第27話 竜樹さんと思い出
計画を立ててくれた倉敷先生には申し訳ないが、ああやって過ごした時間の方が俺にとっては良かった。無事に締切にも間に合ったので、万々歳である。あんなにも近くで執筆の様子を見られたなんて、とてもいい経験になった。その時の短編が掲載される予定の雑誌は、すでに予約済みである。
優介君と倉敷先生、それぞれ中身が違っていた。それが良かった。だから竜樹さんとは、どんなふうになるのかとドキドキしていた。
しかしこれは予想外だ。
「えっと……本当にここで合っているんですよね?」
着いた場所を見て、思わず聞いてしまった。
竜樹さんのことだから、高級そうなお店に連れていかれると、勝手に考えていた。ドレスコードが必要か聞いた際に、ニヤリと笑っていた時点で気づくべきだった。
「ここじゃ不満か?」
驚いている俺を見て、まるでイタズラが成功した子供みたいに満足している竜樹さんは、意地悪く尋ねてきた。これでは俺がわがままみたいだ。
「そんなことないです。ただ予想外だっただけで」
俺はちらりと視線を向けた。そこは、どこからどう見ても公園だった。特に代わり映えのない、よくあるタイプのものだ。
中にはブランコ、ジャングルジム、滑り台、鉄棒などのメジャーな遊具があり、端の方には休むための東屋まであった。規模としては、まあ大きい方か。
それにしても竜樹さんと公園が、全く結びつかない。どうしてここに連れてこられたのか、全然分からなかった。中に入れず、入口で戸惑っていると竜樹さんがニヤニヤした笑いを止めてくれる。
「悪い悪い。嫌がらせのために連れてきたわけじゃない。とりあえず、中に入らないか?」
「分かりました」
からかわれているわけではないのなら、なにかここにきた目的があるわけだ。わざわざデートの日に連れてくるほどの何かが。
どこか緊張しながら、いつの間にか竜樹さんに手を引かれて中へと進む。
中へ入っても、他と違ったところがあるようには思えなかった。おそらく人払いをしているんだろう、昼に近い時間なのにも関わらず人が誰もいない。普通だったら、子供達が遊んでいるはずだ。可哀想なことをしたと思うが、大の大人が二人いたら通報される可能性が高いので、こっちの方がありがたい。
子供用の遊具は、大人にとっては小さい。まさかこれから遊ぶとは言わないだろうが、思わず壊したりしないだろうかと確認してしまった。
「なんだ? 遊びたいのか?」
「違います。早く座りましょう」
確認していたことが恥ずかしくなって、今度は逆に俺が腕を引っ張って東屋にはいる。そして勢いよく座った。
「遊びに来たわけじゃないみたいですけど、どうしてここに連れてきたんですか?」
皮肉を交えつつ、俺はここに連れてきた目的を尋ねる。どうせ考えても思い浮かばないのだから、さっさと聞いてしまった方が悩まなくて済む。
公園に視線を向けた竜樹さんは、どこか眩しそうに目を細める。
「ここは、昔四人で遊んでいたところだ」
「この公園がですか?」
言われても全く分からなかった。遊んでいたとはいえ、もう十年以上前の話だ。俺みたいな状態でなかったとしても、覚えていなくても無理はない。
「俺も久しぶりに来たんだが、遊具とかは新しくなっているのが多いな。それか修理をして綺麗になったのか、記憶の中よりも随分と様変わりしている」
「ここで、何をして遊んでいたんですか?」
「そうだな……他愛ないものだった。鬼ごっこ、かくれんぼ、遊具を使って暴れ回っていた。大きな怪我はしなかったが、いつもすり傷だらけだった」
「全く想像できないです」
俺と優介君はまだいいが、それに付き合わせてしまったのは申し訳なくなってくる。俺みたいな子供よりも、同世代と遊びたい時期だったはずだ。それなのに鬼ごっこなんて、大変だっただろう。
しかも小さい子だから、目を離していたら何をしでかすか分からない。結局、誘拐までされてしまった。その時の心労を思うと、埋め合わせでもするべきだろうか。
「みんなで過ごす時間が、とてもかけがえのないものだと分かったのは、それが無くなってからだった。月並みな表現かもしれないがな」
「……竜樹さん、やっぱり少し遊びませんか」
どこか寂しそうな姿に、俺はじっとしていられなくなった。立ち上がって、答えを聞く前に腕を引っ張る。
とにかく、悲しい思い出のままにさせたくなかった。楽しい思い出に作り変えたかった。
「さ、さっきのは冗談だぞ?」
さすがに遊ぶのは予想外だったのか、取り乱している姿が面白い。
俺は腕を引っ張ったまま、とりあえずブランコに連れていった。
「どっちが高くこげるか競争しましょう」
戸惑っていた竜樹さんは、俺が冗談を言っているのではないと察すると口角を上げた。
「そんなこと言って、俺に勝てると思っているのか?」
「絶対に負けませんから!」
竜樹さんの思い出作りのためだったのに、いつの間にか負けず嫌いを発揮して、本気で勝負に挑んでいた。竜樹さんが喜んでいたから、よしとしよう。
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