スライムボックス。



 俺が持ってるモンスターカードはゴブリン、コボルト、スライムの三種類だ。


 繋ぎに使うスライムも丁度あるし、試しに全てのカードを三連ソケットの方に入れてみる。


 スライムカードだけは三つ重なったソケットの内、真ん中にしか入らなかった。上下に入れるカードの繋ぎにするから真ん中って事なのだろうか。


 他のソケットに入れようとすると、見えない壁でもあるかのように阻まれる。


 反対に、ゴブリンとコボルトのカードも真ん中のソケットには入らなかった。そう言う仕様らしい。


 3枚をしっかり奥まで差し込むと、スライムボックスが音もなく作動してカードを装置の中へと引きずり込む。


 しばらく待つと、三つソケットがあった面の反対にあるソケットから1枚のカードが排出された。


「…………ライカンスロープ?」


 出て来たカードは、巨大な狼が人型に変身するかのようなイラストのモンスターカード、Dランクモンスターのライカンスロープだった。


「……Dランクか。俺は使えないな」


 俺の同時召喚数はD以上が軒並みゼロだ。試しに召喚サモンと口にしてみても、ライカンスロープはなんの反応もしない。


 だがライカンスロープは二十万くらいで売れたはずだ。モンスターとして使ってもコボルトの完全上位互換であり、起動コール能力も同じく上位互換のバフ能力で凄まじく強い。


 しかも、コボルトとゴブリンの起動コール効果が一時間なのに比べ、ライカンスロープは半日も持続する。


 狼その物にしか見えない獣型で使えばペット替わりにもなり、一般人にもかなり人気があるカードだ。高額なので金持ちしか買えないが。


 俺も召喚は使えないが、起動コール能力なら使える。これは良い物だ。


「スライムカードさえ有ればライカンスロープを作り放題なのか? 神アイテムじゃないか」


 召喚サモン出来ないのは残念極まりないが、奥の手として起動コール用に取っておくだけでも意味はある。


 別種カードのバフは重複するので、このカードを使えば俺は更に強くなれる。


「作れるだけ作っておくか」


 俺は手持ちのスライムを全て使ってライカンスロープを作った。これで損益分は回収しただろ。いざと言う時には自分で使えるし。


 普通のハンターならきっと、こんなにも大量に起動コールカードを消費するような戦い方は出来ないだろう。


 だからこそ強いモンスターを召喚出来る人間と、強いモンスターから高確率でドロップさせられる人材が重宝されるのだ。


 手持ちのスライムは全部で6枚だったので、ライカンスロープも6枚作れた。スライムボックスは素晴らしいアイテムだな。


 召喚してしまったが、アイテムはモンスターと違ってカードに戻せないから関係無い。要らなくなったらコレを売る事も出来るから、今日の稼ぎは充分過ぎる。


「まぁ売らないけどな」


 手元にあればDランクカードを量産出来る神アイテムだ。ドロップ率が普通の人でも欲しがるだろう。


 なにせゴブリンとコボルトとスライムの売却価格なんて、全部合わせてもライカンスロープには届かない。


 ゴブリン五千円、コボルト五万円、スライムが八千円である。それが二十万に化けるのだ。笑いが止まらない。


「念の為、起動コール


 ライカンスロープを1枚起動コール。更に身体能力を引き上げてから六階と七階の掃討に望む。


「ふぅ、俺にとっては宝箱なんだがな。しかし連戦が辛いのは変わらないか」


 普通のハンターなら、このビルを丸ごと掃討してもカードが数枚出るかどうかって所なのだから、それに比べたら随分と恵まれている。


 しかし、その代わり俺は高ランクのドロップ率が軒並み死んでる。


 1枚で億を超えるカードを比較的簡単にドロップさせてるハンター達と比べたら大した稼ぎじゃないんだ。


 SランクやAランクのモンスターを召喚して、魔境でBランク以下のモンスターを虐殺してればドロップ率10%なんて関係無い。


 凶悪なモンスターに百匹、二百匹と殺させてれば、数千万から数億の値が着くカードがドロップするんだ。


 ドロップカードは消耗品だ。召喚モンスターとして大事に使っても、魔境で戦えば死ぬ事もある。有事の際には起動コールする事もあるだろう。


 日本だけじゃなく、諸外国も国防にカードを使う時代なのだ。強力で従順なモンスターとして、高ランクカードの需要は早々落ちない。


 雑魚カードとは言え確定ドロップさせられる俺の体質は、確かにその辺の自営業ハンターや企業系ハンターから見れば凄まじい物に見えるかもしれない。


 だが、そうやって億越えのカードをメインに稼いでる公務員ハンターから見たら「あったら便利だなぁ」くらいのチカラでしかないのも事実なんだ。


 だって、俺が仮に千体のゴブリンを召喚したとして、Cランク程度のモンスターを一匹召喚すれば薙ぎ払えるのだ。AランクやSランクは語るまでもない。


 それどころか、体質がバレたら便利な奴隷みたいに扱われるかもしれない。「便利止まり」でしかないが、それでも今のところは無二の能力に違いは無いからな。


「……そうだな。あまり派手には動かないようにしようか」


 俺はビルの階段を登りながら決意する。


 確定ドロップなどと騒がないで、普通のハンターを装って普通にカードを売りに行こう。起動コール用のカードなんかも確保してれば数も丁度良いだろうし。


 こうやって巣を一つ潰せば、普通は何枚かドロップするものだし。仕事で二、三個も巣を潰してる風を装って売れば目立たない。


「グルゥアッ!?」


「おっと見張りか」


 階段を登りきった所でコボルトと遭遇した。出会い頭にベアナックルでぶん殴って殺したが、今の叫び声を聞いて他の個体も部屋から廊下に出て来た。失敗したな。


「もう少し慎重に来れば良かった」


 ゴブリン+コボルト+ライカンスロープの起動コール効果で激上してる身体能力のお陰で、もはやコボルトが何体居ても敵じゃ無くなった。


 吠えながら噛み付きに来る犬ッコロの顔面をぶん殴って破裂させ、足元を狙う奴を踏み潰して先へと進む。


 ライカンスロープ分の起動コールが強すぎたのか、召喚してるモンスター達とも戦闘力が乖離してしまった。

 

 俺を守ってもらうつもりが、損益を出さないように俺がモンスターを守るように戦う始末だ。


 結局、七階もかなりサックリと掃討が終わり、相当量のコボルトカードを手に入れることが出来た。美味い稼ぎだ。


「ははっ、やっぱりハンターは稼げるな」


 確定ドロップなんて無くても、もし俺が起動コールも無しにこれが出来るモンスターを召喚出来たなら、この巣でコボルトカードが1枚でも出れば日当五万円の仕事である。


 討伐数と世間の平均ドロップ率を考えても数十万の稼ぎは確実だろう。


 やっぱりハンターって仕事は、奴なら最高に稼げる仕事だ。


「待ってろよルミ、今日はお兄ちゃんがお肉を買って帰るからな」


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