民間人。



 足跡の形から分かってた事では有るが、このマンションはゴブリンの巣だった。


 個人的にはコボルトの巣だったら嬉しかったが、ゴブリンも安くて使い易いカードなので数が欲しい。


 頑張れば一般人でも入手可能な癖に、売却相場が五千円を下回らないゴブリンの需要は伊達じゃない。


 コンスタントに売れば店側の覚えも良くなるし、俺も手軽に使える起動コール用として数が欲しい。


 何より、スライムが手に入ればコボルトと融合してライカンスロープに出来るのが最高だ。強力なバフだし、高額で売れる。


「……ふんッ!」


 ライカンスロープで強化した膂力でベアナックルを繰り出し、襲ってくるゴブリンの顔面を潰して殺す。


 マンションの廊下を歩いて一部屋ずつ確認してる最中だ。


「…………マンションの元住人が見たら卒倒するだろうな」


 ゴブリンに荒らされた部屋は酷いものだ。見るも無惨に荒らされ、汚され、ゴブリンの糞尿がこびり付いて異臭を放ってる。


「あれで地面を汚されると『汚染』なんだったか? 建物だとセーフな意味が分からんが」


 殺したゴブリンがカード化するのを待って、次に行く。このマンションはゴブリンがギッチリ詰まってるらしく、現在はまだ三階だが20枚近く集まってる。内心ホクホクだ。


「よっと……!」


「ィギッ--!?」


 三階の探索を終え、階段を昇って四階へ。その途中、踊り場の影で俺を殺そうと隠れてたゴブリンに気が付いて、鉄槌を裏拳の要領で振り抜いて角にいたゴブリンを刺し殺す。


 ベアナックル装備だから鉄槌を撃つとナイフの刺突になってしまうのだ。


 ライカンスロープのバフは筋肉だけじゃなく五感まで強化されるので、階段の角で息を殺して待ってる程度のスニークなら何も意識せず見破れる。


  ライカンスロープ、強い(確信)。


「……是非、本物のライカンスロープとは出会いたくないもんだな」


 Dランクから、モンスターは正真正銘のバケモノになる。人間が戦ってもまず勝てない。だから召喚モンスターに頼るのだ。


 いくらバフを積んだって、生来の殺人鬼を相手に殺しの腕で勝てる訳が無いのだ。奴らは殺すための生態をしてるんだから。


「…………ん? 戻って来たな。何かあったか」


 スニークゴブリンがカード化したので回収してると、感覚的に一分隊が戻って来てるのを感じた。まだ最上階じゃ無いはずだから、トラブルだろうか?


「げぎゃ!」


「わんわん!」


「なんだ、分からんぞ」


 モンスターは召喚者の言うことを良く聞くが、召喚者はモンスターの言語など分からない。


 それはモンスター達も分かっているのか、必死にボディランゲージで教えようとしてくれる。あとついでに回収出来てるカードも渡してくれた。偉いぞ!


「…………ふむ。ナニカが居た?」


 なんとか『ふしぎなおどり』にしか見えないパワーズとハウンズのボディランゲージを読み取ると、上階にナニカが居たという事だけ分かった。


 モンスターは殺せと言ってあるし、それでも殺さなかったなら『殺せないほど強いモンスター』か、『モンスターじゃないナニカ』である。


 ゴブリンの巣に、ゴブリンを摘む程度に食べるモンスターが一緒に巣食うのは有り得る話しだ。


 ゴブリンも強力なモンスターの庇護を得ようとして生け贄を捧げる程度の知能はある。


 もしモンスターじゃ無いとしたら、こんな所に居るモンスター以外の生物と言ったら人間しか居ない。


「ふむ。強力なモンスターと人間の二択か」


 しかし、モンスター達は焦ってる様には見えない。ならば人間か?


「よし分かった。一応接触してみよう」


 要救助者だったら見捨てると大変だ。最悪見捨ててもバレないとは思うが、もしバレたらライセンスが失効する可能性もある。危ない橋は渡らないで置こう。


 そうして、トラブルがあった六階まで案内された俺は、マンションの一室に住んでたらしい民間人を発見した。マジかよコイツ……。


 衰弱した状態で見つかったのは、俺より少しだけ年下に見える女の子だ。薄汚れて酷い見た目になってるが、ギリ生きてると思われる。


「もしかして、管理地区に住んでるって言う猛者か……? 実在したのか」


 俺は戦慄した。まさか本当にそんなクレイジーが居るとは。


 おおかた、このマンションに住んでたらゴブリンに占拠されて、部屋から出られなくなったって所か?


「どうするか。…………面倒だな」


 

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