第9話 私の決意2
はあ、はあ、どれくらい走ったんだろう。ミステリアスな女の人が言ってた、これ以上私がお兄ちゃんに付きまとうとお兄ちゃんは死んじゃうって。それはダメ。絶対に。
「もっと遠くに行かなきゃ」
女の人がこれ以上居ると死ぬって言った時、はっきりと死ぬって言った時、私は少し安心した気がした。もし、死なないって、死なないかもしれないってあの人が言ったら私はきっと逃げなかった。でもあの人はホントのこと言ってた気がする。いやきっとそうだ。あの人は話してる間ずっと私を見てた。ここから消えろ。もう人間には関わるな。そう言われてる気がした、あの冷たい声で。それに私自身も思った。ここにいちゃダメだって。だから飛び降りた。屋上から。怖かったけどすごく痛かったけど死なないってわかってたから。
もう決めた。お兄ちゃんから離れよう。お兄ちゃんのことだから必死になって探してくれる。だからもっと遠くに離れよう。お兄ちゃんが幸せになってくれたら私も幸せだ。それこそ成仏出来るかもしれない。
疲れた。足が動かない。もっと離れなきゃなのに。お腹も空いた。喉も乾いた。沢山転んだ。眠くなってきた。少しくらい寝てもいいかな。
◆
「……え、翔斗?」
「ゴホッ。お姉ちゃん、どうしたの?」
夢。これは私が中学一年生の頃の夢だ。弟の翔斗は体が弱くてよく咳き込んでいた。そんな翔斗の背中をお母さんが優しく撫でる。お父さんが水を持ってくる。私が弟に学校であった話をする。これが私たちの役割分担だった。
でも私は死んだ。
今は誰が翔斗に話しかけてるんだろう。翔斗は元気になったのかな。お母さんはずっと夢だった看護師免許取れたのかな。お父さんは出世できたのかな。
◆
「……ん、寝ちゃってた」
まだ少し足が痛む。けど歩ける。少しずつ離れていこう。
両脇に築数年くらいの新しい家が並んでる。私が見えない幽霊だったらこっそり入ってるのにな。そんなことを考えながら足を動かす。
「……え?火事?」
ほんの数百メートル先、黒い煙が立ち上がっている。赤い炎が下から這い上がっている。広い窓から人が顔を出している。
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