お邪魔します。
「お邪魔します…………」
「いらっしゃいませっ♪︎」
「お待ちしてましたー!」
今日からご厄介になる花田ファミリーのお宅は、まぁ知ってたけど超豪邸だった。いや、豪邸って表現はおかしいな。集合住宅だし。
俺たちは二番区に住むことを目指してたのに、何故だか飛び越して一番区のタワマンに居る。ホント謎。
リムジン的な車を停めた駐車場も、タワマンの顔であるエントランスも、何もかもが「金持ちぃぃぃいん……」って効果音が聞こえそうな程に立派なものだったし、それらを通過して辿り着いたタワマンの最上階はやっぱり『豪邸』って言いたくなるようなお家だった。
このフロアが全域、花田ファミリーの物らしい。本当はワンフロアに四家庭くらい入れるタワマンなのだが、全部屋をぶち抜いてフロア全部を花田ファミリー用に改造してあるそうだ。
もう金持ちのやる事は分からん。
そうやってド肝を抜かれながらもお邪魔したお家で、いつか見た女の子が二人、満面の笑みで出迎えてくれた。
花田ヨウコと加藤コトネだ。俺が助けた女の子二人だな。
「えーと、久しぶり……? 無事だったんだな」
「お陰様で!」
「あの時は本当に、ありがとうございましたッッ……!」
もう何回も何回もお礼は受け取ってるので、これ以上は本当に要らない。とりあえず下げられた頭を上げてもらって、こちらもお礼をする。
「二人とも、妹の世話をして貰ったみたいで……」
「いえいえ! ルミちゃんはすっごく良い子なので、お世話だなんて……」
「本当に、お世話する隙も無かったですよ? ねールミちゃん?」
ふむ、なるほど見る目があるな。うちのルミは世界一賢く可愛らしいスーパーエンジェルだし、常人がお世話だなんて不可能なのは当たり前だったか。世話される前に自分のことは自分でやってしまうからな。
しかし褒められて照れてるルミも可愛いぞ。兄である俺じゃなく、年上の女性から褒められるとそんな顔をするんだな。知らなかった。
そう言う点で見ると、花田家でお世話になるのは良い事かもしれない。やはり貧困に喘ぎながら寂しく生活するより、人生を豊かに彩ってくれる人と一緒に過ごした方が情操教育に良いはずだし。
「ところで、花田さんの家だからヨウコさんが居るのは分かるんだけど、コトネさんが居るのは何故……?」
「さん付けだなんてそんなっ、呼び捨てにしちゃってください! ヨウコの家に来たのは勿論、ハジメさんが退院するって聞いたからです!」
どうやら俺の退院を祝ってくれるらしい。
ご両親も来てるらしく、奥の方で俺の歓迎会的な物を用意してくれてるのだとか。
「これ、ヨウコ。いつまで玄関で話してるんだ。主役を立たせたままじゃダメだろう?」
「ああごめんなさいっ、私ったら……」
途中、花田パパが現れて、軽く家の中を案内しながらリビングまで連れてってくれた。…………リビング? ここはリビングなのか?
なんだか俺の知ってるリビングじゃない気がする。多分これ、一般人は『パーティールーム』と呼ぶはずだぞ。
タワマンの最上階をワンフロアぶち抜きで作ってる生活空間はクソほど広く、部屋数も沢山あり、そして一部屋一部屋がやっぱりアホ程広い。
シンプルな間取り故に迷子なんかにはならないけど、玄関から一番遠い部屋から『外』が遠過ぎる。なんで外出しようとするだけで、家の中で二分とか三分も掛かるんだよ。
そんなこんなで通されたリビングは先の通りに『パーティールーム』にしか見えない場所だったけど、大きなテーブルに所狭しと食べ物が並んでて全部が美味しそうだった。
ピザやバーガーなどのジャンクな物から、切り分けて無いローフトビーフやデザートなんかも並んでる。
「ハジメくん、退院おめでとう」
「おめでとう。…………本当に、本当にありがとうございましたっ」
ご両親組とは入院中に顔を合わせてるから、すんなり事が運ぶかとも思ったけどそんな事は無かった。
特に加藤ママさんは会う度にペコペコして涙ぐむので正直困る。
「お兄ちゃん、お料理はルミも手伝ったんだよっ」
「おお、そうなのか? なら絶対に美味しいじゃないか」
ルミのお陰でお礼と謝罪の無限連鎖も止まり、歓迎会とやらが始まる。本当にこんな所で世話になって良いのか分からないが、少なくとも自立出来るだけの金を稼ぐまでは選択肢なんて無い。
装備もカードも吹っ飛ばしたから、また稼ぐ為には金が要る。金を稼ぐ為に金が必要になるって人生の縮図過ぎるクソみたいな状況だが、その金すらない俺には他に伝手なんか無い。
学校の件もあるし、最低限の装備も欲しいし、スライムボックスは紛失するし、もう訳分からん。
とにかく、退院したばかりだから仕事も禁止されてるし、その時間を使って環境に慣れる努力くらいはしますかね。
今日から暫く、ここが俺の家らしい。
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