imピンボールマン。
「殺してみろよクソッタレがぁぁぁぁああああ!」
もはや目もろくに見えず、爆増してる五感で周囲を捉えるしか無い俺は空に向かって叫んだ。
俺は祈らない。ただ足掻く。俺を生かすのは運じゃなく、確固たる俺の意思で無くてはならない。
──生きるの諦めて死を受けいれたけど、運良く生き残って帰って来れたよ。
そんなクソみたいなセリフを妹に言えるか。妹にはもう俺しか居ないのに。
──Cランクモンスターに遭遇したけど、俺を殺すには足りなかったな。
コレである。これじゃないとダメだ。俺が俺の意思で妹の元まで帰るのだ。それ以外には認められない。
「仕込みがゼロだと思ってんならお前は俺を殺せねぇぞクソ猫がぁぁあ!」
挑発する俺にブチ切れるグリフォンを五感で感じる。そして俺の仕込みが間に合った事も五感で感じた。
まだまだ俺のターンは終わらねぇよ。
「
思考で意志を伝え、投げられたカードを口で加えて無理矢理使った。
コトリに付けてた分隊が、俺に向かってカードを投げたのだ。
今日の収穫からドロップ率100%を隠す為に、ドロップの半分を隠し持たせてたそれを今ここに解放する。
両手が無いから口で受け取り、歯も噛み合わないウチから
「俺を投げろっ!」
俺が口で咥え切れなかったカードは分隊に回収させつつ、召喚したゴブリンとコボルトに俺を運ばせる。
攻撃されそうなら俺を投げさせ、投げた先にもモンスターを配置して更に飛ぶ。
投げられる度に頭がシェイクされて気持ち悪くなる。だが死んだらこんな具合の悪ささえ感じる事が出来なくなる。
「どうしたどうしたクソ猫さんよぉ! タップダンスでも踊ってんのかい!?」
フィールドにモンスターを配置して、それこそピンボールの玉が如く飛び跳ねる。
攻撃の度に減らされるモンスターは、ピンボール中にモンスターから差し出されるカードを使って補充する。
「grraaaaaaaa──!」
ブチ切れがガチ切れに昇華したらしいグリフォンが、いつまで経っても殺せない俺に痺れを切らせて風の攻撃を無差別に始めた。俺が一番恐れてた攻撃だ。
「ぐぃッ────……!?」
風の斬撃が肩を撫でて通り過ぎて行った感覚が走り、次の瞬間には焼けた鉄を押し付けたような激痛が走る。残ってた腕が消し飛んだのかも知れない。
もうマトモに動かせなかったパーツであり、目も良く見えないので確かめようが無い。
まぁ生き残ったらそれもきっと知れるだろう。だから今は、とにかく時間を稼ぐだけ。
一分、二分と踊り続ける。ステップを間違えた瞬間に死んでしまう恐ろしい舞踏だが、俺には舞台から降りる権利すら持たされてない。
五分、十分と叫び続ける。血が滲む歌声で
俺の演芸にたっぷりのお捻りをくれるグリフォンが、プチプチと雑魚を潰し始めた。俺が生き延びてるカラクリの十割がそれだから正しい戦術である。
「
潰されて減ったモンスターをすぐさま補充し、チェックメイトを先延ばしにする。
勝てなくても良い。時間さえ稼げば、この盤面をひっくり返してゲームを終わらせる事が叶うから。
だから──……。
「誰だか知らんが良く耐えたぁッ! 後は任せろぉぉお!」
たとえ他力本願だったとしても、俺はこの結果に胸を張って良いはずだ。
「エル・ワイバーン、
生き残ったと、耐え切ったと理解した。
五感に訴えかける力強いその声は誰のものか知らないが、公務員ハンターの声である事はハッキリと分かった。
エル・ワイバーンと言ったか。Bランクの化け物だ。グリフォンなんて一捻りだろう。
丁度、ツインテールキャットのバフが切れて、もう五感ですら状況が良く分からなくなった。効果時間は二時間のはずだが、俺はそんなにも長い時間を戦ってたのか? だったら大金星だろう。
「お前らはあの勇敢なフリーランスをさっさと救助しろ! あの鳥猫野郎は俺が仕留める!」
駆け付けたのは一人じゃないのか、何やら指示を出す声が聞こえる。だがそれすらもう、掠れて聞こえて、段々と意識が遠のく。
ああ、クソ眠い。家に帰りたい。
ルミ、今日はきっと美味しいものを────…………。
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