第4話 未来図は新世界の神

秀は腐っていた。


はじめてダンジョンに入ってから既に二年。その後の行動が繋がらなかった。


まず就職活動。未だにどこにも就職できていないが、気紛れに買ってみた大穴の万馬券が大当たり。そして更にその金で買った株が大当たりし、一生分の金(主観)を稼ぎ切ってしまった。


次に固有技能の訓練。人間を転移させることは未だに不可能、というより遠距離を転移させる能力がドンドン低くなっていた。その分精度は信じられないぐらい上がったが。


最後に天職を使い熟す訓練。こちらは固有技能とは根本的に異なり、回復魔法の発動の兆しすら見えない。1ヶ月で訓練に飽き、それ以降は最早天職について考えることすらやめた。およそ数年ぶりの思考停止である。


こんな生活をしていた秀であったが、それ故に新たな特技が出来た。例えばトイレで紙を使わずにスッキリできるようになったのだ。腸の中身を直接便器内に転移させることで、副次的にトイレの時間が極端に減った。更に宅配で来た段ボールの中身を転移させられるのでハサミを使わなくなった。あとは手羽先の骨を転移で外せるので良く食べるようになった。


以上が秀の二年間の成果である。そして秀は案外この生活を気に入っていた。


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実はもう一つ、この二年間で秀が得意になったことがある。それは「家事」である。ダンジョンに入った日から包丁捌きが桁違いに上手くなっていること、野菜の芯や肉の筋、魚の鱗と骨を転移で取り除けるようになったことより料理が得意になり、また外れたボタンを縫い直すために使った針と糸の動きがまるで熟練者のそれになっておりミシン要らずとなったのだ。秀はミシンを使ったことがないが。更に外干しした布団を棒で叩く時に出る音が快音となり叩く回数が減った。


他にも些細な変化が多数あり、秀は自分のことながら、なんかキショいなと思っていた。


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秀は転移の訓練を次の段階に移行させた。その名も、『オペレーションWizardry:いしのなかにいる』。転移能力を得た時から考えていた最強クラスの即死技である。これが身になれば死神の称号が付くかもしれない。いやいや俺は聖人だ、そうだろう?と自問自答した挙句、やっぱりやってみようかとなったのである。


とはいっても人間を石の中に閉じ込めるのが本来の技であるのに対し、秀は人間等の大きいものを転移させられないことから、人間の中に石を埋め込むという技を考えついた。残虐過ぎてドン引くが、それでも秀は、聖人は老衰と自己犠牲以外では死んではならぬとここ二年の内に考えを固めているので、聖人に敵対する者には死をというシンプルな思想を持つようになった。完全にヤバい宗教幹部の考え方だが、日本のサブカルチャーで英才教育を受けた秀は微塵も疑問に思うことはなかった。


そうして新世界の神となるべく秀は動き始めたのであった……!!


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