第3話:俺を誘惑するな
俺と彼女が講義を終えて構内のカフェで寛いでいた時の事。
彼女のスマホに通知音が鳴る。
『相談があるからコミュニケーションホールに来て』
友達に呼ばれ渋々、俺から離れて彼女は呼び出し場所へ向かった。
俺はグラスの中に残ったカフェオレを眺めていた。
彼女がいない事で寂しさを感じて感傷的になっていたかもしれない。
俺と彼女は求める気持ちが強すぎてお互いがいないと駄目になっている。
本当はついていこうかと思ったくらい。
「ねぇ、今、一人でしょ?」
「えっ」
「これから遊びに行かない、ふぅっ」
しなを作った女が俺の耳元で囁き、息を吹きかけてきた。
「俺は彼女を待ってるから、他をあたってくれ」
「そんなつれない事を言わないで、一緒に行こうよ」
「行かないよ」
拒否する俺を他所に女は胸元を強調して俺を見てくる。
強調するだけあって胸は大きい。だが、彼女の胸の方が形もハリも手触りも俺の為にある最高の胸だ。
そんなもので俺は誘惑されない。
席を立とうとした俺の肩に手を置き、身体を預けてこようとする。
女の肩を押さえその行動を拒む。深いスリットの入ったスカートから伸びた脚が俺の太ももを撫でていく。
「おい、いい加減しろ。手を離してくれ」
「いやよ、せっかく彼女を追い払ったのに」
「何だって」
「今頃アンタの彼女は誰もいないコミュニケーションホールで待ちぼうけよ」
「くそっ」
スマホを取り出し彼女に連絡を取ろうとしたところでスマホを奪われた。
「ダメ、言う事を聞いてついてきて」
「スマホを返せ!」
「返すと思うの?」
俺のそう言って顔を近づけてきた女は俺のスマホでその様子を撮影する。
先ほど、連絡をするためにロックを解除していた。
「どうするつもりだ」
「んふふふ〜、こうするの」
SNSで彼女に写真を送信しやがった!
「おい、返せよ!」
「だから、言うことを聞いてついてきなさい」
その間にもスマホから通知音が鳴り続けている。
早く、彼女の誤解を解かないといけないのに!
俺はこの女について行くわけには行かない。
この状況を何とかしなければ!
状況を打破する方法を必死に考える。焦るばかりで思いつかない。だが、早くしないと……
不意に俺の肩を押さえていた女の手が離れ後ろに打ちつけられるように倒れた。ピクリとしか動かない。
遅かった……
俺の肩の上から目に向かってスラリとした脚が伸びている。
俺が見間違える訳のない彼女の脚。
振り返ると表情の消えた顔で彼女は、
「あなたに群がる害虫を片付けるから少し待っていてね」
「ああ」
有無を言わせぬ雰囲気。
ピクピクしている女の腕を後ろ手に縛り、足を縛ったものと結び合わせてそこら辺に転がす。
ノートから一枚用紙を切り離し『わたしは他人の彼氏を奪おうとして失敗しました』と書き込み女の胸の部分に縫い付けた。
その姿を撮影し学内SNSへ拡散。
奇跡的に女の手に握られたままの俺のスマホに通知音がなる。
今、目の前にある状況が映し出されていた。
彼女は女に喝を入れ、覚醒させる。
「今度、こんな事をしたらこれぐらいじゃ済まないからね」
そう言ってにっこりと笑いつつ、俺のスマホにきた通知から、今の惨状の写真を女に見せる。女はブルリと震えた後、壊れた人形のようにただ首を縦に振り続ける。
「それじゃあ、私たちはこれで失礼するわね。行きましょ」
「そうだな。有難う助かったよ」
「本当だよ。写真見た時、心配したんだから。やっぱり一緒じゃなきゃ駄目なんだよ」
「俺もそう思った」
縛られた女をそのまま残し俺たちはカフェを後にした。
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