第34話 微かな手がかりを  side優介





 つぅくんのことを探し始めてから、一週間が経ってしまった。それは、同時に何も手がかりがないことを意味していた。

 たっつんとまな先生は、自分達に害をなそうと考えている人を探しているけど、その中でつぅくんに手を出している人間は今のところいなかった。

 諦めることは絶対にない。でも、行き詰まっているのは確かだった。


「本当に、あいつが犯人で間違いないはずなのに……一体どこに隠れているんだ」


 絶対に助けると決めていても、ここまで情報がないと焦りが大きくなっていく。自分達のやり方は間違っているのではないか。そんな不安も出てくる。


 俺はというと、自分の不甲斐なさに叫び出しそうな気分だった。

 前は子供だったから何も出来なかった。だから今回こそは、俺が一番に見つけ出すんだと思っていた。

 二人みたいなコネはなくても、俺にしかないやり方で調べようと考えていた。SNSで情報提供を呼びかけて、つぅくんの目撃情報を探していた。色々なところから情報は集まった。でも、使えるものはなかった。

 情報を精査するのに時間がかかり、それが空振りだと分かった時の脱力感と言ったらたまらない。


「つぅくん。今どこにいるの?」


 呼びかけても、いつもみたいに返事してくれない。その事実が、どれだけの辛さなのか。みんなつぅくんがいないことで、どこか不安定にもなっていた。

 このまま何も見つからなければ、俺達は壊れる。そう自覚しながらも、手を止められなかった。


 そんな時だ。つぅくんに繋がる情報が見つかったのは。しかも俺達の誰かが見つけたのではなく、それは向こうから勝手にやってきた。

 つぅくんの情報を探して、家で作戦会議を行っていた時、来客を告げるインターホンの音が鳴った。


「誰だ?」


 ここを訪ねてくる人に、誰も心当たりがなかった。つぅくんのお父さんも、今日は来る予定じゃない。荷物が届くこともないから、間違いではないかと考えた。

 でも、もう一度インターホンが鳴らされる。


「私が出てきますね」


 まな先生が少しイライラしながら、未だに鳴り続けるインターホンを止めるために玄関に行った。


「……なんか、もめてなぁい?」


「そうだな。なんだか騒がしい」


 まな先生なら、どんな相手にでも自分の思い通りに動かせる気がするけど、今来ている人には手こずっているみたいだ。とても珍しいことなので、俺は手助けした方がいいかと玄関の方顔を出しに行く。面倒な宗教の勧誘だったら、俺が追い出そう。そういうタイプは、話が通じない人間のふりをすればいい。


「まな先生ぃ、大丈夫ぅ?」


 玄関に近づくにつれて、相手の声が凄く不快に聞こえた。胸糞悪くなる、とかそんなレベルだ。相手の方が、話が通じない人か。まな先生が手こずっているのも、しょうがない。引き返したくなったけど、一人だと大変だろうから、そっと顔を覗かせた。


 そこにはまな先生の姿と、噛み付くように騒いでいる男の人がいた。初めて見る顔だ。俺の知り合いじゃない。年齢から見ると、たっつんやまな先生の知り合いだ。

 顔は、人によっては綺麗と言われるかもしれないけど、俺は嫌い。つぅくんの方が、比べるまでもないぐらい可愛くて綺麗だった。そんな男が、迷惑なぐらい騒いでいる。第一印象は最悪だ。


「どちら様ぁ?」


 嫌な気持ちをグッとこらえて聞くと、視線が合った。俺を見た途端、媚びを売る目になったのが気持ち悪い。やっぱり嫌いだ。


「あのー。突然お邪魔してごめんなさい。実はとある人に会いたくて来たんですけど。竜樹さんいます?」


 たっつんの知り合いだったか。でも、まさか友達とは言わないと信じたい。もしそうだったら、たっつんにも幻滅しそうだ。


「先ほどから、須藤さんは今いないと言っているでしょう。約束はしているんですか?」


「そんなわけないです。絶対にいます。僕、知っているんですから。話があるんです。早く呼んできてください」


 可哀想に。絶対にストーカーだ。間違いない。きっと付きまとわれている。それをまな先生も察したから、玄関で帰そうとしているんだ。俺も手伝おう。


「たっつんならいないよぉ」


「何してんだ」


「もう。台無しぃ」


 せっかくごまかそうとしていたのに、あまりにも遅かったのか、たっつんが痺れを切らして来てしまった。全く、ちゃんと状況を分かってほしい。


「あ? なんだよ」


「竜樹さん!」


 ほら。やっぱり絡まれた。俺とまな先生は助けようとしたのに、もう知らない。


「竜樹さん! 僕です!」


「あ? 誰だ?」


 酷い言い方だけど、俺はスッとした。相手は驚きすぎて、口を開いたまま固まっている。


「本当に知らない人なんですか?」


「ああ、知らねえ。勧誘か?」


 本当は知り合いだろう。でも覚えていないのは、そこまで重要な人じゃないからだ。

 それなら、さらに早く帰ってもらわなきゃ。

 俺とまな先生は目線で話をすると、相手をしめだすために動こうとした。でもその前に、相手が口を開いた。


「僕のこと覚えていないなんて、そんな嘘ですよね? 竜樹さんのために、邪魔者は消したんですよ!」


 話が変わった。こいつには、少し話を聞く必要がある。俺達はすぐにそれを把握して、やっと掴めそうな手がかりを逃がさないために、玄関の扉を素早く閉めた。





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