ゴブリンの侵攻。
「いや、無いな」
俺は首を振ってドロップカードをポケットに仕舞い、後片付けを始める。
こんな宝くじみたいな幸運で、それが当たり前だとして行動するのは危険だ。今回は運良く2枚ドロップしただけで、この先は千匹倒そうと万匹倒そうとも1枚たりともドロップしない可能性だってある。
それに、俺はどうやってゴブリンを倒すつもりなんだ?
ゴブリンは確かに一般人でも倒せるカテゴリーだが、それは一匹を相手にした場合だ。群れを相手にしたら普通に死ぬ。
今回は上手くやれたが、次はどうするのか。このゴブリンカードでゴブリンを呼び出して戦わせる? 相打ちした瞬間に丸損なのに?
最大でも10%ドロップだ。ゴブリンを倒すのにゴブリンをぶつけてたら、90%の確率で損をするし、ドロップしても相打ちだったらプラマイゼロだ。
ドロップカードで召喚したモンスターは絶対にカードをドロップしないし、相打ちさせた敵ゴブリンも最大で10%しかドロップしない。
しかもゴブリンは群れる。下手したら俺の出したゴブリンが複数からボコられて一方的に死ぬ可能性だって大きいのだ。
どれだけ考えても、無しだ。ハンターに成りたかったら最低でもゴブリンを余裕で殺せるモンスターが要る。
「ふぅ、良くないな。急に大金が舞い込んだから、気持ちが浮ついてるんだな」
…………いや、待て?
「なんで、二匹だった? ゴブリンは群れで動くモンスターだぞ? たった二匹で動く訳ないだろ」
「お兄ちゃん……?」
「ルミ、まだ奥に居なさい。と言うか出来れば押し入れに隠れててくれ。お兄ちゃんは外に様子を見てくるから」
俺は後片付けする手を止めて、後片付けの手伝いをしてくれてたルミを隠す。
思えば、まだ外が騒がしい。
ルミを押し入れの中に入れて「俺が声を掛けるか、ほかの大人の人が声を掛けるまで、絶対に隠れてなさい」と言ってから家の外に出る。
蹴破られた玄関から出て、ボロアパート一階の自室を出ると、そこは貧困層が多く住む俺らの街だ。
そんな街で、今はアチコチから怒号や悲鳴が聞こえてる。家の中では気が付かなかったが、明らかに異常事態だ。
「も、もしかして街中にゴブリンが入って来てるのか? ハンター達は、本当に何をやってるんだ?」
俺は一度家に戻ってキッチンを漁り、良く研がれた三徳包丁を手に持って玄関前に陣取る。
玄関は蹴破られてるのでセキュリティパワーがゼロどころかマイナスだ。家の中に入られるくらいなら、家の前でゴブリンを撃退するしかない。
家の中で戦って万が一があったら、ルミが危ない。
「あんなに良い子へ育ったんだぞ。こんな所で摘ませて堪るか」
どれほど待てば良いか知らないが、それでも優先度が低い貧困層とはいえ納税はしてる。そのうちハンターが派遣されてくるだろう。
それまで耐えれば良い。ルミには指一本すら触れさせん。
「早速来たな」
意気込んで包丁を握ると、アパートの敷地を囲む塀の門から緑色の小人が五匹程も現れた。
本当に、相当な数が街へ入り込んでるらしい。仕事しろ
「くそっ、五千円……」
背に腹は変えられない。俺が死んだら誰がルミを幸せにしてくるんだ。
俺は最愛の妹を想いながら、断腸の思いでカードを使う。
「…………
ポケットから出して手に持ったカードが、呪文と共に霧のように消え去った。
その代わり、カードを使った瞬間から俺の全身が喜んでいる。
ゴブリンのカードを
それは、ゴブリンのように貧相な体でも成人男性をも超える出力である。
そんな力を、普通に筋肉量の多い人間が使ったらどうなるか?
「…………死ねっ」
答えは『ゴブリンより圧倒的に強くなれる』だ。
一時間だけ許された超人的な力をもって地面を踏み締め、ゴブリンに向けて走り出す。
玄関から門まで3メートルも無い。今の俺なら一秒すら要らない。
「ゲギャッ--」
「まず一つ」
突撃し、手に持った包丁でゴブリンの眼球を狙って刺し、奥の脳まで破壊して即死させた。
その勢いのままに二匹目に体重を乗せた回し蹴りを浴びせてブロック塀に叩き付け、眼球から引き抜いた包丁を逆手に持って殴るように三体目の首筋を斬り裂く。
首を抑えてよろめくゴブリンを四体目に向かって蹴飛ばし、そのまま後ろのゴブリンごと包丁で刺し貫き、コンクリート塀に叩き付けた二匹目も合わせて串刺しにする。
三匹もいっぺんにブロック塀へと
残った一匹は、突然始まった俺の猛攻に混乱していて対応出来ない。
ならばそのまま、何も知らずに死んで行け。
俺はゴブリンに近付き、つま先をゴブリンの足の後ろに掛けたままゴブリンの胸を押す。
足を掛けられたまま胸を押されたゴブリンは無様に尻もちをつき、俺はその上に伸し掛るように跨ってマウントポジションで殴り始めた。
ゴッ、ゴッと言う音がグチャッ、グチャッと耳障りな音に変わるまで殴ったら、ゴブリン到来の第一波を殺して乗り切った事を自覚する。
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