あとがき

僕にできるなにか

「ヴィーナス・トランス・サクリファイス」をお楽しみいただき誠にありがとうございます。


「シン・ウルトラマン」公開前の折にも、その映画を観た前と後で自分におけるウルトラシリーズ風小説の書き方が180度変わってしまうと思ってはいましたが、


・団地に立つ外星人(ではなくとしたのは洒落もありますが、長年僕の妄想を支えている「外世論がいせろん」というネット発の哲学から引用した言葉です)、


・庵野脚本に特徴的な、個性を圧し殺した難解だがシンプルに伝わる台詞回し、


・メフィラス(演:山本耕史)の演技プランの逆で最初から人類らしさを捨てた知的生命体、


・ウルトラQへのオマージュ(今回はむしろ空想科学読本への、だったかもしれませんが)、


・ウルトラマンと人類のコミュニケーション、


・初めての必殺光線(わざわざ右手を左手で押さえつけるシークェンス付き)、


・シン・ウルトラマンでは叶わなかったの再演


 を、アマチュア作家だからこそ「てへぺろ☆」で済まされるほとんど丸パクリいんすぱいあ(死語)で書き下ろすこととなりました。


 そしてほんの少しのオリジナリティ、秘伝のタレである、


・一冊の長編小説ならばじっくりと女神の勇者女体化計画を進めていくところを、ボン・ガチムチ・ボンの朝おんで済ませたTS要素。


 七峰ボクが何よりの好物としている、ねっとりと肉体の変貌を活写するシークェンスがウルトラマンごっこの合間にできなくてカットになったのはいいとして、わざわざ全裸(言葉のあやで一応は半裸)と明言しなくても……と思われる方もいるかもしれません。


 でも、本気でゼロからTSシークェンスを書くならあまりにも女性にとってはデリケートな部分(それもなおのことルッキズム的な……!)に触れずにはおれないし。


 それに女神の化身がビキニアーマー、あるあるじゃないですか。ビキニのサイズは……読者の特権に委ねられました。ここに挿絵は、りそうだけどやっぱりいらないと思います。


 それと今回でやはり自分にオリジナルモンスターを創造するスキルが無いことを確信しました。まあ、誰がどう読んでもローグラはテレスドン、それもウルトラマンZのほうだよなと自分でも思います。この調子だと真似まねるにしてももっと古典的なウルトラ怪獣に寄るか、エヴァンゲリオンの使徒のように形而上学的な存在に寄るかの二択になりそうです。


 あと、余談ですがローグラの由来は不思議のダンジョンシリーズでも知られるゲームジャンル「ローグライク」です。


 そんな怪獣だけではなくてわざわざゴウトの世界にイド以外の外世人が侵略する可能性を残してはいますが、それは他ならぬイド達の活躍によっての世界そのものの脅威度がいや増したらのお話でしょう。


 別にそんなところまでシン・ウルトラマンを模倣コピーしなくてもいいと思いますが、イドのトラウマの原因となった伝説の勇者たるオトコの名、罫線で伏せられる真名しんめいを頭に思い浮かべた瞬間、


「だったらそれはもうを名乗るしかないだろう────!!」


 と快哉かいさいを叫ぶと同時に、僕のレトロゲームに対する郷愁きょうしゅうエネルギーを外世人レトロンに吸われました。


 郷愁の侵略者は、あの夕陽に染まる世界からいつでもという感情エネルギーを狙っています。そう、あなた様もどうぞお気をつけくださいませ。



 そして今回の執筆を完了するにあたり、僕こと七峰らいがが7月初旬にコロナ陽性者となったことを付け加えねばなりません。


 幸いにして陽性反応確認から二日ほど自宅で安静に過ごすことで一時39度も出た高熱は去りましたが、同じ家で暮らす家族の玉突き事故的な感染リスクを避けるべく、ホテルでの療養に切り替えました(後日退所済み)。


 結果として僕は一日で一万字を超す短編小説が書けるほど余力よりょくを持つことができていますが、我が身が感染症の当事者になってこそ、これまで新型コロナウィルスに苦しんできた方々の無念や、今もなお戦っている人たちの奮励ふんれい努力を背に思わずにいられません。


 あの時、高熱と倦怠感の中でこれがコロナか、人が大勢死ぬ病気にしては自分の症状はまだ軽いな──モデルナワクチンを三度打ったおかげかな、などとマスクの中で益体もないひとりごとをしゃべっていました。それは不安だったからです。


 咳をしても一人、ではないけれど、この疫病えきびょうが生んだ「分断」の一端に触れ、人とつながるということがどれだけを助け、にんげんを喜び満ちた尊いものにさせ、にんげんを今日こんにちの繁栄に導いてきたのかと、改めてそのがたみを感じました。


 やっぱり個人ひとりで完結したくらしを送れるなんて理想論は間違っていたよ、十代の僕。この世はみんなのでできているんだ。


 では作品の解説に戻ります。


 捨て女神イドのパーソナリティは今までの自作物と同じ私小説のそれかもしれません(彼女が戦士に覚醒する瞬間が、自作のオウカというキャラクターに少し似ています。僕が「強い女性の戦士」を書こうと思うと自然、こうなるようです)が、異世界転生もののあのトラックで轢かれた主人公が亜空間で出会う女神のことを拡大解釈しつつ、挫折ざせつとそのトラウマからの奮起ふんきというシナリオに当てはめて作ってはいます。


