第12話 逃げるな
日が完全に沈んで少し経った頃さすがの西条も焦っていた。
「はぁはぁ、さすがに見つからなすぎじゃない?」
「真逆だったかもな」
「そうね。もうなんであなたもこっちに来たのよ」
「なんでお前は一人で行かなかったんだよ」
「まあ、そんなことはどうでもいいわ」
あ、絶対話逸らした。
ずっと動き続けていた俺たちはさすがに疲れて少しペースを落とす。
「なんか飲むか?そこのコンビニで買ってくるぞ」
「いちごオレ」
「甘っ!こんな疲れた時に飲むもんじゃねえだろ」
「じゃあいいわ、自分で買ってくる」
「わかったわかった。買ってくるよ」
ちょっと休憩しといてくれ、と伝えてコンビニに入る。寒いくらいに冷房が効いている。
「いちごオレ……これか。俺はお茶でいいか」
いちごオレとお茶を持ってレジに並ぶ。並ぶと言っても俺以外に客はいなかったから店員を待っているのだが一向に出てこない。
「すいませーん、誰か居ます?」
「……あ、お客さん!少し待ってて貰えますか」
「あ、はい」
だいぶ忙しそうな声が聞こえたので文句のひとつでも言ってやろうかとか思っていたが辞めておく。びびったのではなく、辞めておく。びびったとかではなく。ただひとつ言えることはその声がめっちゃガタイのいい兄やんから出てたってことだ。
「すいません、お待たせしました」
と真面目そうな兄ちゃんが出てきたのは3分くらいだろうたった頃だった。
「いえ、どうかしたんですか?」
「はい、ちょうどここから見える大きい家あるじゃないですか、結構最近建ったらしいんですけど、そこが火事になったみたいで通報させてもらってました。すいません」
「……うわ、ほんとですね」
兄ちゃんが指さした方を見ると結構高くまで黒い煙が立ち上がっていた。
「西条ー、買ってきたぞ」
「……」
「おーい、西条」
「……」
「ぎゃーー!」
「うわ!なによ!」
「いちごオレ買ってきたぞ」
「……え、なんだったの今の」
しっかりいちごオレは受け取ってから不機嫌そうな顔で聞いてくる。
「あんまりにも返事しないからさ」
「それでぎゃーー、って言ったの?」
「まあ、そうだな。てかなんで返事しなかったんだよ」
「火事」
「ああ、あれな。ちょっと行ってみるか?」
◆
熱い。怖い。足が震えて動かない。誰も居ない。動かないと。助けないと。僕が。私が。
泣いちゃダメ。立ち上がれ。逃げるな。
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