第13話 間に合わなかった
コンビニの店員さんがさっき通報したばかりだ。まだ消防隊は着いていない。
そこに居たのは近くにいたのだろう、運のいい野次馬どもと地面にぺたんと座る女の子、泣きながら立ち上がろうとしている男の子だ。
「ねえ語部くん!あれ!」
興奮した西条が指さす先にはぺたんと座る女の子─レイが居た。
「っ!レイ!!」
疲れたからか、座り込むレイに駆け寄る。震えていた。
「あれお兄ちゃん来ちゃったの?」
無理やり笑顔を作るレイを見て悲しくなった。悔しくなった。ダメな俺を憎んだ。
だから俺は最高の笑顔で答えた。
「大丈夫、俺は死なねえ」
「海賊王になりたい男みたいね」
「おい、西条邪魔するなよ」
「お兄ちゃん腕とか伸びそう」
もういいやこいつら。
「西条、レイと仲直りしといてくれ」
「え、ちょっと待──」
地獄の空気の二人を背に泣いている男の子のところに行く。
野次馬ってのは目の前の出来事には興味あんのに泣いてる子には手を差し伸べないのな。しかも邪魔だし。
野次馬を押しのけて男の子の元にたどり着く。
「君、大丈夫?」
「……うぅう、わぁぁん。ママと赤ちゃんが」
「あの中にいるのか!?」
今度は首肯だけで伝えてくれた。
消防隊が着くまであとどれ位だろうか。少なくとも音は聞こえない。
家は見た感じ一階は全滅だろうな。あの子のお母さんは──居た。ベランダに大きくなったお腹を抱えて。
きっとベランダの奥は寝室だ。ベッドに燃え移っている。あれはダメだ。間に合わない。消防隊は間に合わない。きっと野次馬は動かない。間に合わない。間に合わない。間に合わない。
「お兄ちゃんどこ行くの!?」
「語部くん!待ちなさい!」
意味があるかなんか分からないけど俺はお茶を頭から被って火の粉迫る玄関へ入る。
まだお茶で体は冷えてる。幸い目の前に階段があった。
「大丈夫ですか!」
「え?だれ?」
「そんなことより下に降りますよ、早くこっちに!」
寝室のドアを開けそこから声を張り上げる。ベッドはもうほぼ燃えてベランダと寝室のドアへの道を絶とうとしていた。
「ダメだ間に合わない!」
「あなただけでも早く逃げてください。助けに来てくれてありがとうございます」
大丈夫だよ。
そうだよな、きっと。
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