アイテム。



「--ふっ」


 ビルの上階、今は五階だったか。四階より上にはコボルトがウジャウジャ居た。群れない癖に巣の中なら連携もしやがる。


 まだ数が少なかった四階は一気に掃討し、現在は五階を片付けてる最中だ。


 このビルは一階に1フロアと言う作りで、一階ごとに何部屋も確認する必要は無かった。


 しかし、それは同時に「一階ごとに全部のコボルトと同時に戦う」事を意味してる。


 召喚してるモンスターは離れて居ても召喚者の命令を聞くとネットで見たので、今別行動させてるコボルトに対して急いで戻って来るように伝えている。細かい命令は無理だが、呼び戻すくらいは可能らしい。


 だがしかし、今だ。現在、この瞬間に戦力が足りてない事実は動かないのだ。


「くそっ、稼ぎが……! 召喚サモンッ!」


 四階で回収した8枚の内、5枚を消費して戦力を増やす。


 巫山戯るなっ、これで二十五万円が飛んだぞ!? ルミに何回お肉を食わせてやれたと思ってんだ!?


 イラついていると、更に嫌なタイミングでバフが切れてしまう。


 流石にゴブリンよりも強いコボルトを相手にバフ無しは死んでしまう。


 俺は味方のコボルトにサポートして貰いながら、急いでゴブリンを1枚起動コールする。それから思い立って、コボルトも1枚追加で起動コールした。


 これで五万と五千円が追加で飛んだ。もう乾いた笑いしか出て来ない。


 コボルトカードの起動コール効果はゴブリンの物と結果は同じだが、実際は自分の筋肉にコボルトの膂力をと言う物だ。ゴブリンと違って訳じゃない。


 そして何故、いま似た様な起動コールを2枚も使ったのかと言うと、別種のカードであれば起動コール効果が重複出来るらしいのだ。


 つまりゴブリンの『自身の筋力がゴブリンと同等になる』効果と『コボルトの膂力分の強化』が重複する。



 その効果は絶大だった。



 ベアナックルを振れば骨など関係無いとばかりにコボルトが切断されて、殴れば潰れ、腕を一振すればコボルトも一匹死んで行くようになった。


「…………ははっ、なんだよ。追加召喚要らなかったじゃないか」


 驚く程に増えたパワーに物を言わせて、五匹のコボルトと一匹のゴブリンを連れて暴れ回る。


 まるで超人にでもなったかのような感覚だ。ハンター達はいつもこんな経験をしているのか?


 床を蹴って天井を跳ね、壁を走ってコボルトを殴り潰して首を刎ねていく。


 気が付けば、部屋中のコボルトが全て死んでいた。


「はぁ、勿体無い使い方をしてる気がする。と言うか、普通は最大でも10%のドロップだし、平均で言うともっと低いんだよな? もし俺のドロップが並だったら大赤字じゃないか?」


 この職業の大変さを理解する。


 こんな思いをしてモンスターを倒しても、ドロップが無ければ赤字なのだ。


 こんなの、消耗も殆どなく勝ててしまう高ランクカードを持ってるハンターじゃなきゃマトモに稼げないぞ。


「……くそっ、仲間のコボルトが一匹足りない。死んだか?」


「わぅ……」


 今の戦闘で五万円を起動コールして、五万円を1枚ロストしたらしい。十万円の損害だ。


「はぁ、なるべく利益回収したい。ゴブリン、カード回収を急いでくれ。コボルトは上階を警戒。血の匂いで降りてくるかもしれん」


 ゴブリンにカードを回収させてる間、呼び戻してた部隊が到着したらしい。下階からドタドタと音が聞こえる。


 五匹召喚して一匹死んで、元々連れてた奴を合わせて五匹のコボルトに、探索に出てたコボルトがゴブリン部隊も伴って現れる。


「ぎぎぃ!」


「お? カードか! こんなに回収してくれたのか? 助かるっ! お前達は偉いなぁ!」


 ロストした分を余裕で回収出来てホックホクになってしまった。


「……ああいや、俺と一緒に戦ってくれたお前達も偉いぞ。比べるつもりは無かったんだ。落ち込まないでくれ」


 俺が増援だけを褒めたので、一緒に戦ってたグループか落ち込んでしまった。悪かった、俺のデリカシーが無かった。


 仲間が死んだのに利益がどうとか言ってしまったし、申し訳ない事をした。俺は可能な限り仲間を労う。


 ゴブリンが差し出して来たカードはゴブリンが16枚で、コボルトが9枚だった。ついでにスライムが4枚。


 そして、アイテムカードが1枚。


「…………スライムボックス? 聞いた事ないな」


 見た目は黒く平たい箱にカードを入れるようなソケットが三つある。


 今更だが、ドロップカードの名称やランク、起動コール効果は全てカードに書いてある。


 謎言語と謎記号で記載されたそれは、何故か全人類問題無く読めると言う謎仕様。謎しかない。


 母国語がどこの国であろうとも、なんなら言語を学び切ってない子供でも読める。


 そんな謎言語で「スライムボックス」と書かれたカードは、「スライムボックス」って名前のモンスターを倒したので無ければアイテムカードなんだろう。


 ネットでも見た事ないカードなので謎言語テキストをしっかり読むと、起動コールした場合は次に倒すスライムが確定ドロップになると書いてある。


 これはこれで、凄い効果なのでは? 俺には無意味だが。


「……Fランクのスライムはどっちにしろ確定ドロップだしなぁ」


 アイテム効果は「スライムを繋ぎとして使い、モンスターカードを融合させる装置」とある。どう言う事だ?


 この場合は起動コールを無視しても良いだろう。召喚サモンすればアイテムが出て来るので、そのアイテム効果に期待しよう。


召喚サモン


 呼び出すと、イラスト通りの平たい箱が手に現れた。イラストでは見えなかったが、ソケットが三つある面の反対にもう一つソケットがある。


 ふむ? スライムを繋ぎにして? カードを融合させる? つまりスライムを含めて三枚のカードをソケットに入れたら、反対のソケットに融合されたカードが出て来るのか?


「やってみるか」


 俺は六階以降のモンスター狩りを一旦意識の外に置き、スライムボックスの実験を始めた。


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