情操教育の為。
「じゃぁ、あの、雇って下さい……!」
「却下」
ルミとゴブリン達が一生懸命作ってくれた卵粥をはふはふ食べながら、俺からの状況説明を聞いたコトリ。
その説明を聞き終わったコトリの第一声を、俺はノータイムで却下した。
「だ、ダメでしょうか……?」
「ダメだな。俺があんたを雇用するメリットが無さ過ぎる」
「荷物持ちとか……」
「ゴブリンが居るのにか?」
俺はパワーズを召喚して見せてやった。
荷物持ちと言えば雑用の代名詞みたいな、誰でも出来る要らない人材に任せる仕事に思えるかも知れない。
だが勘違いしてはいけない。必要な荷物だから持って行きたいんだ。必要だから
それを任せる人材が、誰でも良い訳が無いだろう。
その点ゴブリンは素晴らしい。小柄でコンパクトだから邪魔にならないし、筋肉が人とは違って出力が高いから痩せ細ってても人間よりも力持ちだ。
更に召喚者に対して従順で良く言うことを聞く。召喚者の知性をベースに召喚されるから命令を理解しないなんて事も殆ど無い。
もっと言うと俺のパワーズは装備も良い物を揃えた。本来なら使い捨てが前提のゴブリンだと高級な装備なんてそもそも開発されてないので、今パワーズが装備してる物が割りとハイエンド扱いである。
装備のしっかりしたゴブリンは多少戦えるから、荷物を守る事だって出来るし、最悪は死んでも補充出来る。
なにより、俺はちょっとゴブリンに対して愛着が湧き始めてる。コイツらは本当に従順で使い易く、ルミも「ゴブちゃん!」と呼んで可愛がってる。お陰で俺もコイツらが可愛く見えてきたんだ。
どう考えても、信用度ゼロのコトリと比べて劣る点が一つも無い。
「…………えと、そのっ」
「おい、ルミを見るなよ。困らせるな」
俺が説得出来ないと見たコトリがルミを見て視線で助けを求めるが、ルミはこういう時に「助けてあげないの?」なんて言わない。
ルミは金を稼いでるのが俺なのだと理解してるし、俺に余計な負担を掛けない様にと気を遣う事も出来る優しい天才なのだ。ウチのルミはなんて賢いんだ…………!
助けを求められ、でも何も口に出来ないもどかしさから俯いてしまうルミを撫でる。俺の天使を困らせやがってコノヤロウ……。
「次ルミを困らせたらその時点で追い出すからな。交渉相手は俺だ。間違えるよ」
「ごっ、ごめんなさい……!」
まぁコイツも生きる為に必死なのは分かる。だが荷物持ちは要らんのだよな。どうしたものか。
見捨てるのは全く気にしないが、ルミが気にする。口にしないだけで、助けてあげて欲しいとは願ってる。
なぜならルミは天使だからな。
「お前、料理は出来るか?」
「…………で、出来ません」
なんで出来ないんだよ使えない奴だな。料理出来るなら家政婦代わりに雇っても良かったのに。
いや、まだ信用出来ないしこれで良かったか? ルミと二人きりにすると心配で俺の胃に穴が空くかもしれない。
「はぁ、面倒だな。…………ルミ、何か考えは無いか?」
「え? ……えっと、コトリお姉ちゃんにカードをかしてあげる、とか?」
「やはりルミは天才か?」
そうだよ。コイツにカード貸してレンタル代を取れば良いんだ。それで勝手に稼がせれば良い。
いや、この際立て替えで良いか? 売却価格分の金を回収出来たらそれで良いし。
「…………ん? 待てよ、それだと結局はライセンスの発行が必要か」
ライセンスの発行には身分証と電話番号が要る。つまり住所とスマホが必要だ。
…………ああ、なんだ追い出せないじゃないか。
「……仕方ない。コトリ、明日役所に行って手続きするぞ。お前のライセンスを発行する」
「えっ、いや、住む場所が……」
「失効してる権利関係は手続きすれば復効出来る。その時にウチを住所に設定すれば良い。ハンター家業に使うカードも俺が貸してやるから、稼いだら買い取れ。ちなみにまた管理地区難民に戻ってバックレようとしたら狩り殺しに行くからな」
「ひゃっ……」
「あと、借りてる間は俺の仕事を手伝ってもらうぞ。ゴブリンよりも手軽に扱き使うから覚悟しろよ」
そんな訳で、かなり不本意ながら家の住民と仕事仲間が増えてしまった。
まぁルミの情操教育的に仕方ない。上手いこと使うしか無いだろう。
天使であるルミには、『人を助けるのは間違い』だなんて覚えて育って欲しくないからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます