探索。



 装備を整えた翌日、俺は魔境管理地区へ来ていた。


 魔境管理地区はその名の通り、魔境を管理する為に存在する土地だ。


 その目的は、魔境からモンスターを誘い出して殺し易くする事と、魔境と人類圏の間に緩衝地帯を設ける事で人類へ直接の被害が出るまでの猶予を確保する事が目的となる。


 だから正確には、文化の対立を防ぐ為の『緩衝地帯』と呼ぶのも間違ってるのだが、『緩衝材的な土地』と言う意味では合ってるから、まぁ完全に間違いでも無いんだろう。


 そんな魔境管理地区だが、形態としては二種類存在する。


 まず一つ、普通に人類が撤退しただけの廃都市型管理地区。


 これは入り組んだ都市のせいでモンスターから不意打ちを受ける可能性も上がるが、逆に戦術的な行動によって被害を減らすことも出来るタイプの管理地区となってる。


 小型から中型のモンスターが多く見られる場所は大体コレだ。


 もう一つは、管理地区全域を更地にしたフラット型管理地区。


 これはもう、「説明不要!」って感じがするけど、まぁ、文字通りの更地だ。


 モンスターが隠れたり出来ないように徹底的にフラットな土地を作り、魔境からやって来た丸見えのモンスターを、人類圏へ近付く前から一方的に攻撃して潰し切るタイプの管理地区となる。


 もしくは広いスペースを利用して大怪獣バトルが行われたりもする。


 大型のモンスターが多い魔境は大体コレで囲ってあり、その手の管理地区には遠距離攻撃が得意な公務員ハンターが配置されると聞く。


 遠距離攻撃が得意と言っても、本人じゃなくて召喚するモンスターが、だけど。


 俺が住んでる場所にある管理地区はどっちのタイプかって言うと、まぁ前者だ。小型から中型が多い魔境である。


 残念な事に、小さいのが多いからって魔境の脅威度が低い訳じゃ無い。小型や中型でもAランクやSランクのモンスターは普通に居るからな。


 しかし、俺が探すのはそんな勝てない上に勝っても旨みが無い相手じゃなく、Fランクのゴブリンだ。


 俺はAランクなんてドロップさせられないんだから倒しても意味が無い。


 ああいや、Fランクなら別にゴブリンじゃなくても良いし、なんならEランクでも構わない。Eだと殺せるかちょっと不安だが、まぁ殺してみせるさ。妹のためだからな。


 廃都市型の管理地区は文字通りの廃都市だから、一人で行く場合はかなり気を使って歩く必要がある。


 じゃないと、ふとした瞬間に物陰からナイフを持ったゴブリンに襲われるかも知れないし、他の小型モンスターに頭からバックリ食われるかもしれない。


 中型までが多いと言っても、大型が全く出ないって訳でもなくて、そんなモンスターとの戦闘が行われてる廃都市はもう、ボロボロでグシャグシャなのだ。


 正直、瓦礫まみれでソロはキツイ。索敵にばかり時間がかかる。


「…………ああ、そうか。俺は馬鹿だな」


 そうだ。せっかくモンスターカードを持ってるんだから使えば良いんだ。


 俺は早速ジャケットの内ポケットから取り出した五枚のカードを召喚サモンで呼び出す。


 ハンター専用設計のジャケットにはカードを入れる為のポケットがついてて使い易い。オマケしてくれたお姉さんには感謝してる。


 名前くらい聞いとけば良かったな。


 そんな事を考えながら召喚サモンと口にすれば、手元からカードが消えてモンスターが召喚される。


 一昨日おとといと変わらず、醜い緑の化け物が五体も目の前に現れる様は、正直気分の良いものじゃない。


 だが、コイツらが手伝ってくれたらルミがお肉を食べれるんだと思えば、可愛くも見えて来るから不思議なもんだ。


「さて、早速で悪いが索敵を頼む。なるべく弱そうなモンスターを探してくれ」


 俺がそう伝えれば「げぎゃぁ!」と敬礼して、ゴブリン達は早速活動を初めて廃都市に散開した。


 ふむ、召喚したモンスターの知性は召喚者によって変わるとネットにあったが、本当らしい。

 

 敵としてのゴブリンには敬礼なんて文化も知性も無さそうだったが、召喚したら敬礼するようになった。


「なら、ゴブリン用の装備もその内用意するか……? 確か、召喚モンスターが敵を倒した場合は、召喚者のドロップ率が適用されるんだったよな?」


 俺の100%ドロップなどと言う世界のバグみたいな数値もちゃんとゴブリン達へ適用されるか謎だが、大丈夫そうならばゴブリンに任せたいところだな。


 本当に俺のドロップ率がバグで、ゴブリンに適用されなかった場合は自分で頑張ろうか。


「あれ、あのお店にゴブリン用の装備も売ってたよな? 金が出来たらまた行ってみようか」


 ゴブリンは最もポピュラーで最も良く使われるモンスターの一つだ。


 比較的安く買えるので一般人も荷物持ちなどに利用したり、ハンターも囮として召喚したりもする。何よりバフ効果が単純明快で使い易いし強力だ。


 それほど良く使われるカードだから需要が尽きず、つまり相場も下がらない。更に言うとゴブリン関連の製品も数多くある。


 一般人が使うペット用ゴブリン向けのファッションなんて物すら有るくらいだからな。


 ハンターの中には、大量のゴブリンを銃で武装させて面制圧なんて戦い方をする個人や企業もあるらしい。


 良いなそれ。銃の使用申請ってどうすれば良いんだろうか。俺も大量のゴブリンに銃を持たせたら楽に…………、


 いやダメだな。ドロップがFかEランク以外ほぼゼロなのに、そんな火力を維持するだけのお金が稼げるのか? 弾もタダじゃ無いんだぞ?


 いや稼げるんだろうけど、費用対効果に見合うのか? どうせ狙いはFかEだぞ?


「まぁ、良いか。今日の稼ぎを見てから考えるかね」


「げぎゃぁ!」


 自己完結したところで背後から声を掛けられた。

 

 今思ったが、コイツら見た目が素のままだから、敵のゴブリンと見分けが付かないな。これも要改善だ。


「どうした? モンスターが居たか?」


「げぎゃぁ!」


 言葉が通じないから分からないが、多分何かが居たらしい。


「案内しろ」


「げぎゃっ」


 ビシッと敬礼するコイツらが少し可愛く思えて来た。あまり情は持ちたくないが、なるべく死なない様にしてやろう。


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