


「何なに、変身したい人物の血を用意して、変身したい年齢と同じ数だけ血を腕輪に垂らす……?」


 年齢も選べるのは良いな。変身したいのは俺自身だから俺の血を用意して、中学生に成りたいんだから血を十三滴くらい垂らせば良いのか?


  針でちょっと刺したくらいじゃ足りそうに無いので、結構ざっくり左手の指を切って見る。それから右手首の腕輪に十三滴の血を垂らす。


「…………………………何も起き────!?」


 なんも起きないと油断した瞬間、腕輪が光って部屋の中を埋め尽くす。俺と花田パパが二人して「目がぁぁぁあ!?」と騒ぐ中、暫くすると光が引いた。


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