1日目夜

駅に着いた頃にはもう僕の体力は殆ど残ってはいなかった。どこか知らない路線に乗ってしらない場所に出よう。


青色の看板が目を引く私鉄に乗る。どこに行けるかは解らない。革製の財布をバックから出し、お札を2枚ほど駅員さんに手渡す。


イメージしていたものより二回りほど大きい切符が出てきた。どうやらこれが終電らしく周りには誰もいなかった。


終電にしては少し早くないかと思いつつ、田舎はそんなもんかと思考を巡らせていた。


カタコトと小気味良い音を立てて電車が進む。車窓から覗ける風景は山。緑一色だった。

青色を基調色としていた路線だったからてっきり海に近しいものだと思っていたが僕の勘違いだった。



駅員さんに海に行くかだけ聞いとけば良かったな。頭をさすりながら僕はこれもまた、一興だと流れに身を任せて居た。




そういえば食事を取るのを忘れて居たと思いバックから弁当を出した。駅弁だ。


「お、こんなところに若い衆が」


弁当を食べるつもりで割り箸を綺麗に割ろうとすると、僕の隣にどんと腰を下ろす人の姿があった。カメラを胸に掲げた大きな人だった。


「なんでこんな片田舎に?」

彼は大きな身体を少しだけこちらに向けて話しかけてきた。




話すと長くなるのですが、と前置きをし僕は今までの自分の身の振り方について少しだけ話しはじめた。







学校に懐疑的になってしまい、朝、登校する脚が動かなくなってしまったこと。出席日数が足りずに留年してしまったこと。自分だけの何かを見出したくて一人旅に出たこと。


「こんな機会にこれからの人生について見つめ直したいな。とそう思ったんです。」

カメラを掲げた彼はゆっくりと頷きやがて口を開いた。


「焦らなくても大丈夫ですよ。何かを探すのも確かに。大切ですが案外人間、灯台下暗しなものでね。もしもどうしようもなくなったら自分の一番近くを見直してあげてください。」


カメラマンの言葉が胸にストンと落ちるような気がした。


「さあ、僕は此処に用があるので失礼しますね。君の一人旅に幸があらんことを」

と言って無人駅の奥へと消えていった。




そういえば駅弁を忘れていたな。そう思い片方が台形、もう片方がすっかり尖ってしまった割り箸を手にし僕は長い暗闇の中で箸をすすめた。


弁当が空っぽになったと同時に電車の前部分が薄らと光に包まれ始める。


「次は終点、津潮町。次は津潮町」

僕以外乗って居ない電車に車掌さんのアナウンスが響く。


トンネルを抜けるとコバルトブルーの海が月明かりに照らされて顔を覗かせた。海町か。僕はガラリと様相を変えた、その景色を少しばかり期待の眼差しで見つめることにした。

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