12:新しい旅の仲間



 指が《GOOD BYE♪》に触れて、交信は終了した。

 ウィジャはマスターボードを抱えてうなだれている。若いのに一気に老けこんだようだ。

「俺は、もっと、深遠で究極の質問に答えたいぜ。不気味で悪趣味な心の内もなにもかも俺にだけささやいてほしい。そんで俺なりに答えを導きだして、そしてその答えを、盤を介して吹き込みたいんだ」

 ジャコはただの人生相談所になりつつあるウィジャをなぐさめつつ、ビビに言った。

「ウィジャくんはビビちゃんにカッコいいところを見せられなくって落ち込んでいるんだよ」

「カッコよさなんて最初から期待していないわ」とビビは言った。「だって創英角ポップ体なんだから」

 しばらくして、ビビは急に思い出したように立ち上がった。

「ダンナ様が心配してるかも。そろそろ帰らなくっちゃ!」

「既婚なんだ?」とウィジャ。

「婚約はまだ……でも、そのうち結婚するんだからねっ!」

 恥ずかしそうに赤面している。

 それから踵を返してテントに戻ろうとするビビを、ウィジャは引きとめる。

「実はさ、コイツと二人でプラネタリウムに行くつもりだったんだ。そしたら万貨店の中が異様に長いとは知らず、おそろしい冒険の旅が始まっちゃってさ。それでいま思い出しても震えるんだが、悪いドラゴンに騙されて丸呑みにされちまったわけだ。ビビさんが助けてくれなかったら、俺たちの冒険はそこで終わっていた。さっきは死の淵から救ってくれてほんとうに感謝している。なにもお返しできないのが悔しいよ」

「お返しなんていらないんだから。でも奇遇ね、私たちもプラネタリウムに行くところなの」

「え、ほんとう?」とジャコ。

「驚いた」とウィジャ。「そのダンナってのは大人か?」

「もちろんよ」

 少年二人も星を見に行くらしかった。彼らは一緒に付いていってもいいかと懇願した。大人同伴なら旅を続けられると判断したようだ。ビビは快諾した。


 三人はアグロのいるテントへ向かった。

 堅肉な体躯のアグロはそっと身体ごと振り向いたが、手の甲には二匹のテントウムシを乗せていた。

 その虫たちを、ビビと見慣れぬ少年二人にも息を弾ませながら見せつけた。

「ほら、こいつを見てくれ。テントウムシが交配活動をしているぞ。テントウムシの交配は二時間も続くんだ。でもテントウムシって半球状だろ。半球が半球にナナメに覆いかぶさってお尻を振り続けるさまはどことなく愛嬌があると思わないか。これが二時間だぜ? 笑っちゃうよな……で、そいつらだれ?」

「もう、ダンナさまったら、いやらしい!」

 ビビは顔を赤らめ、体を縦に揺らしながら憤慨していた。しかし少年二人を紹介する。

 いままでの出会いと、そして三人でしていたことを滔々と語り続ける。

 その間、ウィジャは、こっそりジャコに耳打ちした。アグロに聞かれないように低音量で言った。

「おい、アレがダンナさま? ……ヤカラとかじゃないよな?」

「ヤカラじゃないが」とアグロは返事をする。「失礼なおガキ様だな」

「げっ」

「あっ」

 少年二人は作り笑いで手を取り合っていた。

「なにも取って喰わないから安心してくれ。万貨店の中をついてくるのは構わんが、子守はできないぞ。命の保証はできない。それでもいいなら勝手にしな」

「じゃあ……付いていってもいいんですね! ありがとうございます!」

 少年たちは喜んだ。立派なオトナが近くにいるだけで、異常者に絡まれる確率が減るからだ。

 だが、ビビが注文を付けた。

「私はいつでもダンナさまと一緒にいたいの。ラブラブしていたいのね。だからアンタらは後方で最低でも20メートルは離れていてね。いい?」

「20は厳しいよ」とジャコは冷静に言う。「2メートルのまちがいじゃない?」

「なにがなんでも20よ」

「ねえ、ビビちゃん、5メートルでいいかな? どうしても安全な状態でプラネタリウムに行きたいんだ」

 ジャコは猫耳をぺたんと平たくさせた。

「どうしてもっていうなら、中間を取りましょうか?」とビビの提案。「妥協策として中間を」

「うーん、しょうがないや。20メートルと5メートルのあいだを取れば、だいたい12メートルと50センチ? だいぶ厳しいんだけど、それでいいなら」

「それがジャコ君の最終案でいいのね?」とビビ。

「やむを得ないよね」とジャコはウィジャと視線を交わす。「勝手に付いていく身だもの」

 ふっふっふ、とビビが不敵な笑みを浮かべた。

「じゃあそっちの最終案の12メートルと、私の最終案の20メートルのあいだを取って、16メートルとしましょう。最低16メートルは許可なく近づかないでね。これで決定!」

「待って?????」

「決定です」

「そ、そんな……」

 少年たちは愕然と立ち尽くしていた。


 そうして夜は更けていった。

 夜中にもいろいろな事件が起こり、翌朝ビビたちが人工キャンプ場を後にするまでに何度も眠りが妨げられ、いくらかの血が流れ、いくつかの爆弾が炸裂したが、それはまた別の話。



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