第47話 今後の話
俺と竜樹さんが恋人同士になった。そうなると、新たに出てくる問題があった。それは、共同生活についてだ。
現在は竜樹さん、倉敷先生、優介君の四人で住んでいる。俺が結婚相手を選ぶために、共同生活するのが祖父の遺言だったからである。
その中で、俺は竜樹さんを選んだ。結婚する相手として。そうなると、この同居の意味が無くなる。
でも、俺は三人との生活が好きだ。優介君と一緒に学校に行き、帰ったら倉敷先生がいる。そして竜樹さんが帰ってくるのをみんなで出迎え、三人でテーブルを囲んで夕食をとる。ずっと、こんな日々が続けばいい。そう思ったけど、これは完全な俺のわがままだ。
倉敷先生や優介君の気持ちを全く考えていない。二人は自由に生きる権利があるのに、俺のわがままで拘束出来なかった。
元々、長く続ける状況ではない。別れを覚悟しなくては。
今後の相談をするために、すぐに話し合いの場が設けられた。
「今日、話し合うのは他でもありません。今後の生活についてです」
俺は重々しい雰囲気の中で口を開いた。三人も真剣な様子で、俺が何を言おうとしているのか見守っている。
「えっと、俺と竜樹さんが交際することになり、この共同生活の必要性は無くなりました。これからどうするべきか、話をする必要があると思うんです」
倉敷先生と優介君に視線を向ける。今回の話のメインは二人だ。二人の意見が一番大事になってくる。
「倉敷先生、優介君はどう考えていますか。意見を聞かせてください」
俺の予想では、家を出ると言うと思っていた。ここに縛られる理由なんてないと。
沈黙が何秒か続き、ようやく口を開いたのは倉敷先生だった。眉を下げて、不安げな表情をしている。
「……差し出がましい意見かもしれませんが、私達が家にいることは椿君にとっては嫌なことですか?」
「えっと、どういうことですか?」
「満重君と前に話をしました。椿君が彼を選んでから。普通に考えれば、私達はすぐに出ていくべきなのでしょうね」
「でも俺達ぃ、もう少しだけここにいちゃ駄目ぇ?」
優介君は涙目だった。これは、俺が都合よく見ている夢じゃないか。いや、紛うことなき現実だ。
恐る恐る、俺の反応を窺っている。断るとでも思っているのだろうか。俺は竜樹さんを見る。彼の意見も大事だ。
視線が合うと、俺が何を望んでいるのか察したのか、眉を下げた。
「椿のしたいようにすればいい。それが俺の意見だ」
竜樹さんは、とてもいい人だ。俺の好きにさせてくれる。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、二人に視線を戻した。俺が見た途端、びくっと肩がはねる。そんなに怯えなくてもいいのに。
「俺も、もう少し四人で暮らしたいと、そう思っていたんです。二人が嫌じゃなければ、この生活を続けましょう」
「い、いいのぉ?」
「こっちからお願いしたいぐらいです。俺のわがままかもしれないのは分かっています。でも四人で暮らす時間も、俺にとっては幸せなんです」
「私達もです。……ありがとうございます」
優介君が俺に抱きついてきた。今回は竜樹さんが止めることはなかった。抱きしめられながら、彼の方を見る。
「えっと、ありがとうございます。許可してくれて」
「椿の意見は、俺の意見だって言っただろう。この生活も悪くない。結婚するまでは、四人で暮らせばいい」
無理をしているわけではなくて良かった。どうやら、みんなこの生活を気に入っていたらしい。
話し合いの結果、俺と竜樹さんが結婚をするまでは、この生活を続けることになった。父に電話で報告すると、全員がいいのなら反対はしないと言ってくれた。どこまで仲がいいのかと呆れてもいた。
一番の悩みごとが解決したので、俺達はいつも通りの日常に戻ることになった。いや、いつも通りというわけではない。
俺と竜樹さんは恋人になったのだ。家でも、たまに甘い空気になる時がある。手と手が触れ合ったり、視線が交わったり、ふとしたきっかけでだ。
そんな甘い空気になった時、ほとんどの場合で邪魔が入る。倉敷先生と優介君だった。そういう時の竜樹さんの拗ね具合といったら、俺がなだめる役目なので大変である。俺と竜樹さんの交際自体は祝福してくれているが、それでも譲れないものがあるらしい。邪魔をするのもいとわないと宣言して、竜樹さんを怒らせていた。
でも、本当にたまに誰の邪魔も入らない時がある。二人が出かけていたりすると、間に入る人はいない。
そういう時は、キスまでするようになった。最初は頬やおでこなどだったが、最近は口だ。心臓がドキドキして口から飛び出そうだけど、それ以上に幸せな気持ちでいっぱいになる。
キスをした後の竜樹さんも幸せそうで、その顔を見るだけでも胸がいっぱいだ。まだまだそれ以上先へは進めなさそうだし、こんなの小学生レベルの行為かもしれないが、俺達のペースでいいと言ってくれているので、それに甘えてゆっくりとステップアップしていっている。
一つだけ確かなのは、とても幸せだということだ。
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