第25話 優介君とのデート
「まだ、どこに行くのか教えてもらえないのかな?」
電車に揺られながら、俺は隣に立つ優介君に尋ねる。
「うん。着いてからのお楽しみだよぉ」
「そっか」
電車はあまり乗らないから、どこか緊張してしまう。でも、外の景色を眺めるのは楽しい。すごい速さで景色が流れていき、それを追っていく。たまに珍しい建物や看板が見えて、それも面白かった。
優介君と話をしながら外を見ていると、そっと手を握られる。改札に乗る時に繋いだままではいられず離していたのだが、もしかして寂しかったのだろうか。
「嫌だったぁ?」
じっと見つめすぎていたのか、不安そうな表情になる。
「ううん。デートだから、ずっとこうしてようか」
「そっかぁ。デートだもんねぇ」
俺達が手を握っていたところで、誰も気にする人はいない。むしろ微笑ましげに見られる。学生カップルだと思われているんだろう。あながち間違ってもいない。正式な恋人ではないが、今はデートだ。
「次で降りるよぉ」
「分かった」
降りると言われた駅名で、なんとなくどこに行くのか見当がついた。でも、水を差すようなことはしたくないから、何も言わずに黙っておく。
手を引いてくれる優介君から、かすかに鼻歌が聞こえてくる。無意識だとすれば、どれだけテンションが上がっているのだろうか。俺も自然と笑みがこぼれた。
「じゃじゃーん。とうちゃーく」
歩いている途中でも見えていたけど、いざ目の前に来ると感動を覚える。
優介君が連れてきてくれたのは、遊園地だった。でもメジャーなものというよりは、古くからある場所だった。俺も小学生の頃に、学校の行事で来たことがある。その時以来だ。
「遊園地なんて久しぶりだな……」
俺の記憶よりも、リニューアルしたのか外観が違っている。きっと中にある乗り物も変わって、懐かしさはそこまで感じ無さそうだ。
「とにかく入ってみよぉ」
「うん」
遊園地なんて、本当にデートだ。入園する時も、係員の人に素敵な一日を楽しんでくださいと言われ、自然と顔が赤くなった。優介君がからかってこなくて本当に助かった。と思ったら、彼の顔も赤くなっていた。照れていたらしい。
二人して顔を赤くしながら、中へと入って行く俺達はきっと誰から見てもカップルだった。
最初は照れてぎこちなかったけど、遊んでいくうちに緊張感はどこかげ吹っ飛んでいた。優介君も俺も乗れないものはなかったから、さらに楽しめた。
全部を制覇すると決めてからは、子供用のでも手当たり次第に乗っていった。いつの間にか、自分達も子供の頃に戻ったような気分になっていた。
「あははぁ。楽しいねぇ!」
「うん! 楽しい!」
何をしてても笑いが止まらなくて、どんどんテンションがおかしなことになる。後で後悔しそうなのに、マスコットキャラの帽子まで買ってしまった。こういうところでだからこそ、できることだった。
楽しい時間が終わらなければいい。そう願っても、いやそう思えば思うほど、あっという間にすぎてしまった。
気がつけば、外が随分と暗くなっていた。あと一、二時間ほどで真っ暗になってしまうだろう。優介君もどこか寂しそうな顔をしている。
俺はずっと握ったままだった手を引っ張る。そうすれば、視線がこちらに向いた。
「最後に、あれに乗ろう」
そう言って指したのは、観覧車だった。まだ乗っていない最後の乗り物だ。なんとなく、最後までとっておいた。
観覧車を見上げて、優介君は重々しく頷く。
「うん。行こっかぁ」
その緊張が伝わってきて、握った手に力が入った。
観覧車の並ぶ列には、時間帯もあるかもしれないが、カップルが多いように感じられた。薄暗くなっているからか行動が大胆になっていて、人目を気にせずにいちゃついている。
前も後ろもそんな感じの人達で、どこか気まずくなった。優介君は気にしていないのか、俺の手を振り回して笑っていた。そうしてくれているから、周りを気にする暇もなくなってくる。たぶん、俺のためだろう。
「観覧車なんて、いつぶりかなぁ」
ゆっくりと動いていく観覧車を眺めて、優介君がしみじみと呟いた。俺も記憶の限りでは、観覧車に乗った覚えがない。でも初めてとは思えなかった。
思い出そうとしていると、自分達の番になって考えるのを中断するしかなくなった。
向かい合って座り、観覧車が動き出した。明かりがつき始めた街を、無言で眺める。
そして会話がないまま、観覧車は一番上に到達しかけた。
「つぅくん。今日はありがとうねぇ」
突然口を開いた優介君は、俺の方を真剣な眼差しで見ていた。
「お礼を言うのは俺の方だよ。今日はすごく楽しかった」
計画を立ててくれたのは優介君で、俺は着いてきただけだ。何もしていない。
「ううん。こうして出かけられたことがぁ、俺にとっては嬉しいことなんだよぉ」
視線が熱い。知らず知らずのうちに、息をのんでいた。
「俺、本当につぅくんが好き。大好き。だから、また一緒に遊んでほしいなぁ」
「そんなの、いいに決まっている」
「そっかぁ。ありがとう」
優介君の顔が近づいてくる。俺は思わず目を閉じた。キスされる。でも、その感触はおでこだった。
「今はぁ、ここまでぇ」
彼の声は、どこか苦しそうにも聞こえた。
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