登録。



 翌朝、俺は早速行動を開始する。


 ルミを学校へと送り出した後、アパートの大家に連絡をして玄関の修理を依頼して鍵を預ける。


 今回の破損はモンスター災害が原因なので弁償はしなくて良い。


 ただ、当日の何時に修理が始まって、何時に終わるのか分からない。

 

 なにせゴブリンの被害はウチだけじゃ無いんだ。三番区の業者はてんてこ舞いだろう。


 だから今日は俺がルミを学校まで迎えに行って、今夜は適当なビジネスホテルにでも泊まる予定だ。この出費は仕方ない。


 二番区の業者に依頼する手も有るが、二番区には三番区の仕事を真面目にやってくれる会社なんて存在しない。


 アイツらにとって三番区に住んでる人間なんて棄民きみん扱いなのだ。


 この『番区』とは、ワールドブレイク以降殆どの国で採用されてる防衛方法の一つであり、行政や大手企業など国を支える組織や人材などを集めた一番安全な場所を一番区として、危険度順に二番区、三番区と区画を分ける方法だ。


 所謂いわゆる上級国民が一番区へ。『並』である国民を二番区へ。最後に『稼ぐ能力に乏しく』貧困してる人間を三番区に住ませる。


 一番から三番までを全て含め、人が暮らす場所を『人類圏じんるいけん』と呼び、モンスターが湧き出るようになった地域を『魔境まきょう』と呼ぶ。


 三番区は魔境に最も近い場所であり、有事の際には真っ先に襲われる場所であり、だからこそ家賃などがとても低い。

 

 そして、その金額の安さに引かれて貧民が集まる。


 お金を稼ぐ能力をそのまま『国へ貢献出来る能力』を測る指標として、『要らない順』に死んで行くシステムなのだ。


 それが嫌ならば稼いで二番区に住めば良い。モンスターさえ侵攻して来なければ『ただ安いだけの土地』なんだから、文句など言えない。


「金が無さ過ぎて管理地区に住んでるって猛者も居るけどな」


 管理地区。そう呼ばれるのは、魔境と人類圏の間にある『捨てられた土地』だ。


 モンスターは人を食うが、その前にまず


 長い時間モンスターがそこで暮らして汚染されると、その土地も魔境となってモンスターを産むようになる。モンスターは正常な土地の魔境化を最優先に動くのだ。


 そのため、魔境と人類圏の間には『餌となる土地』が緩衝地帯として敷かれてる。


 モンスターが人類圏へと侵攻する前に、緩衝地帯をように。


 その土地の事を管理地区と呼ぶのだ。正確には魔境管理地区が名前となる。


 ギリギリ人類圏である三番区と管理地区の間には防壁など無い。壁を建ててもモンスターに壊され続けるので維持費と建造費が馬鹿にならないからだ。


 なので三番区と管理地区の境界にはフェンスしか無い。壁と違って張り替えの容易なフェンスだけが三番区の命綱だ。


 とは言え、管理地区でしっかりモンスターが駆除されてる普段ならば、いくら三番区が棄民扱いだって言ってもモンスターの侵攻なんか起きないはずなのだが、昨日はいったい何があったんだろうか。


「まぁ、良いか。何度だって来るなら来い。全部倒して金に変えてやる」


 呟きながら三番区を出て二番区へ。


 現在無職である俺がハンター家業を始めるには、まず管理地区への入場資格を得る必要がある。


 公務員試験に受かればそれで良かったんだが、一般人が管理地区へ行きたい場合は専用のライセンスを発行するのだ。


 ライセンスの発行自体は試験や審査など特に要らない。身分証と電話番号だけ用意して、あとは出された書類にサインをすれば良い。


 要は、『人類圏の外でどれだけ悲惨な死に方をしても自己責任です』というサインだ。こうすることで人の死に対する様々な問題を可能な限り簡略化して処理出来る。


 国としても、自分から管理地区へ行きたいなんて言う自殺志願者に構ってられないし、それで本当にカードの1枚でも持ち帰ってくれるなら国としては大きな利益なのだ。


 カードは国防にも貿易にも使える万能な資源だ。多ければ多い程国は助かる。


此処やくばか。役場は久々だな」


 そんな訳で、俺は役所に来て書類にサインをする。登録申請はサクッと終わった。


 この後俺が何もせずそのまま管理地区へ入って死ぬと、俺の財産などが国に接収される。このサインはそう言う仕組みなのだ。面倒事を極限まで排除して処理するための制度。


 だから俺もきっちり忘れず財産分与などの再設定をこのまま役所で行う。


 これをやっとかないと、最悪の時はルミが路頭に迷う。俺が死んだ時は俺の財産が問答無用でルミへと渡るように、ちゃんと設定しなければならない。


「さて、次は買い物だな」


 事務的な笑顔に事務的なセリフしか言わない気持ち悪い職員に促されて作業を終えたら、次は装備を買いに行く。ライセンスは明日の昼には家に届いてるだろう。


 流石に体を鍛えてる俺でも、丸腰で管理地区とか御免こうむる。そうしなきゃルミが死ぬと言うなら喜んで行くが、それ以外なら普通に嫌だ。


 ゴブリンは基本的に人より強い。そんな存在が『雑魚』として彷徨うろついてる場所だ。装備くらいは整えて行かないと本当に自殺と変わらなくなる。


 そのまま二番区を歩いて向かうのは、ハンター用のショップだ。


 ドロップカードから装備品、更には遠征に持ってくだろう食料や乗り物まで売ってる店だ。


 なんならカードの買い取りもやってる。


「ちょっと良いだろうか」


「はい、なんでしょう?」


 俺はデパートビル一棟丸々がハンターショップだと言う業界最大手の場所来て早速、近くに居た女性店員を呼び止めた。


「ゴブリンのカードが少し多く手に入ったんだが、買い取って貰えるだろうか?」


「はい、大丈夫ですよ。ライセンスはお持ちですか?」


「いや、さっき申請をした所なんだ。届くのは明日だと思う」


「そうでございますか。では代わりの身分証をご提示下さい」


 大手なだけあって店員の質も良く、簡単な会話でスムーズに作業が進むのは心地良い。あっと言う間に45枚のゴブリンがお金に変わった。


 なんと買い取りは色を付けてもらって、25万円になった。多く売ると買い叩かれそうだと思ったが、逆に有難いって値が上がったのだ。


「これ程多くお売り頂き、まことにありがとうございます。ゴブリンは常に売れますので、どれだけあっても足りないんですよ。やはり使いやすいバフ効果持ちですからね。管理地区や魔境だと生きる為にはどうしても使ってしまう事が多いそうです」


 ゴブリンは小間使いに出来るからハンターは基本的に誰もが1枚は所持してるカードだ。


 そして、人間の貧相な筋肉をゴブリン達モンスター出力にまで引き上げてくれる強力なバフ効果を起動コール出来るので、お守りという意味でも売れるそうだ。


 基礎にして基本のカードと言える、ハンターの必須装備だ。


 しかし、値段が安くてワラワラと湧いてくるゴブリンそのものは獲物として嫌厭されがちらしく、持ち込まれる量はそこそこ止まりらしい。


 そりゃぁ、まぁ、Fランク10%ドロップの人がゴブリン100匹殺しても、それで確率的には10枚ドロップで売値は五万だろ?


 確かに割に合わないか。一度に大量のゴブリンを倒せるような強いハンターなら尚更だ。


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