目覚め。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんがおきたよっ」
「お、ありがとなルミ」
要救助者を背負って帰った俺は、その後一日仕事を休んだ。
得体の知れない奴とルミを二人きりにする訳にもいかないから仕方ない。
昨日は明らかな民間人を背負って帰ってきた俺を見たゲート係員が同情の視線をくれたが、同情なんて要らんから金をくれ。
「…………ここ、は」
「起きたか」
家に連れ帰った女の子は、申し訳ないが丸洗いした。
小さなルミに任せる訳にもいかず、この先どうするかも分からない奴に金を出して病院に入れる事も躊躇われたので、せめて家で寝かせるのに不自由ない程度には洗った。
もちろん丸裸にしたし、ばっちり全て目撃してる。
今は薄らと栗色の髪がサラサラになって、まぁまぁ可愛らしい女の子に戻ってる。その前までは酷かったからな。
服は簡素なジャージを買って来て着せた。そのくらいならと出費は許容した。
「状況が分からないと思うから簡単に説明する。お前は管理地区のとあるマンションで見付けた。そこはゴブリンの巣になってたから、恐らくは占拠される前に住み着いてて、ゴブリンがマンションを占領後にお前は外に出られなくなったんだろう」
「………………あっ」
「その巣を殲滅していたらお前を見付けて保護した。金のない一般人を保護してくれるほど国は優しくないから、そのまま俺の自宅へ連れて帰ってきた」
少しずつ意識が鮮明になって来た女の子は、段々と目を開いて辺りを見回す。何も無いボロアパートだ。すぐに確認も終わるだろう。
最後に俺とルミを見た女の子は突然体を起こしたかと思うと、俺達に向かって土下座しようとして…………、そのままフラついて倒れた。
「謝罪も感謝も要らん。体調が悪化すると面倒だから寝てろ」
「あ、えと、…………ごめんなさい」
「要らんと言ったぞ」
「お兄ちゃん、なにか食べたほうがお姉ちゃんげんきになるかなぁ?」
「そうだな。ルミは優しいな」
隣で聞いてくるルミを撫でると、嬉しそうに俺の手に頭をグリグリ押し付けてくる。なんて可愛いんだ。これであと二年は頑張れるな。
ルミは女の子になにか食事を用意しようと、自分のカードケースからゴブリンを取り出して召喚する。野生のモンスターと間違えないようにゴブリン用の安いティーシャツを着たゴブリンだ。
カードケースはルミにも必要になるだろうと俺が買い与えた物で、あの中にはゴブリンが5枚、コボルトが10枚、ライカンスロープが5枚入ってる。
ゴブリンは昨日の内に、使えるならって事でルミに渡したのだ。ゴブリンは雑用にも使えるからな。有って損は無い。
ゴブリンを召喚したルミは全員でキッチンに向かって作業を初め、様子を見るとお粥を作るのだろうか?
冷凍庫から取り出した冷凍ご飯をレンジでチンしながら、小さな土鍋をコンロに置いた。
ルミのゴブリンには俺が簡単な料理やキッチンの使い方なんかを教えてあるし、俺のゴブリンにも教育済みだ。
「……えと、あのっ」
「ああ、そういやお前、名前は? 身分証も何も無かったから名前すら分からんのだが」
「あっ、あの、こっ、コトリです……」
ルミの可愛らしいお料理風景を眺めながら、あまり興味は無いが女の子の名前を確認した。行く宛ても無いんだろが、なるべく早く出て行って欲しいところだ。
「あの、着替え……」
「ん? ああ、悪いが丸洗いさせて貰ったぞ。あの状態で家に置いときたく無かったしな。放り出されるよりマシだろ?」
実際、嫌だと言うなら放り出す。こっちは保護の義務も無いのに面倒見てやってるんだから文句を言うな。
ハンターが負う義務は救助までだ。保護は必要ない。
「あぅ……」
「照れなくて良い。別に興味も無かったから何も思ってない。人形を丸洗いしたようなもんだ」
「そ、それはそれで……、なんか嫌です……」
「贅沢な奴だな」
体を洗われたと聞いて赤くなって俯いたかと思えば、一応フォローしてやったのに文句を言う。随分と図々しい奴だ。
「それで? 一応目覚めるまでは面倒を見てやったが、この先はその義理も無い。行く宛ては無いんだろうが、可能ならさっさと自立して欲しい」
「あの……、また管理地区まで連れて行って貰ったりは……?」
「馬鹿か? 元々どうやってあの場に行ったのか知らないが、行きたければライセンスを作って自分で行け。ライセンスも無い民間人なんか連れてったら俺が捕まるだろうが」
ライセンスとは、自分の意思で『人類圏の外に出ます。死んでも文句言いません』ってサインをするからこそ、誰でも発行出来るのにライセンス足り得るのだ。
そのライセンスを持ってない人間を外に連れて行こうとすると、『死ぬ覚悟の無い一般人を外に連れ出してナニカしますフヒヒヒヒ』って言う犯罪行為の宣言に他ならない。
政府からのイチャモンが嫌で救助したのに、なんで完全にアウト臭い犯罪に手を染めなければならないのか。アホくせぇ。
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