 彼女がうつ病らしき精神疾患しっかんになる過程は、以前読んだマンガ「うつヌケ」の体験談からイメージをつかみました。ですが、頭がボウとして何も目と耳に入らず職を失うところは自分にも起こりうる怖いシーンだと思います。


 異世界に転移してからのイドは完全にウルトラマン化していくのでもはや当たり前のようにプロレス技を使い出しますが、ここにもっともらしい伏線はありません。


 何か人は失礼ですが錯覚です。実はイドは現代日本の自宅に帰ったらつつ型に縛った布団にバックドロップをかけるような女だったのかもしれませんし、実は90年代全日本プヲタ(プ女子)だったのかもしれませんが、もしそうだった場合今後のイドの必殺技は十字クロス光線ではなくです。


 閑話休題。イドに対するゴウトは、言わばバディ役として彼女と逆位置になるよう個性を配分しています。


 というか、俺様になびかないおもしれー女、の逆パターンと言ったほうがもっと適切なのでしょう。神をも疑う不遜な態度は、いざとなったら少数派の自分が矢面やおもてに立つ覚悟の裏返しという設定は、我ながら今までに少しずつ視聴してきた岡田おかだ斗司夫としおYouTubeチャンネル動画での勉強の成果だと自画じが自賛じさんに思うのですが、読者にはどう映るのでしょう。


 僕はあの方ほど人類史を達観たっかんしきれないので、生けにえとして逃げ回るのもクソクソ言うぐらいちょっとしんどくて、これから怪獣に殺されると思うとおしっこちびっちゃって、ウルトラマンに命を助けてもらったらうれし泣きしちゃうよというようなシーンにしています。


 けれどゴウトって自分の生理現象と本心があべこべになってるキャラクターなので、ああいう描写になりました。ちょっと彼に理想を託しすぎて、かっこよすぎましたかね。


 今回のゴウトをイドが助ける心理的ロジックは、もちろんシン・ウルトラマンで描かれるそれとの状況と立場の違いを考えつつ、自分の中の「ウルトラマンが人類を守ろうと思う」きっかけづくりに位置づけています。


 解説代わりに「ウルトラマンガイア!」を熱唱するまでもなく、最後まで人類の希望を捨てなかった者に、ウルトラマンは手助けをしてくれるのだと思います。その素晴らしい王道を、改めてリスペクトします。


 しかし誰でも逃げ出したい状況下で一人だけ反対方向に「逃げる」やつがいたら、って思うからイドの推理は高速であっても無理はないと思うんですが、作者の書きたいシナリオレベルにキャラクターを当てはめすぎている、のかもしれません。わざわざゴウトを窮地から救わせるためだけに、彼より歩幅が八倍も大きいイドを立ち止まらせていますしね。


 僕の三人称視点は読みづらくなかったでしょうか。一応はイドとゴウトの物語なので視点を彼らからずらすことなく…………いや1話最後にレトロンへカメラ寄ってたな。もしも僕の脳内と読者の間でシーン描写のイメージが共有できていなかったら、単純に僕の筆力不足です、すみません。


 それにイドとローグラの戦いが完全勝利に終わらなかったのも、シナリオの都合……と言えばそれまでではあります。イドとゴウトが合体し、ついでに村を焼いて安息地に物理的に帰れなくする理由づくりのためにはイドのスーツは暴走し、ローグラは大爆発を起こすのが最適解だと思いました(ウルトラマンオーブの影響じゃないの? と聞かれた場合「そう言われたらその通りかもしれない」と答えます)。すべての物事がプラスに働いていくエンターテインメントの原則に従わなかったことは反省します。


 少し言い訳をさせてもらうと、そもそも異世界転生を担当するだけで自分で戦ったことのない女神が圧倒的暴力を手に入れて「これでとどめだ!」って初めての必殺技を使ったとして、一発で制御できたらそれっぽくないですか?


 なんかもうエイって蛇口を捻ってトリガー押しっぱなしにしたら、ホースからものすごい量の水があっという間に噴出しちゃった…………ってなりません?


 しかしこの物語はこれっきり終わってしまうと今は考えているので、外世人レトロン再登場のために用意した彼の郷愁エネルギー回収フラグと「あの爆発の寸前で救出しました」の可能性(おいおい、という声が聞こえてきそうです)、鷹の目を持つ生スーツが暴走したのもレトロンの企み、実験室のフラスコごときが並行世界のみならず天界そのものを脅かす可能性、そして先述のイドのトラウマが最悪の敵として帰ってくる展開などは案として提示するにとどめます。こうなったら面白いよね、ベタだけど……みたいな。


 最後に、「他の女に私の勇者を取られたくないからと自身が守護する勇者を女体化したり、一体化して女体化したり融合しようとするヤンデレウルトラマン系女神様」という素敵な妄想ツイートを発信したフォロワー氏(直接の名指しは回避いたします)に敬意を。とまでは行かなかったですが、自分でも心の内に求めていたウルトラシリーズ風小説を書き上げることができて、眠気が吹き飛ぶほど楽しかったです。


 長文・乱文失礼致しました。



2022年7月11日 ゾーフィのソフビに一部始終を見守ってもらいながら 七峰らいが

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