横行する罪。
何をどうしたら新人ハンターの俺が他のハンターを助けなきゃいけないのか。
そんな事も分からないまま俺は走る。
「ちょ、ハジメさん早い……!」
「無理に着いて来なくて良い! 一分隊置いてくから後から来い!」
ゴブリンバフを焚きながら走り、俺は温存するつもりだったライカンスロープを出して
二十万の損失に歯噛みしつつ、ゴブリンバフとの相乗で激上した俺の筋力と瞬発力を利用して廃都市をひた走る。
悲鳴が上がった方向へ近付いて行くと、段々と戦闘音も聞こえるようになる。
ライカンスロープのバフも影響してるんだろう。かなり鮮明に聞こえる。
戦闘音から察するに戦ってる人間は、二人か? だがモンスターは一匹? 訳分からんな。
この辺りならモンスターはゴブリンかコボルトが一般的だが、素人を相手にしたとしても一匹でハンターを圧倒するモンスターなんて居るか?
「高ランクのモンスターが流れて来た可能性もあるな」
ここがゲームなら、始まりの町から近い場所には弱いモンスターしか出ないんだろうが、
スライムしか居ないはずの草原に、場合によっては魔王だって登場する。
俺は最悪の自体も想定して気合を入れる。
考え、道に転がる瓦礫を蹴飛ばしながら走り、そうして目的地まであと少しと言った場所で、俺とは反対方向に走る奴らを見付けた。
「……ゲートで見掛けた大学生?」
人数は減ってるが、ゲート付近で見掛けたチャラそうな大学生グループが明らかに敗走してるといった
「…………まさか、あいつらメンバーを置いて逃げたのか!?」
俺はすかさずスマホを取り出して奴らを撮影した。後で証拠にする為だ。
パーティメンバーの置き去りは重罪だ。止むを得ない場合でも、仲間の救出をする努力は限界までしなければならない。
救難を感知した他のハンターでさえ救助義務が発生するんだ。最初から仲間として管理地区に赴いた奴らに責任が発生するのは当たり前だろう。
国は国民に、管理地区へ行く許可を簡単に与える。カードは多少の人材を失っても確保すべき重要な戦略物資だからだ。
しかし、だからこそ、国はカードを国へ持ち帰る人材に対して一定の保護をする。
命の危険は自己責任だが、連帯責任でもある。
管理地区や魔境は国が助けられない場所だから、だからこそハンター同士は助け合えとしっかり法に刻まれてるのだ。
「もし努力義務さえ怠って逃げてたなら覚えてろよ……」
しかし残念ながら、見捨てた仲間がモンスターに殺されたら死人に口無し。救助義務の放棄は罪として成立しずらいので、かなり横行してると聞く。
今回俺が要救助者を助けたとして、「救助の努力はした。努力義務は果たした」と言い張れば、結構言い逃れ出来るのだ。
見捨てた方も見捨てられた方も、自分の主観で喋るから客観的に判断出来る奴が居ない。だから最終的に「被害者が生きてるなら」って事でなぁなぁになる事も多いのだ。
まぁ、それを期待してダメだった奴も少なく無いから三番区に落ちてくる落伍者が減らないんだけどな。
逃走者と道ですれ違う時に「ヤベぇ見られた!?」みたいな顔をする男共に罪を確信し、口封じに俺を殺すか逃走を続けるか悩む様な素振りを見せた奴らに、俺はベアナックルとカードをチラ見せしつつ「やるなら相手になるぞ」と言外に脅す。
何から逃げてるかは知らないが、戦うなら全力での殺し合いになると示せば、俺と戦ってモンスターに追い付かれる事と、俺をこのまま行かせてモンスターに殺させるかを天秤に掛けた野郎共はそのまま逃走を選んだ。
「腰抜けが……」
しかし、逃げてた奴らは男しか居なかった。ゲートで見た時は数人の女が居たはずだが、まさか女を全員置いて来たのだろうか?
もし予想が当たりなら、アイツら想像以上のクズだな。
「まぁ良い。今はモンスターだ」
クズから思考を切った俺は、間近まで迫った戦闘領域に突撃する。
少し大きめの道路を走ってビルの角を曲がれば、瓦礫で三方向が塞がれた交差点に出た。
「…………クソがッ!」
色々とクソな情報が目に入るが、一番クソなのは配置だった。
俺が侵入した入口付近以外の逃げ道が瓦礫で塞がれ、要救助者が袋小路に居てモンスターが出口を塞いでる形だ。
これじゃさっさと要救助者を連れて逃げる事も出来やしないだろう。
「なんでこんな浅い場所にCランクモンスターが居るんだよ!?」
そしてもう一つクソなのは、道を塞いでるのがCランクモンスターだと言う事だった。
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