装備購入。



「そう言うことなら、次も多めにゴブリンを持ってきます。ただその代わり、ゴブリンを狩りに行く装備品が少しでも安くて良い物が……」


「ふふ、では見繕わせて頂きますね」


 店員さんは俺にどんな形で狩りをするのかを聞き取り、それに即した装備をなるべく安く、なるべく高品質なものを選んでくれた。


 流石にドロップ率100%なんですなんて、頭のオカシイ事は伝えられない。


 だから、「ゴブリンを多く召喚出来るので、それを基本にゴブリンを狩って行くスタイル」だと説明して、「必要ならば自分もゴブリンを起動コールして、赤字に成らないようにバフが切れる一時間までに二十匹以上狩りたい」とも伝えた。


 例えFでもほぼ限界値であるドロップ率10%の人は珍しいが、居ないわけじゃ無い。


 起動コールでゴブリンを1枚消費しても、ドロップ率10%の人がゴブリンを一時間で二十匹以上倒せれば、理論上は2枚ドロップするのだ。


「なるほど。低ランクを相手にご自身も戦うスタイルなのですね。基本はゴブリンと連携を……」


 店員さんは「ふむふむ」と言いながら、時折俺の筋肉などもぺたぺた触ったりして装備を出してくれた。


「まずは防具ですね。こちら、ライダースーツタイプの対モンスター防護服、ハンターガードです」


 出された物は見たまんま、全身タイプのライダースーツにしか見えない装備品だった。


 真っ黒で艶消し。取り付けられてる装甲がゴツゴツしてて、全体的にカーボンシート調の柄が見える。


「これで、いくらだろうか?」


「こちらはハンターガードシリーズの一番ランクが低い物なんですが、それでも十五万します」


 高い。が、安い? 普通のライダースーツだって、十万以上は平気でする。それが対モンスター仕様になっても十五万で留まってるのは良心的にも思える。


 多分、店員のお姉さんがコレを出てきたという事は、他は安くても『防具』と呼ぶに値しない物か、もっと高額なものばかりなんだろう。


「それと、武器は選択肢が二つ有るんですが……」


 次にお姉さんが出して来たのは、一つが『メリケンサック付きバトルナイフ』で、もう一つは『鋼鉄製旋棍せんこん』だった。


 旋棍せんこんと言うのは、つまりトンファーの事だ。


「どっちが良いでしょうか?」


「いや、正直に言うとどちらも欲しい」


「でしたら両方買って頂きたいところですね」


 そりゃそうだ。売るために勧めてるんだから。


「お客様は体型と筋肉量的に、『殴る』攻撃が得意だと思うのです。なので、この装備を両手に持って戦うスタイルをオススメしたかったのですが、どちらも気に入ったのであれば、両手にそれぞれお持ち頂ければよろしいかと」


「……ああ、つまり一種でも二つ売るつもりだったって事ですか。なるほど、なら二つ買っても良いか」


 どちらも一つ三万程のエントリーモデルらしい。全部買うと、せっかく増えたお金が残り四万円と寂しい数字になるな。


「…………いや、今回はナイフ二つにしよう。まだ経験も積んでない素人が、打撃だけでトラブル全部切り抜けられるとは思わない。打撃と斬撃どっちも使えるナイフ二つの方が良いだろう」


「手堅いご判断ですね。良いと思いますよ」


 という事で、旋棍トンファーはまたの機会に。


「えーと、製品名はベアナックル……? 随分と洒落た名前だな」


「本来は素手で殴る事をそう呼びますが、ナイフを爪として、『クマの一撃に匹敵する攻撃を』という意味も込められてます」


「なるほど、気に入った。お姉さんが想定してる俺の使い方は、こうかな……?」


 二本出してもらったバトルナイフを逆手に持つ。


 グリップがそのままメリケンサックであり、基本はグリップで敵をぶん殴る使い方をするんだろう。


 それと同じように、『殴るように斬る』事も出来る。握った拳の小指方面を掠らせるように殴ればそこにナイフが有るからな。


 あとは裏拳の要領で刃を突き立てたり出来るし、格闘戦の延長でナイフ戦が出来る装備だ。


 物としては、銃の部分が無くなったアパッチリボルバーみたいな感じか。アパッチリボルバーよりもナイフがもっと大型で変形もしないが。


 アパッチリボルバーとは、19世紀くらいに存在した『リボルバー+ナイフ+メリケンサック』と言う複合武器の事だ。用途に合わせて変形してそれぞれの武器になったらしい。


 実用性はしらん。ただ斬撃、打撃、射撃を手のひらに収まる武器で全部やろうとしたのは中々のコンセプトだと思う。


 当時は結構コンパクトかつ使いやすくて、逆に反政府組織とかに流れまくったらしいが。


「そしてこちらは、当店からのオマケでございます。ハンターガードの上から着て下さいね」


 買う物も決まってお金も払ったら、最後に店員のお姉さんが一つオマケをくれた。濃い灰色のアーミージャケットだ。


「……随分と高そうなジャケットだが、貰っても良いのだろうか?」


「実はこれ、サンプル品でして」


 なんでも、値段と性能が中途半端で滑った商品のサンプルらしい。


 俺のような駆け出しに取っては有り難すぎる性能だが高過ぎて、この値段が安いと思える程のハンターならもっと良い装備を買う。


 そんなどっちつかずな性能で盛大にコケた製品なのだと言 う。


「この恩は、仕事で返したいと思う」


 お礼を言いながら、ジャケットを有り難く頂いた。これで俺は装備は整った。ライセンスさえ届けば何時いつでも管理地区へ行けるぞ。


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