翌朝。
「はい。はい、そうです。ゴブリンが街に入って来まして、はい……」
翌朝、アパートの壊れた玄関前に立ち、携帯電話で夜勤に行けなかったバイト先へと連絡をする。
本当なら暗い気持ちで謝罪を重ねるべきなのだろうが、俺は晴れやかな気持ちでペコペコとしつつ、ニコニコしていた。
「ああ、クビですか、そうですか。分かりました」
予想通りにクビを言い渡された俺は小さくガッツポーズをしてる。
どうせ義理も何も無いクソみたいな仕事だったんだ。
新しい稼ぎ口が見つかったならコチラから切りたいくらいの職場と縁を切れた俺は、さらに晴れやかな気持ちで電話を切った。
向こうがまだ何かを言いたそうにしてたが、気にせず俺からブチッと切ってやった。ふふ、気分が良い。
俺はその後も六件ほど電話を続けた。今回のモンスター災害で家が大変な事になり、暫くバイトには行けないと告げ、そして次々と予定通りにクビを切られる。
中には一件だけ、とても心配してくれたバイト先もあった。だがそこも経営が厳しく、次にいつ来れるか分からないバイトを雇用しておく余裕が無いと、結局クビになった。
これで晴れて、俺は無職である。
「ふふ、しかし……」
俺はポケットに入った分厚いカードの束に触れる。
ハンターが災害を沈めるまでに掻き集めた45枚のゴブリンカードだ。
「んふ、ふふふふっ、これで二十万以上の稼ぎだぞ……!」
本当はもっと多かったんだが、ゴブリンカードの
「ゴブリン達もご苦労だったな。みんな、もうカードに戻って良いぞ」
「「「「「げぎゃぁ!」」」」」
俺は一晩中ずっと、釣りの餌になってくれてたゴブリン達を労い、カードに戻るように指示する。
するとゴブリン達は霧のように空気へ溶けて、そして気が付くと俺の手元にカードの束が握られてた。
召喚したカードは、召喚者の指示でカードに戻せる。ネットで見た情報通りだな。
召喚モンスターは死ぬとカードを残さず消えるが、死ぬ前にカードへと戻せば手元に残せる。
怪我をしてるモンスターは傷が癒えるまで再召喚は出来ないらしいが、消えてしまうよりずっと良いだろう。
ただし、一度召喚したカードはそれ以降、他の人には召喚出来なくなる欠点がある。一度使うと二度と売れないのは、
一応、
ゴブリンくらい安いカードなら、気にせず
ゴブリンは売却価格が五千円なのであって、買う時は一万円を超えるのだから。平気で使い捨て出来るのはやはり、相応に稼いでるハンターだけだろう。
一時間しか持たない一万円のバフだと考えると、普通に超高級品だからな。そのうえ
「ふふふ、しかし俺は使い放題なんだよな」
俺のFランクドロップは今のところ100%だった。これは下手すると、獲物をゴブリンだけに絞れば稼ぎ放題だと言う事だ。
流石に、たった一枚で億を超える値段がつく様なカードを普通にドロップさせる公務員とかには勝てないだろうが、公務員試験に落ちるくらいの素質しか持ってないハンターなら、稼ぎで超えることも叶うだろう。
「…………まぁ、公務員試験に落ちる程度の素質って言うとブーメランなんだがな」
俺は一度召喚して自分専用となったゴブリンカードを右のポケットに入れて、残り45枚の新品は左のポケットに仕舞う。
新しい人生が切り開けそうな気分のまま家の中に戻り、押し入れの中に居るルミを外に出す。
一晩中そこに居て寝てしまったのだろう妹の寝顔は天使のようだ。俺はこの寝顔を守る為ならなんだってするぞ。
Fランクと、もしかしたらEランクも使えるかもしれないが、たったそれだけの才能で外へ行ける。
「ルミ。お兄ちゃんは
日本を初めとした諸外国には、モンスターがこびり付いてしまった魔境がある。
そこからは無限にモンスターが湧き、さらに繁殖まで繰り返す文字通りの地獄。
そんな場所に行ってモンスターを狩り、カードを持ち帰って人類の戦力を増やしつつ、魔境からの侵食を抑えるのがハンター達の仕事である。
俺はそんな場所へと足を踏み入れ、低ランクモンスターを専門に狩るハンターになろう。
このすやすやと眠る天使に、美味しいものをお腹いっぱい食べさせてあげるために。
「ほらルミ、朝だぞ」
ボロアパートの中で天使の身体を揺すりながら、俺は強く決心した。
俺は必ずこのチャンスを掴み取り、妹を
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