第3話 もしかして見える?

肩より少し長い白髪を濡らしたレイが俺のTシャツをダボッと着て風呂場から出てきた。先程までの長い前髪は後ろに流され見づらかった目鼻が露わになる。


クッキリとした二重にバランスの取れた高い鼻少し朱みがかったぷっくりとした唇。生前、中々の美人さんだったことが伺える。

今は幽霊だからか瞳の黒は少し濁り肌色も白すぎて見えるが綺麗な顔立ちなので気にならない。


「つか、なんでズボン履いてないの?」

「え、だってサイズおっきいんだもん」

「な、なんか履いてるよな?」

「パンツは履いてるよ」

と回りながら言う。……なんで?

ちょっとだけ黒見えたじゃん。


あくまでも冷静を装いながら俺はレイに寝るかと尋ねる。


「うん、もう寝たい。私そのベッドね」

当たり前のように俺のベッドにダイブしてるがまあ疲れてるらしいので何も言わなくていいか。すっかり自分のベッドにしたレイを横目に俺は自部屋で時間を決めて勉強を始める。


少し経った頃、レイの声が聞こえた。

「悪い。うるさかったか?」

「ううん」

「眩しいか?電気消すか?」

「……やだ。お化け出る」

「……お前だろ」


◆◆◆


昨日の快晴とはうってかわってどしゃ降りに近いレベルの雨が降っている日曜日。マンションの五階の端の部屋では少年と幽霊少女が頭痛にうなされていた。


「うぅ…頭痛いよお、お兄ちゃん」

「俺もだ。低気圧か」

絨毯に大の字に横たわるレイ、テーブルに突っ伏す俺。まだ8時だと言うのに今日一日中何にもやる気が起きなそうだ。そういえば昨日レイと服を買いに行く約束をした事を思い出す。


「これじゃ服は買いに行けなそうだな」

「え!やだよ!行きたい!」

レイはすごい勢いで体を起こし両手を広げて言う。

「でも結構な雨だぞ?」

「私雨効かないもん!」

「俺には大ダメージだよ」

「それはお兄ちゃんの問題でしょ」

「え、やば」

わがまますぎる。これが可愛らしい女の子じゃなかったら今すぐ追い出していただろう。しかしまあ可愛いから。



少し雨が収まり頭痛も引いてきた頃俺たちは少しオシャレをして大型のショッピングモールに来ていた。『俺たち』と言うのは今から1時間前に分かったことが関わっている。



─1時間前。俺たちは朝と変わらずだらしない格好のままで居た。


「あ、雨止みそうだな」

「ほんとだ!行けるかな?」

レイの目がキラキラし出す。分かりやすくて可愛いやつだ。

「これなら行けるかもな。……ん、誰か来たな」

レイも気になって着いてきたようだ。


「……えーっと、あれ?おばさん?」

ドアの向こうには隣の部屋のおばさんが居た。

「あら、柊くんって彼女さんいたのね」

「え?……まあ」

「じゃあすぐ帰るわね。これだけ受け取って」

おばさんはりんごの入った紙袋を渡してそそくさと出ていった。俺がここに引っ越した時から色々とお世話になった人だ。

──にしても、彼女が居ると言ったか?

「ね、ねぇお兄ちゃん。私ってもしかして普通に見えてるの?」

「そんな感じだったな。忘れてたけど俺にも霊感は無いはずなんだが」


そんなこんなでレイが普通に見えてる可能性が出てきたので人間味を出すことにしたのだ。


青白い肌は少し朱くして、唇にも可愛らしいリップを塗り髪を後ろで束ね濁りがみえる瞳にはカラコンを入れた。服は男用しかないからその中でも中性的なのを選びレイに着させた。


準備を整えた俺たちは今ちょうど服屋に入ったところだった。

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