第21話 篝家

「ほんとに悪かったって西条。もうしないから」

「だから怒ってないって言ってるわよね」

「じゃあその反時計回りにねじった俺の左手を返してくれないか?」

「……」

「お兄ちゃん、これ結構オコだよ」

「怒ってないわ」

「じゃあ左手を……」

「……」


結局手首と肘がミシミシ言うかなあくらいのところで離してくれた。もし俺が野球とかやってたら許せなかったな。やってないけど。


「視ちゃん、まだ着かないの……?」

「あと30分くらいね」

「まじかよ、もう2時間近く歩いてるぞ?」

「山に入ってからは1時間半くらいでしょ」

……それ関係あるか?


「しかし、ちょっとさすがに喉乾いたわ」

「ごめんお兄ちゃん私もう無いよ」

「私はまだ残ってるわね、どうぞ」


西条がリュックサックのサイドポケットから水を取り出してくれる。

山で水も無く喉が渇いた極限状態で言うのもなんだが、さすが非モテ彼女無しの俺、関節キスに緊張してる。しかも西条は顔が整ってるから余計緊張するんだよな。


「飲まないのかしら?関節キスを心配してるなら私は全く気にしないタイプよ」

だってさ。じゃあ飲むぞ。ほんとにまじで。

「……ありがと」

「気にしてないわよ、じゃあラストスパート行くわよ」



いちばん綺麗だと思わせるほどのみずみずしい緑が地面を覆い、細い鋭利な木々が囲んでいたその家は恐らく日本でいちばん空に近いだろう。山の頂上付近の少し平坦になったところ、今までのゴツゴツした灰色とは反対に柔らかい緑色に囲まれていた。ここに来る過程を無くせば人気が殺到するであろう絶景の日本を感じる家なのだが……。


「流石にドアに御札は入りたくないわ」

「大丈夫よ、霊的なものが出るからでは無いわ」

「じゃあなんの札なんだよ……」

「……」

やっぱ霊的な何か用の札じゃねえか。

「じゃあお兄ちゃん帰るの?」

「いやここまで来て引く奴居るか?」

「そうよね、ゴタゴタ言ってないでさっさと入るわよ」


通り過ぎる門にあった表札にはかがりの文字。

玄関は特にこれと言ったものは無いが奥に見える部屋は完全にお寺そのものだ。


「お待ちしておりました、語部様、レイ様」


奥から出てきた腰まであるであろう綺麗な黒髪の綺麗な女性が言う。

……ってか俺ら待たれてたの?


「西条、どなただ」小声で言う。

「私の従姉妹よ。篝 月華らいか

「なんかオーラやばいけど大丈夫なんだよな?」


あの篝月華さんからは武神のソレを感じる。


「大丈夫よ。優しいわ」

「じゃあ視、その方たちを連れて奥の部屋で待っててね」



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