Eランク。



 ゴブリンに案内された場所に居たのは、何とも可哀想なモンスターだった。


「…………幸運が続き過ぎて、流石にそろそろ怖いんだが?」


 廃都市のビルから瓦礫でも落ちて来たんだろう。岩のようなコンクリ片に押し潰される形で藻掻いてるモンスターが目の前にいる。


 それは人型であり、サイズ的にもゴブリンと同等でありながらゴブリンよりもワンランク上のモンスターであるとされてる獣型の怪物。


 Eランクモンスター、コボルトだ。


「……劣化した建造物の上からこのサイズの瓦礫が落ちて来たのか。即死して無いだけ、流石モンスターだなとは思うが」


 あまりに哀れなので、藻掻く灰色の毛玉にベアナックルを突き立てて仕留めた。


「ふむ。これでコボルトもドロップしたなら、俺はEランクまでなら扱えるって事だろう」


 それでも、国や企業が求めてるのは高ランクモンスターの高ドロップ能力と複数同時展開能力であり、雑魚をドロップさせて雑魚を使役するだけの俺では雇って貰えないだろう。


 ハンターって存在はカードと言う資産を消費しながらカードを稼ぐという、ある意味ではギャンブラーの様な仕事なのだ。


 そこへ行くと、人が求めるのは大金を動かして大金を得る凄腕ギャンブラーであり、俺みたいな小銭で小銭を稼ぐ場末の賭場荒しみたいな奴はお呼びじゃない。


 例えイカサマ染みた必勝だろうと、百円の勝負を一万回必勝する俺と、二回に一回以上は一千万勝てるギャンブラーなら、世間が求めるのは後者なのだ。


 ドロップ率とは率直に「運」であり、同時召喚数とは勝負できる「手数」だとすれば、そのどちらもが低ランクである俺は、ギャンブラーとしては正直ゴミである。


 利益にはなるだろうが、「それ別に君じゃなくても良いよね」状態なのだ。


 俺なんか雇わなくても、もっと能力の高いハンターを雇えば良いのだから。


「………………ドロップ、したな」


 そうやって思考しながら待つこと三十秒くらいか。コボルトが金色のカードになる。


 拾って見てみると、絵柄もコボルトなので間違いなくコボルトだろう。金塊などのアイテムカードは早々ドロップしないか。


召喚サモン


 俺はそのまま手に持ったカードを召喚した。


 コボルトのカードはゴブリンと比べると値段が跳ね上がる。1枚で五万円程で売れるのだ。


 だが今はそれよりも、モンスターとしてのコボルトが欲しい。


 昨日はゴブリンがアレだけ大量に侵攻して来たから、てっきり管理地区へ来たらもっと居るのかと思ってた。


 しかし、いざ管理地区へと来てみれば、驚く程に生物の気配が少ない。これではお金が稼げない。


 だからコボルトに協力してもらう。コイツらは小人型の犬みたいなモンスターであり、その見た目通りに鼻が利く。


 その鼻を使ってモンスターを探してもらうか。頼むぞコボルト。


「わう?」


 召喚されたコボルトはゴブリンと比べたら随分と可愛らしいモンスターだった。


 瓦礫に潰されていた先程のコボルトは死に物狂いで恐ろしい顔をしていたが、今は同じ顔の作りなのに穏やかな雰囲気で、ハッハッと舌を出して短く呼吸してる。本当の犬みたいで可愛い。


「コボルト、早速で悪いが周辺に居るモンスターを探してくれないか? なるべく弱いモンスターだと嬉しい。殺せそうなら殺してしまって、カードだけ持って帰って来てくれ」


「わん!」


 灰色の毛玉を送り出した俺は、ゴブリンと一緒にその後が追うように歩き出す。


 鼻が利くコボルトが通って無反応だった道なら、幾分いくぶんかは警戒を下げられる。正直、こんなビル街をこのまま全周警戒とかしてたら身が持たない。


「ゴブリン、護衛は頼んだぞ」


「ぎぎ!」


 身の安全を優先するなら護衛もコボルトの方が良いのだが、今は稼ぎを優先させたい。


 コボルトは単純にゴブリンの上位互換であり、一個体の戦闘力で言うと大体倍ほどらしい。


 索敵も戦闘も小間使いとても使えて、見た目も良い。なので、ゴブリンよりも需要が高くて高額で売れる。


 売ると五万、買うと十万だ。


 ゴブリンもゴブリンで着飾れば見た目も誤魔化せるし、何より安いから利用率の高いだろカードではあるけどな。


「ギギャァッ!?」


「グギィィ!」


「おっと、さっそくコボルトが仕事してくれたみたいだぞ。ゴブリン、準備は良いか?」


 俺はジャケットの胸ポケットから取り出したゴブリンカードを起動コールして自分にバフを掛けた。


 そしてベアナックルを構え、悲鳴の方向を睨んで待つこと十数秒。ビルの影から三匹程のゴブリンが飛び出して来た。


 既に血塗れなのは恐らく、コボルトにやられたんだろう。


 見付けた群れに突撃でもして、討ち漏らしがコッチに逃げるように調整しつつ、自分は自分で群れを潰してるんだろう。少し遠くからそんな感じの喧騒が聞こえてる。


 コボルトが予想以上に優秀だった事に内心喜び、俺という人間を見付けて思考が「逃走」から「攻撃」に切り替わったゴブリンを迎え撃つ。


 今日は装備が専用の物だから手加減など要らん。バフで爆増してる筋肉でアスファルトを踏み抜きながら自分から吶喊とっかんしてベアナックルを振り抜く。


「ギッ--」


「まず一つ」


 通り過ぎざまに一匹の顔面を陥没させる勢いで殴る。ベアナックルのメリケンサックは凄まじく使いやすかった。


 そのまま振り返りざま、反対の手に持ったベアナックルを薙ぎ払って二匹目の首をねる。



「これで二つ。…………ゴブリン、俺はコボルトの方に行ってくるから、お前はその二匹がカードになったら持って来てくれ」


「ぐぎゃ!」


 連れてたゴブリンに仕事を任せ、まだ群れと戦ってるらしいコボルトの方へと駆け出す。


 ゴブリン起動コールは一時間しか続かない。今の俺が体現してるスペックは一時間五千円って値段で発動しているのだ。一秒も無駄には出来ない。


 さっさと狩って、次に行こう。


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