困った。



 とても困った。なんて面倒な拾い物をしてしまったのか。


 俺の様子を見てパワーズもハウンズも申し訳なさそうにするが、お前たちは悪くない。お前たちは頑張ってる。


 悪いのは、こんな所に住み着いてるコイツである。


 この女の子が住んでただろう部屋を見れば、生活感に溢れるぐちゃぐちゃ具合であり、まず間違いなく住み着いてただろうと分かる。


 ここで問題なのが、コイツが一般人だと言うことだ。


 通常、管理地区で見つけた要救助者は助けなければならない。ライセンスを取得した時にそう言った義務が発生する。


 管理地区へと足を踏み入れる人物は皆、自己責任で此処まで来ている。


 だから死ぬなら死ぬでやっぱり自己責任なのだが、だからと言って『国にカードを持ち帰ってくれる人材』を無為に死なせる事も無い。


 その曖昧な意識の対応として、『要救助者の救助義務』なのだ。


 これは、管理地区に居るのがハンターだけと言う前提で決められたものであり、ライセンスも持って無さそうな民間人を対象にした物じゃない。


 だが、本来は民間人なんて居るわけが無い場所に於けるルールだから、態々わざわざ『民間人は適用外』だなんて文言も記載されてないのだ。


 だから民間人であろうとも、管理地区および魔境で要救助者を見付けたら、その時点で救助義務が発生する。


 これがハンターなら良かった。少し助ければ自分で戦える人材だし、何より多少なりとも金は持ってるから救助後も自活出来る。


 しかし、今の日本は貧困者を支援するような制度が無い。管理地区に住み着く様な民間人を助けても、国は何もしてくれないのだ。


 つまり、俺はこの女の子を助けた後、『じゃぁ、そういう事で』と人類で突き放して見殺しにするか、その後も生活を支援してあげるかの二択なのだ。


 もう一度言う。なんて面倒な拾い物をしてしまったのか…………。


 俺の最優先はルミだ。ルミを養う上でコイツを見捨てるのが最善ならば、俺は良心の呵責なんて欠片も無く見捨てられる。


 しかし、ルミの情操教育的にはどうだ? コイツが生活するとしたら三番区だ。二番区に住めるような金があったらこんな所で衰弱してないだろう。


 つまり、三番区で俺達兄妹に再び遭遇する可能性が高い。


 もしそこで「あ、私を見捨てた人だ」とか言われてみろ。ルミにも「お兄ちゃん、あのお姉ちゃんをみすてたの……?」とか聞かれたら俺は死ねるぞ。


 最善は此処でこのまま、『見なかった事にする』が大正解だ。


 しかしもし、他の人に救助されて、もし今この瞬間もこいつに意識があって俺の事を覚えてたら?


 最悪は救助義務を怠ったとしてライセンスの剥奪が待ってる。そうすれば俺は無職だ。


 奥の手でコイツを此処で殺す手もあるが、それも難しい。


 管理地区と人類圏を隔てるゲートに居る職員に絶対バレないとは言えないのだ。


 コボルト程度のカードを持ってれば『人間の血の匂い』なんてすぐ分かるし、今この瞬間も何処かのビルからライフルの照準器スコープで誰かに見られてる可能性すらある。


 銃砲許可は取得が面倒だが、ハンターなら頑張れば取れるのだ。


 要するに、見付けたらこの時点で俺は割りと詰んでる。クソが。


「仕方ない、救助するか。召喚サモン


 俺は残してたモンスターを全部召喚し、マンション内のモンスターを残らず殲滅するように指示を出す。


 パワーズが着てるガードシリーズはゴブリンに噛まれても大丈夫だし、殴られても引っ掻かれても大したダメージを負わない。


 つまりゴブリンガードを着用してるだけで、現状ウチのパワーズはゴブリンから見ると格上モンスターなのだ。


 それにコボルトもついてるし、雑な指示で戦わせてもゴブリン相手には負けたりしない。

 

「……おい、起きろ。意識は有るか? おい」


 軽く女の子の薄汚れた頬を叩いて意識を確認する。しかし起きない。


「思ったよりも衰弱が酷いのか?」


 残念なことに、家まで連れて帰る必要がありそうだ。


 誰だか知らんが、救助義務なんて穴だらけの制度を作った誰か、恨むからな。


「はぁ、ついてないな。100%ドロップじゃなかったら稼ぎも悲惨な事になってたぞチクショウ」


 俺はこの日、ゴブリンの巣を一つ潰しただけでトンボ帰りする事になった。辛い。


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